表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/136

相談①


 「身分証を見せてください。」

 

 本当は寒かったので車に乗りたかったのだが、彼女が警戒すると思い、俺は車から取って来た膝掛け毛布を歩道の縁石に座っていた彼女に自販機で買った温かい飲み物と一緒に渡しながら、


 「意外としっかりしてるね。」


 と笑い、財布から名刺、免許証、警察無線の免許証を見せると、


 「警察手帳はないんですか?」


と聞いてきたので、


 「あれは仕事中以外は警察署に預けないといけないんだ、悪用されると困るから。」


 「つまり、今みたいな状況で悪い事に使うんですね。」


 「イヤイヤ、勘弁してください、何なら写真撮ってもいいから、通報だけはしないでね、俺クビになっちゃう。」


 彼女はポケットからスマホを取り出すと、本当に写真を撮ろうとした。


 マジか。


 「免許証だけは住所は一部隠させて、それSNSとかに晒されたら困る。」


 指で住所の一部を隠した免許証の写真を撮ると彼女は、


 「そうならない様に言動に注意してくださいね、私こんな山の中で襲われたくないから…

 はい、パソコンに送信しておいたので、もう悪い事は出来ませんよ。」


 …完全に変質者扱いだな、これがもしイケメンとかだったら対応は違うのだろうか。 


 「…それで、今日はどうしてこんな夜中に大涌谷ここに来たのかな…?」


 「…………さっきイジメられてたって言ってましたよね、良かったら先にそのお話を聞かせてもらえませんか…?」


 その後彼女は俯き、黙り始めた。

 突然見ず知らずの他人に何か辛い話をするのは嫌なんだろう、俺は自分の過去の話を先にする事にした。


 理由はもう記憶にないが、小学校高学年で暴力を含むイジメを受けた事、気が弱くて仕返しも出来ず泣き虫で、それを見かねた警察官の伯父が、家の近くの警察署の少年柔道部を紹介してくれて入部し、ガタイは良くなったが相変わらず気が弱いままだった事、中学生になってイジメっ子とクラスが替わってから一時期平穏になったが、その後学校の廊下でバッタリ会った時にまたイジられたため、何でこんな馬鹿野郎に今までいい様にヤラれてたんだろう、とその時ふと我に返り、


 「バーカ。」


 と言ってみたところ、次の休み時間に廊下で7人位に取り囲まれた事、


 「調子に乗ってんじゃねーよ、やっちまうか。」


 とニヤつくイジメっ子を前に、もう後に退けなくて覚悟を決めて、


 「やるんならやってやるよ!」


 と啖呵を切ったところ、何故かスゴスゴと全員帰って行った事、その後で恐らく警察署で柔道部に入っている俺が本気で暴れたら割に合わないと諦めたらしいと判った事、その後絡まれなくなった事、今度は高校に入ったら、また知らない奴等からのイジメが始まった事、クラスの後ろから悪口やブサイクな顔をバカにする絵が描かれた紙が何度も送られて来る事、中学の時みたいに啖呵を切ればまた収まるかもと思い、授業中に教壇に立って、


 「こんなくだらない事やってる奴、出て来いよ!

 出て来れねーのか!

 出て来れねーならやるんじゃねーよ!」


 と言ってみたが、先生は唖然としながらもスルー、そしてイジメは直接ではなく、物や鞄の中の金をを盗まれたり、木製の下駄箱の俺の場所に彫刻刀か何かで悪口を彫られたり、靴の中に大量の画鋲を入れられたり、トイレから教室に帰ると筆箱が瞬間接着剤でフタを開かなくされたりと間接的なものになり、犯人は何となく判るがハッキリせず、直接仕返しも出来ないまま陰険極まりないやり方で3年間続いた事、先生に事実を告げるも、逃げるな、というだけで何もしない事、俺もこんな卑怯なやり方に絶対に負ける訳にはいかないと頑張って我慢して3年間通った事、この3年間で、こんな卑怯で理不尽な加害者がのうのうと社会に出て生きて行ける世の中があっていいのだろうか、何か弱い立場の被害者を、少しでも救う手助けが出来ないだろうか…と警察官を目指した事、試験に受かって警察学校に入り、卒業して実際に働くも、疑わしきは罰せず、証拠がないとどうにもならない事、現実は理想で思っていた様にはいかない事、警察官は、決してスーパーマンの様に何でも解決は出来ない事、一所懸命に仕事をしても世間一般から嫌われ、叩かれ、蔑まれ、現実を知ったブサイクな男はストレス解消のため、アチコチに夜な夜なドライブをしている事、今日は大涌谷に星を見に来た事、駐車場で寝転がっていたら君が来た事、もしかしたら自殺企図じさつきとではないかと心配になり力になれないかと声を掛けた事…


 俺の半生の殆ど全てを簡単に話したところで彼女を見たところ、彼女はまたも泣いていた。


 「あぁ何かごめん、最後の方はもう俺の愚痴になっちゃったね、でも泣くところあった?」


 ハンカチを差し出しながら聞くと彼女はハンカチを受け取り涙を拭きながら、


 「貴方が余りにも可哀想で…」


 「本気で言わないで、俺本当に惨め!?」


 俺の心の中は、大雨洪水注意報だよ!


 「プッ…!」


 彼女は泣いていたと思ったら、今度は突然吹き出した。


 「君は泣いたり笑ったり、感情の移り変わりが激しいね…」


 「いや、貴方の顔の感情の移り変わりの方がオカシイと思いますけど。」


 「それ本気で言ってるよね、もう俺がブサイクだから笑えるって本気で言ってるよね!?」


 「ブ、ブサ、ブサ、ブサイクというか、と、特徴的なお顔をされてますよね…www」


 「そんなDJみたいにブサイクな所だけ繰り返さなくてもいいと思うんだが(泣)」


 俺の心の中は大雨洪水警報が発令されて川が氾濫しちゃったよ!


 彼女は爆笑、俺の顔は引きつった泣き笑い。


 いい笑顔だ、泣いてる顔より、君には笑顔がよく似合う。


 そろそろ本題に入りますか。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