【後日談】その後のなんとはない話2
もちろん猛抗議して手荷物をまとめてから勝手に適当な隅っこの部屋に居座ろうかとも思ったのだけれど、
「お嬢様、警備上こちらが一番安全な客室となっておりますので」
と言われてしまうと私は従わざるを得ないのだった。
なぜなら、私が結婚するよりも先に公爵家に住むことになったのも「警備上」の問題だったから……。
さすがにこの国で堂々と「魔女」だと表明した私は、いくら公爵と王太子が認めると表明しても、それでも「魔女」に対する偏見を持つ人たちからの攻撃の可能性が無いとは言えなかった。
「魔女」を無条件に恐れ、怖さのあまりに徹底的に拒否する人たちは当然いまだにたくさんいるのだ。
いくら貴族のどの家でも少なくとも一人か二人は「魔女」を生み出しているだろうとはいえ、魔力を持たない人たちの中には身内だろうと他人だろうと、とにかく「魔女」を攻撃して排除しようとする人たちが実際にいるのである。
悲しい話だが「魔女」が生まれた時、あのデ・ロスティ学院に送られる「魔女」ばかりではなく、密かに「無かったこと」にされる場合もあるとも聞いている。
それほど自分の身内に「魔女」がいることを許せない人もいるのだ。ましてや身内でなければ、もっとその存在が許せないという人たちは、どんなに権力のある人たちがそれはいけないと言ったところで、そうそうすぐにはいなくなるものではない。
価値観を正反対にひっくり返すことは、誰にとっても難しいのだから。
そんな過激な人たちからの攻撃を避けるには、トラスフォート伯爵家よりもアーデン公爵家の方が安全だろうという話になったのだった。
特に危ないのは、私がまだ単なる婚約者であり「伯爵令嬢」という立場の間。
そもそも今は、「魔女」を貴族社会に受け入れるべきではない派がいて、本来は「魔女」は殺されるべきなのだ派がいて、そして少なくとも公爵夫人なんていう地位には就けるべきではない派がいる。
あ、追放はしなくてもいいけど結婚も子供も諦めるべき派もいたような。
まあ、そういう諸々の主張の方々全員を今、私は丸ごと敵に回していた。
そして私がしみじみ実感したのは。
「王女」よりも「伯爵令嬢」の方が攻撃するには手頃らしいということだった。
花嫁修業中で王宮の中からほとんど出てこないマルガリータ王女は、さすがに反魔女の貴族の方々には手が出せないらしい。
まあマルガリータ王女つまりマリーも、王妃様が昔から「魔女」を非常に嫌悪している方だという話なのでマリーも王宮の中で苦労していると思う。
しかし王宮の外で、たくさんいる貴族の方々が攻撃するとしたら、それは私なのだった。
そういう事情を考慮して、両家で話し合った結果。
私は結婚前から公爵家で保護されることになった。
私だって命は惜しいので、そして無用な罵声なんてものも浴びたくないので、大人しく公爵家にお世話になることにした。
一応まだ未婚なので、お目付役として私の母も一緒に公爵家に来たのだけれどこの母、豪華で壮麗な公爵家に目がくらんで毎日お友達を呼んでは公爵家での豪華なお茶会だのなんだのと、娘である私のことはすっかり放ってひたすら楽しんでいた。
「あなたは一生ここに住めるかもしれないけれど、私はあなたの結婚式までですからね! 今のうちに楽しんで何が悪いの? それにしても本当に、どこもかしこも素敵ねええ~お友達にも鼻が高いわ~」
と、けろっと言ったのだった。
でも母のお友達という人たちも、今までのお友達はおそらくは随分減っただろうと思うと私も少し罪悪感を感じているので、アーデン公爵がこの母に全く文句を言わず関心も無いのをいいことに自由に過ごしてもらっていた。
おそらく今母と一緒に公爵家でキャッキャと楽しそうにしている方たちは、私の母と同じように「魔女」を産んだことのある女性か、もしくは姉妹に「魔女」がいる人か、もしくは母親が「魔女」だった人が多いのだろう。つまりは大半が「魔女」つながり。
私の知らないところでこの母に実は、と告白する人が何人もいたらしく、母はそんな方たちとすぐに仲良くなったようだった。
そしてここは「魔女」を嫁にもらおうとしている「魔女肯定派」の総本山アーデン公爵家なので、まあそりゃあ集うよね、ということだ。
正直「魔女」にそうやって直接関わりのある人を合計しても、人数的には親や子や姉妹に「魔女」がいない人の方が多いことを考えると、こういうネットワークはこれからを考えてもとてもありがたい。
なので、母は母で大いに楽しんでほしいところ。
そして私はというと。
今日も夕食を食べながら、魔方陣の話と魔女に関わる政治の話と魔方陣の話とデ・ロスティ学院の今後の話と魔方陣の話を公爵が蕩々と話すのをふんふんと聞いている私である。
今このミハイルは、「魔女」や「魔術師」を守るための様々な魔方陣の改良に熱中していた。
そして同時に私たち以外の「魔女」たちの今後の活躍について熱く語ってもいた。
うんうん、そうだね楽しそうだね。
しかし今日のお肉のソースがこれまた美味しいわねえ……。
さすが公爵家の料理人、腕が極上。何食べても美味しい。
ごはんが美味しいのって幸せなことよね……。
それで今日のデザートは何かしら?
そんなことを考えつつ、そのかたわら嬉しそうにひたすら語るミハイルの話も聞きつつ、彼と一緒に毎日ご飯を食べている。
なぜかそのたびに、私にはブンブンと嬉しげに力一杯振られている幻の尻尾が見える。
語るミハイルの目が、すごいでしょ? 楽しいでしょ? と無邪気に見上げる忠犬ワンコの目に見える。
うんうん、幸せそうでよかったね、ミハイル。
そんな彼とご飯を食べるのが、意外にも楽しくて幸せな私だった。
そんな風にすっかり公爵邸にも馴染んだ頃、私はまた公爵自身とセバスによって、「歴代の公爵夫人の部屋」に強制的に移されたのだった。
ええ、忘れておりました。
すっかり忘れておりましたとも。






