043_魔法祭へ向けて
午前中の授業の終わりを告げる鐘が、リサのいる教室に響き渡る。
いつもならば、お昼に何を食べようかと考えながらアンナマリー達と食堂に向かうところだけれど、今日ばかりは違った。
他の生徒達も同様で、食堂に走ろうとする者はいない。
先生の言葉をじっと待っている。
「一人の落第者もなく、魔力テストと学力テストを終え、私も鼻が高いです」
教壇に立つ先生が皆の顔を見回す。
「ぜひ、今の勢いで、二週間後に迫る魔法祭も成功させましょう」
待ってましたとばかりに、生徒達の目が輝いた。
魔法祭とは、いわゆる前世の文化祭のようなもの。
魔法を使った出し物を生徒主体で作成し、父母や生徒同士で客となってもらう。
皆で何かを作り上げるのは楽しいに決まっている。
「魔法の腕前だけでなく、有意義に学園生活を送り、コミュニケーション能力も成長している様子を、ご家族に見せましょう」
普段は両親と別れて暮らしている者が大半なので、家族に会えるという意味でも魔法祭は生徒にとって待ちに待ったものなのだろう。
リサやキアランといった庶民出身者はぴんとこないけれど、デイジーやローズはどこかそわそわしているのがわかる。
「本日より二週間、午後の授業はすべて魔法祭の準備に充てられます。魔法を使った出し物を、各チーム考えて、使用場所の申請を行うように」
生徒全員から一斉に「はーい」と声が上がる。
「あっ、登録は先着順ですからね。内容が被った際は先に申請したチームが優先されます」
先生が教室から出て行こうとするも、途中で足を止めて最後に付け加えた。
わっと教室が盛り上がる。
何をやるか、誰とやるか、相談する声がそこら中から聞こえてきた。
※※※
いつも美味しい昼食だけれど、今日はなるべく早く済ませて、教室に戻る。
後ろには、いつものメンバーがぞろぞろと後ろを歩いていた。
アンナマリー達三人に加えて、ステファンにセオ、ヴィニシスとカルツ、それにキアランの豪華メンバー八人。
誘い合わせたように食堂で合流していって、そのまま空き教室まで移動したのだ。
当たり前みたいなこのメンバー、楽しみすぎる。
ついに、序盤の大イベント、魔法祭までやってきたー!
前世でも人気の高いイベントだったので、わくわくが止まらない。
「では、出し物について案がある方は、おっしゃって!」
当然のようにアンナマリーが教壇に立って仕切ってくれる。
他のメンバーは椅子に座ったり、机に寄っかかったり、それぞれだ。
アンナマリーが黒板に”魔法祭の出し物”とチョークで書く。
「はい! はーい!」
真っ先に手を上げたのはキアランだ。
魔法祭なんて面倒くせえ、とか言うのかと思っていたけれど、意外にノリノリみたい。
「永久業火<えいきゅうごうか>の炎!?」
「それはなんですの……?」
アンナマリーだけでなく、全員が怪訝そうな顔をする。
「消したい物や、嫌なことを書いた羊皮紙を持ってきてもらって、魔法の火でどんどん燃やす! それは永遠に葬られる」
キアランが自信たっぷりに説明してみせた。
ある意味盛況になるかもしれないけれど……。
永遠に葬られるってところは根拠がないし、クラスのっていうよりオカルト研とかの出し物だよね、それって。
「魔法は使っていますけれど、魔法祭に相応しいとは……案としては一応……」
アンナマリーの頬が引きつっているけれど、一応意見は尊重してあげるらしい。
黒板に”永久業火の炎”としぶしぶ書き込んでいく。
「他にアイディアのある方は……」
「魔法闘技場はどうだろう?」
今度はカルツが腕を真っ直ぐに上げる。
「説明は不要ですが……どう取り仕切るやら」
やはりアンナマリーは、黒板にしぶしぶと”魔法闘技場”と書く。
まあ、アンナマリーがもらしたように、規模が大きすぎるよね。
あと、開いたら開いたで、変な人物とか、因縁の相手とかが来て、はちゃめちゃになった上で、きっと会場壊していくよね。
「王もいらっしゃいますし、ステファンは何か見せたいものはありませんか?」
変な意見ばかりなので、助けを求めるようにアンナマリーがステファンを見る。
「僕の見せたいものかい? うーん……素晴らしいここにいる仲間達かな。そうだ! 謁見の間を魔法で作って、そこで皆を紹介するなんてのはどうかな?」
ステファンらしい意見だけれど、たぶん皆の頭の中では「僕の見せたいものはアンナマリー、君だけだよ」とか言っちゃえばいいのにと思ったに違いない。
