天窓洞
俺達は今日のエキストラ代を貰い、今度こそオネェ様方とお別れをした。
ドラマが本格始動する事になったら電話をくれるそうだ。
遊覧船の窓口でチケットを買い、船着場で並んで待つ。
客は10名位は居そうだ。
小型船に乗り込み、最後尾のデッキにある客席に有希と並んで座る。
船が動き出した、エンジンの振動が来る。
ゆっくりと船着場から離れると段々スピードを上げて行く。
船に乗る前に陸から波を見ていたら大した事は無かったのに、実際に乗ってみるとスゴく揺れる。
俺はビビったが、有希もかなりビビっていて、余裕が無さそうに俺の左腕にしっかりとしがみついている。
俺はスマホで有希のビビった顔を動画と写真に収めた。
暫く乗っていると岩場が現れ、岩場スレスレにゆっくりと近付いていく。
すると、ポッカリと岩場に口を開けた空間が現れた。
船はゆっくりと中へ入って行く。
天窓が見えて来る。
ちょっとした冒険をしているみたいでワクワクして楽しいし、海水の色がとても美しい、有希もポーッとしてその光景を見ていた。
俺はまたその顔を動画と写真に撮る。
船は天窓洞の中を折り返して船着場へ戻って行く。
また有希の色んな顔が見れた、来て良かったな。
「綺麗だったね…。」
「あぁ、綺麗だったな。」
「お兄ちゃん、この船は初めて乗ったの?」
「前回友達と来た時は海が荒れていて船は欠航していたから、俺も今日初めて乗った。」
「親友が2人いるんだっけ?何処か行く時はいつもその人達と一緒なんだね。」
「あぁ、そうだな。
逆に言えば、俺にはその2人の親友しか居なかったからな。」
「どうやって友達になったの?」
「俺が高校でイジメを受けて孤立している時、一緒に昼御飯食べようって誘ってくれたんだ。
俺にとっては一生の友達だよ。」
「私にもそんな友達出来るかな…?」
「あぁ、いつか出来るさ、有希なら。
出会いを大切にな。」
「うん、そうだね。
私はお兄ちゃんと出逢えたしね。」
「…最初は怖いって言われたけどな。」
「…お兄ちゃん、ソレ結構根に持つよね。」
「俺、言われた事って結構忘れないんだよね。
仕事中、酔っ払いが公園で夜中に騒いでて、通報が入ったから静かにして欲しいって頼んだら、お前の家まで付けて行って家に火を着けるぞ、って1時間くらい絡まれたんだけど…
その時言われた言葉を時々思い出すと寝れなくなったりするんだ…。」
「それ職業病だよね、お兄ちゃんかわいそう…。」
有希が俺の頭をナデナデして来る。
あまり撫でられる経験が無いので、暫くそのまま撫でられていると、段々激しくなって来て、今は両手でワシワシと撫でられている。
「おー、ヨシヨシ。
んー、ヨシヨシ。」
「…俺は犬じゃ無いぞ。
ちなみに俺はネコ派だ。」
「んー、いい子だねー、ホレホレ。」
有希は頭を撫でるのを止め、今度は俺の顎の下を撫でて来た。
んー…あんまり気持ち良くない。
仕返しだ、俺は有希の脇に手を伸ばして指一本で軽く突いた。
「ひゃっ!」
有希が大きい声を上げたので、周りが一斉にコチラを見る。
「「…スミマセーン。」」
有希がプクッと頬を膨らませて、俺の肩を軽くひっぱたいて来た、可愛い。
船が船着場に着いたので俺達は船を降りたが、軽く平衡感覚がおかしくなっていた。
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今遊覧船の事故がニュース等で報道されていますので自粛しようかとも思いましたが、このエピソードは遊覧船の事故以前に考えていたものであり、物語的に書かないと繋がらないかとも思い、公開する事にしました。
お亡くなりになった方々の御冥福をお祈りいたします。




