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4話 深夜の電話

大学を卒業した後・・・


俺は就職に伴い、新たな街へ引っ越して一人暮らしをする事になった。


仕事柄、家に固定電話が必要だったので早速契約した。


新しく貰った電話番号をメモする。


後で知ったのだが、固定電話は地域によって上6桁までの番号が被るらしい。

実際、近所のお店の看板をみると、上6桁までは俺の番号と同じだった。


へえ。


・・・ならこの番号って、以前この近所に住んでた誰かの番号だったのかもな。


なんとなく、そんな考えが頭をよぎった。


そして、新生活が始まり数週間後。

まだ生活にもあまり慣れていない頃の事だった。


プルルルルル・・・


プルルルルル・・・


夜中に突然、電話が鳴った。


時計を見ると、深夜2時だ。


当然、外はまだ真っ暗。


俺の部屋は賃貸アパートで壁も薄い。


「こんな夜更けに誰だよ・・・」


カチンと来ながらも近所迷惑なので受話器を取った。


「・・・もしもし?」


「あ・・・あ・・・い・・・あ・・・い・・・あつい・・・」


男の声だった。

くぐもった声でよく聞き取れないが、

どうも「あつい」と言っているようだ。しかしそれも確実じゃない。

それ程に聞き取りづらかったのだ。


ガチャリ・・・


俺はすぐに受話器を置いた。


「イタズラかよ!」


こっちは眠いってのに全く!


そして俺は再び眠りについた。


疲れていたので、またすぐに眠れたようだった。


プルルルルル・・・


プルルルルル・・・


「何なんだよ全く!」


時計は深夜4時。


こんな時間に電話なんて・・・


完全にイタズラだろう。

しかも絶対にさっきの男だろこれ。


俺はイラついて乱暴に受話器を取った。


「もしもし!」


すると男の声で・・・


「あの・・・おたく、どちら様?」


向こうからそう聞かれた。


この言葉で俺はブチ切れた。


「はあ?そっちが電話して来たんでしょうが!そっちこそ誰なんだよ?!」


すると男はこう言った。


「警察ですが?」


「はあ?こんな深夜に警察が何の用なんですか?!」


完全にイタズラ電話だと思っていたので、警察と聞いて完全に不意をつかれた。


そういえば、電話口の声は、男ではあるが声が若い。


最初の声は年配だ。

しかもワザと苦しげな声を作っていて正直、何を言ってるのか分からなかった。


つまり、全然違った。


全く意味が分からないのと、寝起きな事も加わって、混乱で全く頭がついて来ていなかった。


そんな中、電話越しの警官はこう言った。


「○○○町のアパートで火事がありましてね。焼死した老人のズボンのポケットにそちらの番号が書かれたメモが入ってたんですよ。それで念の為にかけてみたんです」


「そ、そ、そう・・・だったんですね・・・」


めちゃくちゃ驚いた。


こんな偶然あるか?


何で俺の電話番号が書かれたメモがその人のポケットに入ってるんだよ?


さっき警官が言った○○○町ってのは隣町だ。


そもそも俺はかなり遠くから引っ越して来たばかりで、この辺りに年配の知り合いなんていないし、職場の同僚も全員若い。


つまり、亡くなった老人は確実に俺の知り合いではないのだ。


全く訳が分からない。


その後、警官と話をして、俺が引っ越して来たばかりで、この番号になったばかりだと分かると警官は合点がいったようにこう言った。


「多分、この番号の前の持ち主がこの老人なのでしょう。特に事件性も無さそうですし、もしかするとまたおかけするかもしれませんが、あまりお気になさらず。夜分失礼しました」


しかしこうなって来ると、さっきの電話がイタズラだとは思えなくなって来た。


だって、年配の男の声で「あつい」って言ってたんだぞ?

確かに声はよく聞き取れ無かった。

でも、こんな事があった後なのだ。

やはり「あつい」って言ってたような気がした。


俺はさっきの電話の事を警官へ話した。


すると、


「分かりました。そのお話は参考にさせて頂きます」


そう言って電話は切れた。


勿論、その後眠れなかったのは言うまでもない。


そして翌日。


仕事から帰った夜8時頃、昨日の警官から電話がかかって来た。


「昨日のお話の件ですが・・・変なんですよ。亡くなった老人、固定電話も携帯電話も持っていなかったんですよね」


「はあ?て事は・・・つまり、どういう事なんでしょうか?」


警官はそれには答えず話を続けた。


「それにもう一つおかしな点がありましてね。実は火事があったのは深夜1時なんです。まだ正確な結果は出ていないんですがね。おそらく老人は火事になってすぐに亡くなっている筈なんですよ。つまり深夜2時にその老人があなたに電話したってのは、ありえないんです」


「じゃあ・・・あの電話は?」


「まあ・・・火事とは関係のない単なるイタズラ電話って事になりますね」


「そんな偶然あるんですか?あの時、『あつい』って言ってたんですよ?」


「まあ・・・事実は小説より奇なりって言葉もありますし。あまりお気になさらない方が良いですよ?」


そう言って電話は切れた。


その日の深夜・・・


プルルルルル・・・


びくっ!!!


