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033_皆に囲まれ愛され属性

 午前の授業が終わると、いつもどおり四人で巨大な学園の食堂へと移動した。

 窓に近い席を確保すると、各々がウェイターにメニューをオーダーする。


 今日は、朝から牛肉のステーキにした。

 養護院では一度も食べられなかったし、学園の食堂では何を食べても無料だから、リサは庶民は滅多に食べられない高級な物を頻繁に注文していた。


 正確には入学金に含まれているわけで、タダというわけではないのだけれど、何を食べても同じという点については正しい。


「あんた、朝からよくそんな重たいもの、食べられるわねぇ」


 肉をすべて一口大に切り終えて、食べる準備を終えたところで、あきれ顔のデイジーに言われてしまう。

 彼女の前にあるのは、人気の胡瓜のサンドイッチが四切れだけだ。


「午後は外で課外授業だし、今のうちに食べておかないと」

「リサ、思ったより良く考えてるのね。私も少し多めに食べておこうかしら」


 半分言い訳だったのだけれど、アンナマリーに感心されてしまう。


「食べ過ぎは良くないにしろ、栄養はしっかり取るべきですわね」


 ローズは山盛りのサラダとパン、それにスープをしっかり取っていた。

 リサとデイジーがじとっと、主に彼女の胸元を見る。


 ローズは手足はすらりと長く、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。一方、リサとデイジーはどちらかというと子供体型だ。

 アンナマリーとは比べる気にもならない。丁度良い背丈と、バランスの取れた素晴らしいプロポーションで、参考外だ。


 もう少しこう女らしい体型なら、ヒースクリフを誘惑できるかもしれないのに。


「ところでリサ、午後のチームはステファンに声をかけてもいいかしら?」


 不謹慎なことを考えながら食べ進め、全員分のデザートと紅茶が運ばれてくるとアンナマリーが控えめに聞いてきた。

 今日のデザートはふわふわ生地のシフォンケーキだ。


「もちろん!」


 ローズとデイジーもうんうんと頷いて、微笑ましくアンナマリーを見る。


「……あっ、でも……わたくしから声をかけたら、断れないでしょう……ステファンの学園生活に介入しすぎかもしれないわ」

「そんなことないって! ちょっと待ってて」


 アンナマリーの心配を一蹴すると、リサはさっそく席を立った。

 食堂を見渡すと、すぐにステファンを見つける。

 わりと近くにセオと一緒に座っていた。


「ステファン王子ー!」

「えっ? リサ? ちょっと……」


 いきなり声をかけ始めたことに焦るアンナマリーに「大丈夫、まかせて」と目配せし、ステファンの前まで行く。


 こういうことは、早めに決めておいた方がいい。

 彼を狙っている令嬢が他にいないとも限らない。


 あれ? それって設定的にはもしかして……私!?