「素晴らしいアイディアだと思うけれど、それだとオレたちしか参加できなくなってしまうよ。だったら、いっそのこと本当の謁見の間にして、緊張関係の隣国を国賓として呼んで平和的なムードを作れば、ステファンの手柄にもなるし……いや、いっそのことステファンが王になって――――」
「却下です! 魔法祭で、国を乱すかもしれないような重大なことをしないでください!」
ステファンの意見に、本気なのか冗談なのかわからないけれど、セオが恐ろしい改良を加え始めたので、アンナマリーがぴしゃりと黙らせる。
リサはそんな様子を眺めながら、考えをめぐらせていた。
出し物の候補は、おそらくこのあと、困ったアンナマリーによって前世のゲームと同じ、可能なレベルなものに落とし込まれていくと思われる。
キアランは炎魔法を使った焼却炉。
カルツは演舞の大会。
ステファンとセオは王国儀礼の紹介と、彼を王に見立てた謁見の練習。
ヴィニシスは光属性魔法の研究発表。
しかし、重要なのは魔法祭の出し物の内容じゃない。
選んだもので攻略対象の好感度が上がり、その後、選んだキャラとの魔法祭デートがあることだ。
なので、ヒースクリフ推しの自分としては、ゲームになかった新しい案を出すべきで――――。
「はいっ!」
満を持して、リサは手を上げた。
「リサ? 貴女は普通の意見を出してくださるわよね?」
それまでが散々だったので、アンナマリーから疑念の目でみられてしまう。
ちょっと不安だけれど、そこは自分を信じて口にする。
「魔法のメイド&執事喫茶を提案します」
実は、病院のベッドにいた時から、憧れていたイベントなんだよね。
学園祭の定番なのに一度も参加できなかったし。
「どういった内容ですの?」
アンナマリーが黒板に”魔法のメイド&執事喫茶”と書いてから聞いてくる。
首を傾げて、想像もつかない様子だ。
「では説明しますね」
立ち上がると、姿勢を正して念じる。
やる気に満ちた目をくわっと開けた……つもり。
ヒロインズスキル“語るだけで超説得力<スーパーファンタスティックオピニオン>”よ発動せよ!
「その名の通り、私達がメイドや執事の格好をして、魔法でお茶を入れることで、お客に対して快適な空間を提供し、おもてなしします。景観の良い中庭で行うことを希望です」
本当にそんなスキルがあるかは知らないけれど、言葉に説得力が、全身にも自信と力が宿っている気がする。
「なぜ貴族が、わざわざ使用人の真似をするのです?」
続けてアンナマリーからの質問が飛ぶ。
「そこです! 魔法学園は表面上平等ですが、貴族出身と平民出身とで、完全に壁がなくなることはないですよね。それは、魔法祭に来る家族や友人も同じです」
すかさず考えていたことを口にした。
「よって、敬意をもって理解したい、同じ立場を演じてみて気持ちを知りたい、その本気度を伝えて、懸け橋となる意味合いがあります」
実際には、ただコスプレしたいだけ、なんて言えるわけない。
今のがもっともらしい理由に聞こえていたらいいんだけど……。
おそるおそるアンナマリー達の反応を見る。
「なるほど、逆の発想として元平民の家族のお客様を貴族のように扱い、貴族の自覚を促していくこともできるのですね」
「うん、うん」
感心した様子でアンナマリーがさらに意義を付け加えている。
「リサの言うことは一理あるな。演じるとはいえ、身を落さねばわからないこともある」
ヴィニシスも勝手な解釈で納得している。
「そうそう、貴族はすぐそうやって鼻につく言い方するしね。どうせ貴族でないと誇りなんて持っていないとでも思ってるんでしょ?」
「……す、すまない」
デイジーの厳しいつっこみに、ヴィニシスがたじろぐ。
今まで相手にしてこなかったタイプなのだろう。
「いいんじゃないかな。やってみようよ!」
「使用人を演じるなんて、魔法祭でないとできない経験で、愉快そうだね」
ステファンに続いて、セオも賛成してくれる。
「ええと、他に意見がある方は……?」
最後にアンナマリーが改めて皆を見渡す。
誰からも意見がでないのを見ると、黒板の文字に丸をつけた。
「では、リサの案を採用して、わたくし達の出し物は”魔法のメイド&執事喫茶”に決定ですわ」
他の皆から拍手される。
単なるコスプレ喫茶が、社会的に意義のあるものになって、満場一致で認められるなんて、思いもしなかった。
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