めちゃくちゃ驚いて跳ね起きた。


まさか・・・


俺は恐る恐る受話器を取った。


「あつい・・・あつい・・・」


ガチャリ!


電話を切った。


切って直ぐに受話器を上げて話し中の状態にした。


これで電話が鳴る事は無いだろう。


時計を見ると、深夜2時だった。


背筋がゾクリとして、俺は布団を頭まですっぽりかぶった。


こりゃもう朝まで眠れないな・・・


そう思ったがいつのまにか寝ていたらしい。


そして翌日の夜・・・俺は寝る前にあらかじめ受話器を上げておいた。


これでもう電話が鳴る事は無いだろう。


そして深夜・・・


どうも焦げ臭い。


徐々に目が覚めて来た。


するとハッキリその臭いは俺の部屋に充満していた。


「火事!!」


俺は飛び起き、部屋中を探した。


しかし、火事どころか、部屋はいつもと何も変わらなかった。


そしていつの間にか焦臭さも消えていた。


一応、外に出て近所も見てみたが、どこかが燃えている様子は無かった。


時計を見ると、やはり深夜2時だった。


次の日も次の日も、深夜2時になると焦げた臭いが漂って来た。


そのつど飛び起きて電気をつけると、なぜか臭いはピタリと止まるのだった。


そして遂に・・・


最初の電話から6日後の深夜・・・


その日の俺は、起きていた。


寝ているつもりではあったのだが、心のどこかで深夜2時を待ち構えていたのだろう。

緊張でパッと目が覚めたのだ。


すると・・・


・・・来た!


例の臭いだ。


いつもは、焦げ臭くなるとすぐに飛び起きて電気をつける。

すると臭いはスッと消えてゆく。


そして俺はすぐに電気を消して寝直すのだ。


一度消えれば臭いは戻って来ない。


しかし、今日はふと、この臭いを我慢したらどうなるのか気になった。


火事でないのは確実だし、少し様子を見てみよう。


臭いはどんどん充満してゆくが、俺は布団から出なかった。


すると・・・


ビタッ・・・ビタッ・・・廊下の向こうから何かが近づいて来る音がした。


俺はすぐに知らんぷりした事を後悔した。


しかし、もう遅かった。

体が金縛りになって動かなかったのだ。


ビタッ・・・ビタッ・・・


音はどんどん近づいて来た。


・・・やめろ!やめてくれ!来ないでくれ!


必死に心で訴えるが、音は消えない。


そして遂に、俺の真横まで気配が近づいて来たのだった。

その瞬間、さっきまでとは比べ物にならない強烈な焦げ臭さが俺の鼻を突いた。


・・・来たああああ!!!消えてくれ!早く消えてくれ!!!


「あつい・・・あつい・・・」


俺の耳元でその声がした。


・・・お願いします消えてくださいお願します消えください・・・


俺は念仏のように心でそう唱えた。

まだ体は動かない。


声は聞こえ続ける。


しかし、恐怖の中で俺は少し気になり始めた。


以前はすぐに電話を切ったので分からなかったのだが、声は耳元で「あつい」の続きの言葉を(うめ)き始めていたのだ。


「あつい・・・あ・・け・・・じ・・・な・・・」


声は容赦なく続ける。


「・・・あの・・・け・・・じる・・・な・・・」


「あつい・・・あの・・・しんじ・・・るな・・・」


そして、やっと言葉の意味を理解した。


「あいつ・・・あの・・・けいかんを・・・しんじるな」


ゾゾゾゾゾゾ!!!


全身の鳥肌が逆立つ感覚がした。


「あつい」と思っていたのは、「あいつ」だったのだ。


火事と聞いた事で、よく聞き取れなかった「あいつ」を「あつい」と思い込んでしまっていたのだ。


そして、続く言葉は・・・


「あの警官を信じるな」


それって、電話をかけて来た警官の事だよな?


翌日、俺は仕事を休んで警察署へ行った。


そして・・・


電話があったあの日に遭遇した出来事を話したのだった。


すると対応してくれた警官はこう言った。


「えー、その日、○○○町で火事は起こっていませんね」


「は?」


「というかこの1年、○○○町で火事は起こっていないんですよ」


俺はあの警官の話をしたが、電話越しだけだったので、相手の名前も分からず、


「イタズラ電話でしょう。頻繁に続くようでしたらまたご相談下さい」


と言われ、終わってしまった。


・・・イタズラ?じゃああの耳元の声は何だったんだよ!?


俺は速攻でアパートを引っ越した。


そして職場に無理を言って、固定電話を解約したのだった。

Twitter(物語の更新情報などを主に呟きます)

https://mobile.twitter.com/Kano_Shimari

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