魔女のお披露目2
そして当日。
さすが王宮、そして王太子の誕生日ともなると、それはそれは大規模に、そして華やかに催される。
ほぼ全ての貴族が出席しているのではと思われるほど、広大なホールには人々が集っていた。
人々は豪華に着飾って会場をそぞろ歩き美味なる料理をつまみ、酒をたしなみつつ談笑して……はいない人も一定数いるのだが。
パーティーの主人公が登場する前に、会場にいる人々の関心を一身に集めていたのは、なんと私だった。
ええ、私もアーデン公爵と一緒に出席しているのですよ。
元の「魔女」の姿で。
私はこの日、今まで自分にかけていた全ての魔法を取り払っていた。
前からもちろん顔の造作は変えておらず、ただ色彩だけを元に戻した私は、それでも今までの地味な印象からは別人のように見えるだろう。でもよく見ればエレンティナ・トラスフォートだとわかるはず。
会場の光を全て受け止めて輝いているかのような白い肌、流れる美しい銀の髪、そして黄金の光を帯びた瞳。
魔力の強い「魔女」らしく、久しぶりに改めて見た本来の自分の姿は自分で言うのもなんだけれどもびっくりするほど美しかった。
そんな私が公爵家と我が伯爵家の威信にかけて誂えた最高級のドレスと宝飾品を身に纏うと、それはもう美しさの極みみたいになって、正直自分でもちょっと感心してしまったくらいだ。
そして隣にはぴったりと寄り添うやはり超絶美形のアーデン公爵。
そんな私たちを見て、私から見える限りの全ての人々が盛大に動揺していた。ざわざわヒソヒソと言葉を交す人、唖然としている人、怖がっているのか真っ青になっている人も。
なにしろ「魔女」の登場である。
しかも歴史上ここまで堂々と王宮に現れた「魔女」は、おそらくいない。
しかしさすがに私を「魔女」だとは思っても、なにしろ天下のアーデン公爵家の当主がぴったりと守るように寄り添っているので、その公爵の婚約者をこの王宮のど真ん中で「魔女だ!」と先陣を切って非難するような度胸のある貴族はいないようだった。
ああ高い身分万歳。
ここで私がすでに「公爵夫人」になっていればもっと良かったのかもしれないけれど、残念ながらかつての私の要望で婚約期間を最大に延ばしてしまっていたために、結婚式はまだまだ先だった。
それでも今、アーデン公爵がぴったりと寄り添ってくれて、私を守るように周囲に睨みをきかせてくれているおかげで危険は感じない。
この人、仕事となると突然有能スイッチが入るらしく、今は惚れ惚れするほどきりりとした頼もしい公爵様になっていた。とにかく纏う威厳オーラが半端ない。
そんな彼が私のことを凝視する人たちを端から睨んでいくので、私の見える範囲では、もう誰も何も言えない空気になっていた。
ふと視界に何か見覚えのあるものが映った気がしたのでそちらを見ると、かつての婚約者ロビンが、完全に魂が抜けたような顔をして固まっていた。口がぽっかりと開いている。
そういえば彼は私のことを散々地味だ地味だと言って嫌がっていたけれど、今後はその考えを改めてくれるかしら?
私はマリーと約束をした。
全力でマリーを助けると。
だから今日、マリーだけを「魔女」としてお披露目はさせない。
マリーには仲間がいて、彼女が決して孤独ではないことを私は身をもって人々に示すのだ。
非難は二人で受け止める。
ただここで公爵まで「魔術師」だと公表するとさすがに反発の大きさが予想できないという意見があったので、今日の公爵は「名門公爵家の当主」という立ち位置となっている。
彼は我が国の名門大貴族として、今日「魔女の味方」を表明する。
誰もが私たちを遠巻きにして話しかけてくる人はいなかった。
別にそれでいい。
今日の私は、この国には「魔女」が普通にいることを証明するのが役目だから。
私は今、堂々とこの本来の私の姿を見せられるのが嬉しかった。
それがどんな波紋を呼ぶかを知っていても。
隣で公爵が私を守ってくれている限り、私は本来の私のままでもきっと大丈夫。
世間からの荒波を彼も一緒に受け止めてくれるというのなら、私は強く生きられる。
「忌むべき魔女」ではなく、「誇り高い魔女」として。
そして満を持してファンファーレが鳴り響き、今日の主役である王太子がマルガリータ王女を伴って現れたのだった。
今日のマリー、いやマルガリータ王女は特に美しかった。
抜けるような白い肌に赤い唇、光り輝く黄金の豊かな髪と強く光る黄金の瞳。
それはもう、繊細な芸術品のような美しさで。
頭上に載せているティアラの輝きなんてすっかり霞んでしまうくらいの神々しさだった。
会場が水を打ったように静まりかえる。
美しさに見とれて、ではなく、その黄金の瞳のために。
追放されるべき「魔女」が二人も、しかも堂々と姿を現すなんて、ありえないのだから。
しかもティアラをいただくということはその人は「王女」であり、そして王太子がエスコートしているということは、王が認めているということに他ならない。
そう。
王が、その王女を認めているのだ。






