魔女と魔術師4
封印を解除。色のイメージを解除。魔法のない、まっさらな状態に。
その瞬間、アーデン公爵の瞳はくすんだグレイから、たちまちまばゆく光る黄金の光を宿しはじめたのだった。
薄暗い部屋の小さな窓のそばで、、差し込む穏やかな光を全て反射してキラキラとまばゆく光る黄金の色。
それは紛れもなく「魔術師」の色、そして本来の私と同じ色だった。
その黄金の光に見据えられて、私はかつて密かにその瞳の色と共に封印した記憶も思い出したのだった。
「…………あーーーっ!!」
そうだった、一緒に隠してしまったんだ……!
それはそれは美しい顔とまばゆく光る黄金の瞳をした少年が、「あなたの得意な魔法で、私の瞳の色を隠してくれないか」とまだ子供だった私に頼んできたときの記憶。
そして了承した私に、彼は「ありがとう」と言って私の頬に――
「キ、キス……!!」
「? なに、今思い出したの?」
そしてからかうように笑う公爵の瞳。それはあのキスの後に笑ったあの青年と同じで。
「なにしてくれたんですかほんの子供に!」
「え? 親愛のキスだろう? 頬に軽く触れるだけのキスだよ? でもあなたは真っ赤になってびっくりしていて、とても可愛かったな。だからそんな思い出ごとまさか私のことを綺麗に忘れてしまっているなんて知ったときは本当にショックだったよ」
って、悲しそうにしているけれど。
そうだった、あの時子供だった私はびっくりして……そしてその瞬間に彼への恋心に気づいてしまったのだ……!
でもそれは、もう彼は学院を「卒業」する最後の日だった。
学院を「卒業」したら、大抵の人はもう戻ってこない。
誰もが一度「外の世界」に行ってしまったら、学院での思い出と記録をひた隠しにして生きるさだめなのはもちろん知っていた。
だから待っていて、なんて私に言うこの目の前の人は、もうきっとこの学院には帰ってこない。どうせ「外の世界」に行ってしまったら、この学院のことも私のことも、ほとんど思い出さないで新しい人生を歩み始めるのだ。
私は出られないのに。いつ出られるかもわからないのに。そして学院を出たら、お互いに過去を隠して場合によっては容姿を変えて生きるのに。
きっと、もう会えないのに。
とっさにそう思った私は、悲しさのあまり彼の瞳の色を封印したときに、一緒に、こっそりとその時の記憶と彼への想いを彼の瞳に封印したのだった……。
「おもいだした……」
まだ子供だった時の淡い初恋まで思い出したことに、私はショックを隠しきれない。
何やってくれたんだ、昔の自分。
思わず頭を抱えてもだえる私。
「思い出した? 本当に? 嬉しいな」
そんなことを言いながら、久しぶりに忠犬の風情で見えない尻尾をフリフリしながら私の様子を嬉しそうに眺めるアーデン公爵と、かつての無邪気な青年の姿がダブって見えた。
「ミハイル……」
「ああ、本当に思いだしてくれたんだね! そう、私はサイラス・ミハイル・アーデン。学院ではミハイルで通していたから、あなたも私のことをいつもミハイルと可愛らしく呼んでくれていた……」
恍惚と語る公爵。
そうだよ、この人のフルネームを見た時に気付くべきだった……いや無理。ミドルネームだけでそれは無理。しかし。
「改めて自分の封印の魔法に驚くわ……」
まさか気持ちまで封印出来たなんて。
「あなたの封印魔法は本当に一級品だよ。お陰で私は瞳の色で全く今まで苦労をしなかった。びくともしない頑丈さだ。ああでも久しぶりだな、私の本来の瞳も」
なんて言いながら、どこから取り出したのか手鏡をしみじみのぞき込んでいる。
「でも瞳の色が変わらないと、魔法の発動って難しいのではないですか? たくさん魔力を使う時は、瞳の色を変えないわけには」
そう私が聞くと。
「そうなんだよね、だから実際に私は今まで魔力に上限をかけられた状態だったといえる。でもだからこそ、魔方陣でその魔力を増幅したり、少ない魔力で効果的に魔法を発動させられる魔方陣を開発したりして結果的に技術の向上にはとても役に立ったと思うよ。いざというときには、いつでもあなたに魔法を解いてもらえることはわかっていたし。おかげでたとえばこの魔方陣とかは最小のサイズで最大の効果と――」
そしてまた、魔方陣について蕩々と語り始めた公爵だった。
封印を解いた黄金の瞳がこの薄暗い部屋のなかで、外の光と魔方陣の発する光を受けてキラキラと楽しげに光っていた。






