魔女のお披露目3
次第にざわ……とざわめきが広がっていった。
そんな中、私を伴って涼しい顔をして進み出るアーデン公爵。
「王太子殿下、お誕生日おめでとうございます」
そしてその美麗な顔に天上の微笑みをのせつつ頭を垂れた。
……この人、仕事となると驚くほど別人になるよね。
そんなことを思いつつも、もちろんそんなことはおくびにも出さずに私も一緒になってご挨拶をする。
「王太子殿下、お誕生日おめでとうございます」
私がお辞儀をすると、さらさらと銀の髪が顔の横を滑っていった。
きらきらきら。
会場の照明を反射して髪が輝く。
見よ、これが「魔女」だ。
まあ、あのデ・ロスティ学院ではみんながみんな随分と美しい整った容姿で当たり前の顔をして闊歩していたから、そんな中では私もちょっと綺麗かなくらいの感覚だったけれど、こうして普通に魔力の無い人たちの中ではなかなかに迫力があることを私は知っていた。
「……お、王太子殿下、お誕生日おめでとうございます!」
「……おめでとうございます!」
公爵と私の挨拶で、はっと我に返ったらしい貴族の面々が口々にお祝いを述べる。
「ありがとう」
王太子殿下は何事もなかったかのように普通に周囲の祝辞に返事をした。
そう、いつものように、当たり前のように。
まるでその腕に手をかけているのが「魔女」ではないかのように。
そして言った。
「アーデン公爵も、婚約おめでとう。婚約したとは聞いていたが、全然会わないからおめでとうも言えなかったな。トラスフォート伯爵令嬢も、おめでとう。どうかサイラスをよろしく頼む」
サイラスとは、アーデン公爵のファーストネームだったのを私は思い出した。
そんな王太子と彼の言うサイラスは、実は水面下で今日のために打ち合わせを重ねていたわけだがもちろんそんなことはおくびにも出さないのだ。
「ありがとうございます殿下」
「ありがとう存じます、王太子殿下。彼に相応しいように精一杯努めたいと思っております」
そう言ってから顔を上げた私とマリーの目が合った。
お互いにうふふと微笑みを交す。
私もそこで渾身の笑顔を浮かべたのだった。
マリーもとっても美しいけれど、私も、負けないっ……!
せめて迫力負けだけは……!
ほうっ……とため息をつく声が方々から聞こえてきた。
よしよし、良い兆候だ。
ぜひこのままもめ事もなく穏便に……いくはずはもちろん無かった。
「王太子殿下! 目を覚ましてください! その女たちは『魔女』ではありませんか! あ、アーデン公爵もですぞ! お二人揃って『魔女』に騙されているのです! 目を! お覚ましくださいっ!」
叫んだのは、オルセン男爵だった。非常にお怒りの表情である。
周りの貴族たちが、揃ってとても居心地の悪そうな顔をした。
アーデン公爵がにこやかに微笑みながら言った。
「オルセン男爵、私は騙されてはいませんよ」
しかしオルセン男爵はさらに叫ぶ。
「アーデン公爵、ではあなたの隣にいる婚約者だという女は『魔女』ではないと言い張るおつもりですか!? その瞳、まごうこと無き『魔女』の瞳ではありませんか! 伝説通りの金色に光る邪悪な光です! その女は即刻追放するべきです!」
「オルセン男爵」
そこを王太子殿下が遮った。しかし自信満々なオルセン男爵はここぞとばかりにまだ叫ぶ。
「王太子殿下! 殿下の隣にいらっしゃる女も、『魔女』ではありませんか! どうして追放されないのですか!」
しかし王太子殿下は穏やかに言った。
「オルセン男爵、それはこれから説明しよう。諸君も聞いてほしい」
「殿下!」
「オルセン男爵、まずは王太子殿下のお言葉を聞きたまえ」
……アーデン公爵という人は、なぜもこうお仕事モードの時は威厳があるのか。
私はプライベートの時との落差がありすぎではないかと少々呆れながら、公爵から注意されてぐっと押し黙るオルセン男爵を眺めていた。
王太子殿下はよく通る声で穏やかに語った。
「みなも不思議に思っただろうと思う。しかしここで紹介させてほしい。この私の隣にいる女性こそ、長年離れて暮らしていた私の異母妹のマルガリータである」
王族を示すティアラをいただいている女性ということもあり、うすうすは誰もが察していたのだろう。殿下の言葉はそれほど動揺もなく沈黙を持って受け入れられた。
ただ一人、怒りで顔を真っ赤にしているオルセン男爵以外は。
「マルガリータ王女……? 殿下、その女は『魔女』ですぞ! 王女であるはずがない! 殿下は『魔女』の術にはまって騙されているのです! わたくしが見つけたマルガリータこそ、殿下のお異母妹様でございます!」
「オルセン男爵、そなたが王女だと申し出ていたあの女性はすでに王宮の鑑定で偽物だと証明された。そのまま保護を求められたため王宮側で現在保護している。そなたにはいろいろ聞きたいことがあるから、後日要請に従い王宮に出頭したまえ」
「殿下!? そんなはずは! アーデン公爵! 公爵も目を覚ましてください! 公爵もまさかその『魔女』と結婚するとおっしゃるおつもりですか!? 『魔女』は見かけだけは素晴らしいが中身は邪悪な存在であると、歴史が証明しているではありませんか! そのような邪悪な存在を娶ろうとは正気の沙汰ではありません! それよりもぜひ私の見つけ出した本物のマルガリータ王女をご所望くださいませ! あの子が本物なのですから!」






