堂ヶ島
結局午前中だけなら、という条件でまたエキストラを演る事になった。
その後天窓洞を遊覧船で見に行くのが今日のメインだ。
天窓洞とは海の中に出来た洞窟の天井が丸く抜け落ち、その暗い洞窟の中に天井から光の帯が海面まで差し込み神秘的な光景が見られる場所で、別名青の洞窟と呼ばれている。
この天窓洞は堂ヶ島遊歩道のコース上にあり、天窓洞を上からも見ることができる。
今日の撮影は遊覧船の乗り場付近を歩く通行人の役だ。
俺は顔出しNGなのでカメラを背面にして遠ざかる通行人として有希と腕を組みながら何度も何度も歩いた。
日野がNGを連発したので、生温かい目で見てやった。
アイツ、さすが芸能人だけあってメンタル強いな、昨日のカラオケの事は一切無かった様に振る舞っている。
ならば宴会場でもシカトしておいてくれればよかったのに…と考えたが、アイツがカラオケバトルを提案して来なければ俺も歌手として歌う機会を貰えなかったので、その点だけは感謝している。
まだ歌えるかは確定してないけどな(笑)。
有希は待ち時間の間に日傘を開いていた。
俺のプレゼントした日傘だ。
「有希、使ってくれてるんだね、ありがとう。
似合ってるよ。」
「うん、これが有ると無いとじゃ全然違うんだよ、もう手放せないかもw
こちらこそ本当にありがとう。」
そこに高坂さんが近寄って来た。
「有希ちゃん、綺麗な柄の日傘だね、何処で買ったの?
私もお揃いの欲しい。」
「これはね、芦ノ湖にある喫茶店の雑貨売場で売ってたの。
真之さんにプレゼントしてもらったんだよ。」
「あー、ひょっとしたら、あのホテルの系列のボート乗り場の横にある2階建ての?」
「そう、よく知ってるね。
行ったことある?」
「あるよ、あのお店の紅茶とケーキ、美味しいよねー。」
2人とも家が近いって言ってたから、地元の話題はよく知ってるんだろうな。俺は、
「今日有希の家に帰るから、もしまだ売ってたら買っておくけど、どうする?」
「えー、真之さんのプレゼント?やった!」
俺の袖を掴みながらの上目遣い。
あ…れ…?まさかの真之さん呼び?
この子は女優さんだけあって、上目遣いの使い方をよく知っている。
それを見た有希が高坂さんからは見えない俺の背中部分をつねって来た。
「あー!イタイ…イ、イタリア製だったかな、あの日傘…
もし買えたら有希に渡すから、受け渡しはふ…2人で考えてくれるかな?」
そこでオネェ様から撮影再開の声が掛かった。
「うん、有希ちゃんもありがとね、また連絡するね。」
高坂さんは少し歩いた後コチラを振り返り、俺にウインクをしながらペロッと舌を出して笑っていた。
これは、からかわれたのかな?
「おー兄ちゃーん…?」
有希にまたもや背中をつねられた。
「だ、だって、有希とお揃いが欲しいって言ったから、有希と仲良くしてほしいと思って…
まさか買わされるとは思ってなかったけど。
それに俺が受け渡しするワケじゃないから、カンベンして。」
「そっか…お兄ちゃん、気を遣ってくれたんだね…ありがと。」
「良かったな、友達が出来て…。
大事にするんだよ。」
…ん?なんか俺、つねられ損じゃね?




