幻の王女1
あり得るのだろうか?
しかしあのロビンの婚約者マリリンを養子に迎えたオルセン男爵という人は、かつてはバルマス子爵夫人が「魔女」だと暴いた人でもある。
もともとは裕福な商人だという話だし、男爵位を金で買った後の今でも積極的に商業活動をしているようだから、もしかしたら独自の情報ルートがあるのかもしれない。
どの貴族も半信半疑で、事の次第を見守ることしかできなかった。
オルセン男爵はその間も社交界で得意気にそのことをほのめかしているようだ。
最近は私もパーティーには行っていないから伝聞ではあるが、どうもその保護した令嬢が王女だとオルセン男爵は確信しているようだ。
ますます混乱する貴族たち。
多くの貴族たちが、「魔女」である王族が本当に存在したときにはどのような対応をすべきなのかと前代未聞の事態に右往左往しているようだった。
そんなとき、その騒動の中心であるオルセン男爵が、とうとうパーティーを開いて保護した娘をお披露目すると言い出したために、ほぼ全ての貴族たちはそのパーティーの招待状を手に入れようと血眼になった。
一男爵、しかもまだ一代目の振興の男爵家のパーティーの招待状を欲しがるたくさんの貴族たちを見て、きっとオルセン男爵は喜んだだろう。
それでも貴族たちにはいろいろと思惑があった。
本当に王女なのか見極めたいとか、一応縁をつないで将来有利に出来るかも知れないとか、顔を知っておいてトラブルの元として避けたいとか、行かないと王女だと認めていないと思われるかもとかただの興味本位とか。
そしてここにもきっと思惑があるのだろう人が一人。
「エレンティナ、君にもぜひ来てほしいな。将来そのお嬢さんをオルセン男爵は養女に迎えることも考えているんだよ。そうしたらこのマリリンの義妹になるんだ。もしかしたら男爵家ではなくて、もっと尊い方の娘になるかもしれないんだけれどね」
ふっ、と前髪を掻き上げてなぜか得意気に言うかつての婚約者ロビンと、
「エレンティナ様、本当にぜひいらしてくださいね。それは綺麗な方なんですよ。私、とても鼻が高くって! ぜひ公爵様とエレンティナ様にも知り合って、いえ出来ればお友達になっていただけたらと思っているんですう」
と言うマリリンの二人に直接招待状を手渡しされて絶対に来いと言われてしまっては、たとえ多少の熱があっても顔を出さないわけにはいかなそうだった。
特にマリリンは、どうしても公爵に来てほしいようで。
でもこうして招待状が向こうから舞い込んできて、私にも断る理由がないというかなんというか。
なにしろ件の令嬢は、「魔女」かもしれないのだ。
本当に噂の王女が本物だとしたら、それは「魔女」が堂々と社交界にお披露目されるということになるという前代未聞の事態、いったい他の貴族たちがどう反応するのかは気にかかるし、そしてオルセン男爵が堂々とお披露目なんかして、この先その令嬢をどうしたいのかはどうしても気になってしまう。
「魔女」でないなら問題はない。でも噂通りに「魔女」だったら、もしかしたら密かに力になれるかもしれない。それにはまず確認しなければ。
ということで。
「まあ、ありがとうございます。ぜひ伺わせていただきますわ」
とにっこりと猫を被ることにしたのだった。
こうなると、やはり公爵を誘って一緒に行くのが自然だろう。マリリンにも強く念押しされてしまったし。
となると、今まで頑張っていた私的な目的のための作戦は一時中断しないといけないか。
そうして私は渋々「オルセン男爵のパーティーに一緒に行きませんか」と手紙を書くことになったのだった。
そしてパーティーの当日に、久しぶりに完璧な紳士としての出で立ちでにこにこと上機嫌で現れたアーデン公爵だった。
相変わらずのこの隙のない、ほどよく流行も取り入れた服装と綺麗にセッティングされた髪、そして一点の曇りもない美麗な顔面がとても嬉しそうな雰囲気を纏って立っているとそれはそれは眼福なのだった。
久しぶりにみると威力が半端ないわ。眩しいとはまさにこのことか……。
ちょっと遠い目をしながら迎え入れる地味なままの私。
でもその美しさを再認識するのと同時に、私は久しぶりに会えた彼の姿にとても懐かしさを感じ、そしてこうしてまた会えたことがとても嬉しいと感じている自分にも驚いてもいた。思わず嬉しくてにこにことしてしまう私。
公爵はそんな私の顔を見た途端に、満面の笑みになって口を開いた。
「お久しぶりですね、エレンティナ。体調は戻りましたか? とても心配しておりました」