 ヒースクリフ一筋だから、万が一もないけど。


「午後の課外授業、アンナマリーと私たちと一緒のチームになりませんかー?」


 アンナマリーの部分を強調する。


「よろこんで」


 ニコッとして、後ろのアンナマリーの方にも笑顔を送ると、頷いた。


「あっ、セオもぜひ」

「お供するよ」


 初めての戦闘の時みたいに辞退するかもと思ったけれど、今回はセオも同意した。


「午後からよろしくね、アンナマリー、ローズ、デイジー」


 ステファンは律儀にアンナマリー達のテーブルまで来ると、三人に再び微笑んだ。


「あ、ありがとうございます」


 アンナマリーは照れているのが丸わかりだ。


「僕達も食べ終えたし、移動までここにいていいかな?」

「も、もちろんですわ……」


 テーブルは広いので、そのままステファン達が席に合流する。

 隣に意中の彼が座り、アンナマリーの顔はすっかり朱色に染まっていた。


 それにしても……。


 前世でも男子を誘うなんてことしたことなかったのに、やけに自然体でステファン達をチームに誘えてしまった。

 さしずめ、ヒロインズスキル“王子様と距離感ゼロの天然砲<ノーディスタンスカノン>”といったところだろうか。


「そして、“気づけば皆に囲まれ愛され属性<エブリワンチャーム>”まで発動中」

「ちょっ……大丈夫? リサ」


 思わず呟いていたのを、デイジーに聞かれてしまった。

 口をぐふっと押えて、平静を装う


「うん! 平気! 興奮しすぎただけだから」

「…………?」


 強引に誤魔化すと、再びリサは辺りを見渡した。

 リサ達四人にステファンとセオを加えて六人、午後の課外授業のチームは、先生から十名ほどと言われていたので、もう少し誘える。


「あっ! おーい、キアラン。一緒に組まない? どうせぼっちでしょ?」


 真っ先にキアランと目が合って、声をかける。

 嫌そうな顔をするも、彼はずんずんとこっちに歩いてくる。


「大声でぼっち言うな! 俺は別に一人でもいいんだけど……お前が頼むなら、まあ組んでやってもいいぞ」

「うん、わかってる、わかってる。じゃあ、午後よろしくね」


 照れ隠しなのはバレバレだ。アンナマリーとは違うツンに、うんうんと頷く。


「なんかちょくちょく、むかつくんだよなぁ、おまえって」


 口を突き出して不満げながらも、キアランもリサ達の席に着こうとする。


「そういえば、紹介するって約束したよね」

「……べ、別に俺から頼んでないし!」


 この間アンナマリーと引き合わせると言ったことを思い出す。

 同じチームになるんだし、せっかくだから交友を深めてもらおう。


「じゃーん、キアラン君です。アンナマリーと同じ火属性」

「……火属性で悪いかよ」


 悪態を呟きながら、キアランがしぶしぶといった様子で軽く頭を下げる。

 代表してアンナマリーが真っ先に立ち上がり、キアランに手を差し出した。


「よろしければ、リサだけでなく私達も友人として仲良くしてくださいな。ヴァルモット公爵家のアンナマリーと申しますわ」

「あ、あぁ……」


 ばつが悪そうに彼が握手する。

 リサはその光景をニヤニヤしながら見ると、キアランに耳打ちした。


「噂と違って、実物は美人で、物腰も柔らかいでしょう?」

「お、おぅ……イイヤツじゃん」


 キアランが小声で答える。

 これで少しでもアンナマリーの評判がよくなるとリサとしても嬉しい。


「君の魔力を近くで見たいので、俺も組ませてもらう」

「リサ、おれもチームに入れてくれないか?」


 いつの間にか、テーブルには研究者ヴィニシスと騎士憧れカルツまで来ている。

 しかも同時に誘われるって……。

 やっぱり“気づけば皆に囲まれ愛され属性<エブリワンチャーム>”は発動中らしい。


「問題があるのか?」

「だめか?」

「二人がいれば心強いし、もちろんよろしく!」


 不安そうな顔をする二人に、リサは満面の笑みで答えた。

 六人に、キアラン、ヴィニシス、カルツの三人が加わると、席は一気に騒がしくなる。


「君の兄上のことは存じている、ヴィニシスだ、よろしく」

「やー、嬉しいな。カルツだ、おれも同年代で研究職についているきみのことは知ってる。」

 ヴィニシスとカルツがお互いに自己紹介して握手している。

 その横ではアンナマリーがキアランに話しかけていた。


「キアランさん、どのぐらいまで火属性魔法が使えますの?」

「リサと同じくキアランでいいって。うーん、火の玉ぐらいは出せるけど」

「火球? 矢ではなくて?」


 アンナマリーが首を傾げる。


「はぁっ? 火は玉だろー」

「火の攻撃魔法といえば、火の矢ではありませんの!?」


 アンナマリーの初期魔法は火の矢<フレイムアロー>、一方キアランは火の玉<ファイアボール>らしい。

 どうやら同じ火属性でも魔法が微妙に違うようだ。

 魔物に攻撃する時、アンナマリーは矢を放つイメージだけれど、キアランはボールをぶつけるイメージなのだろう。

 二人の火論争の横では、デイジー、ローズ組とステファン、セオ組が会話している。


「あっ、王子だ」

「そこのご令嬢、王族に気安く話しかけすぎだよ」

「まあまあ、セオ、学友なんだからこれぐらい普通だろ」

「ふふっ、お二人は仲が良いのですね」


 これです、これ……!


 リサは会話が生まれる皆の様子に、ふんふんとハイテンションだった。


 何気ない日常会話! 必須ですから!

 ヒロインとマンツーマンじゃないシーンを眺めてこそ萌えるんです。

 そこのところ、大事ですから! もっと力を入れてくださいゲームメーカーさん!!


「リサ、それ……」


 カルツと騎士隊について議論していたヴィニシスが、不意にリサの腕へ視線を向ける。

 興奮するあまりガッツポーズをしていて、その時にチャームの揺れるブレスレットに気づいたらしい。


「どこかで見たことが」


 さっとリサはブレスレットを手で隠した。

 ヴィニシスから調べさせろと取り上げられかねない。


「学則では、装飾品は過剰でない限り認められています」

「そのぐらい、見逃してあげてくださいね」


 すかさずローズお姉さまがフォローしてくれる。


「うむ……」


 その後、ヴィニシスはあごに手を置いて、なにやら考え込んでいた。


9/1より第二章の投稿を始めました!

KADOKAWA フロースコミックでコミカライズが

9/14より連載開始予定(漫画:御守リツヒロ先生)ですので、

そちらもぜひお楽しみください!


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