036_悪魔との戦い
見たらだめだと思ったのに、ばっちり男性陣と目が合ってしまう。
「リサ、今助けるから貴女はじっとしているんだ!」
ステファンはアンナマリーだけ助けていればいいんです。
「狙いは光属性の使い手か。渡さないよ」
まだあんまり交流してないんで、セオ的にはリサ個人というより、国にとって重要な人物って感じかも……。
「君には、まだまだ研究に付き合ってもらわなければなりません」
ヴィニシス、研究ってなにするつもり!?
人体実験とかじゃないよね?
「悪魔だろうと、誰だろうと、おれが守る!」
カルツで、やっと普通っぽいの来た!
「何捕まってんだよ、のろま。今から俺が助けてやる!」
キアランはやっぱ、悪口からのツン俺様セリフだよねぇ。
……。
…………。
って、何それぞれの言葉を冷静に分析してるの。
助けてくれた攻略対象のルートに決まっちゃう。
しかも当然のようにヒースクリフは呼び掛けてくれないし。
だったら、リサからの返答は一つだ。
「た、助け…………ないで――――!」
「「はぁっ!?」」
助けようとした五人だけでなく、見ていたアンナマリー達もぽかんとする。
この展開で助けないでくれというのだから、皆の反応は間違っていない。このままだと、悪魔に遠くへ連れ去られ、食べられてしまう。
でも大丈夫、ヒロインですから!
エリオットをキッと鋭い目つきで睨みつけて気合を入れた。
ヒロインには、ピンチをすべてチャンスに変えるヒロインズスキルが備わっているはず。
予定外の課外授業で、レベルは上がっている感じがするし。
そこで、ふとアンナマリーからリサの手に偶然移った杖を見た。
杖は、前世の記憶だと二年生になったら装備品として勝手に持っていた物で、着脱不可だったから使い勝手はいまいちわからない。
けれど、効果は知っている。所持者の魔力を増幅させることだ。
魔力が増えるということは、魔法の威力が増すだけでなく、使える魔法も増えるわけで――――。
もしかして一発逆転の状況、そろっちゃってない?
やるじゃん、さすがヒロイン!
「リサ!」
アンナマリーの悲痛な声で、リサは目を見開いた。
エリオットの左手に溜められた魔力が、今まさに放たれようとするかのように、限界まで膨張している。
「まだ蕾のうちに、闇でその身を貫き、俺が食らってやろう」
悪魔はリサの左手を掴んで宙づりにすると、手に溜めた闇の魔力を至近距離で向けてきた。
「リサ! 避けて!」
「防御魔法が、間に合わない!」
下からアンナマリー達の悲鳴が聞こえてきたけれど、リサはまったく動じていなかった。
自分でも驚くぐらい冷静だ。
どうしてって、一度死んでいるからね!
「あるものを都合よく使って、切り開くのがヒロインでしょう!」
そう叫びながら右手で杖を空へとかざして詠唱した。
「光雷<ライトニング>」
これは雷を落とす魔法で、実際にリサのレベルでギリギリ使える魔法だ。
普通なら通じる相手じゃないかもしれないけれど、杖の効果と悪魔は光属性に弱いので、効果があるはず。
「なっ……がっ!」
リサが反撃してくると思わなかったエリオットが、雷に身体を打たれ苦痛の声を上げる。
「こしゃくなことを!」
寸前で直撃を回避したらしい。
エリオットは落下することなく、怒りの声を上げていた。
効いてるみたいだけど、この悪魔、あれを避けられるんだ……。
光雷<ライトニング>は魔法の中でも最速の部類で、ほぼ回避不可能なものだ。
だからこそ、エリオットに当たったのかもしれないけれど、やはり悪魔は手強い。
だったら、やることは一つ!
リサは杖を握りしめて、自分の中にある魔力量を探った。
「……うん、まだまだいける!」
魔力量はまだたっぷりある。さすがヒロイン!
ニヤリと微笑んで、リサはエリオットの身体に杖を押しつけた。
「何をするつもりだ!? させるものか!」
「遅いっ! 光雷の空間<エリアライトニング>!」
エリオットがリサを上空へ放り投げようとする。
けれど、それよりも早く魔法を唱えた。
光雷<ライトニング>の上位魔法で、多数の雷が対象を襲う。この魔法が強いのは、対象が一体なら複数の雷が当たることだ。
「があああっ!」
今度は直撃の雷に連続で打たれ、エリオットが苦しそうに顔を歪めた。
リサを狙っていた闇の魔力も霧散してくれる。
「ひゃっ……私の邪魔しないでーっ! 光雷<ライトニング>!」
エリオットに投げられ、宙を舞いながらも、リサは魔法を続けざまに放った。
光雷<ライトニング>を魔力が尽きるまで発動し続ける。
すると、杖とブレスレットがパキッと音を立てた。
「贄<にえ>を増やす罠など、小賢しいヒースクリフ……っ!」
魔法を受けて落下していたエリオットは悔しげに呟くと、翼が羽ばたいて体勢を立て直す。
「ちっ、この程度で終わると思うな、人間ども!」
「ちょっ、逃げ……待ちなさいっ」
エリオットは怒りの表情で捨て台詞を吐くと、フッと消えてしまった。
あれだけの魔法を受けたのに、なんてタフなのだろう。
「って、それどころじゃない、落ちてる、落ちる!」
「リサさん! 浮遊<フライ>」
ローズの魔法で落下がゆっくりになる。
エリオットがリサを上空に投げていなければ、地面にぶつかっているところだ。
下を見ると、急いで受け止めようとしていた男性陣が待ち構えていた。
「リサ、よく無事で」
ステファンが感動の面持ちで優しく微笑む。
「詰めが甘すぎるけどな」
おっしゃる通りです。悪魔を撃退しておいて、落下死とか笑えない。
ううん、きっと仲間が助けてくれると信じてましたよ、心の片隅で。
「おい……今の魔法はなんだ? なぜ使える?」
あとでヴィニシスにあれこれ聞かれるんだろうな。
それまでに前世の知識に代わる言い訳を考えておかないと。
「怪我してないか!? 助けられなくてすまない」
心配そうなカルツの様子に、助けないで、なんて彼に言ったことを申し訳なく思う。
「すげーな、あんた!」
キアランが感心して、目を輝かせている。
「リサ……君ってやつは……」
最後に、ヒースクリフがリサを真っ直ぐに見ていた。
呆れているような表情だけれど、いつもとは何となく違う。
今の彼の瞳には、いつもはあまり見せない優しい感情が宿っている気がした。
「やりました! 悪魔を撃退してアンナマリーを守りましたよ!」
「うん、偉いね」
手を上げて答えると、ただそうとだけ答えて、いつもの含みのある笑みに戻る。
皆が見守る中、リサは自らの足でゆっくり地面に降り立った。
「あ、あ――――っ!」
「ど、どうされたのです? リサ!」
いきなり大声を上げたリサに、アンナマリーが尋ねる。
「せっかくもらったブレスレットがぁ……杖も……!」
ヒースクリフからもらったブレスレットだけでなく、せっかく手に入れた杖まで壊れていることに気づいた。
「リサの魔法量に耐えきれなくなったんだろう」
ヴィニシスが壊れた物をじっと見つめる。
「命に比べたら、安いものじゃない」
「リサさんに怪我がないのがなによりですよ」
「そうだけど、大切な物なのに……」
がっかりするリサをデイジーとローズは宥めてくれるも、他の面々は呆れた顔でその様子を見ていた。
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