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015_魔物の群れ

「…………」


 空しいことに、何も起こらなかった。


 ウィンドウどころか、何の表示も見えない。

 どうやらパーティを組んでいても、ゲームみたいにパラメータが表示されることはないようだ。


 直接見ることができないのは残念だけれど、まったく問題ない。

 前世では“マジラバ”をやり込み続けていたわけで、初期パラメータぐらいなら、どのキャラも憶えている。


 たしか……自分も含めて三人は、こんな感じだった。




《リサ》

LV2/光属性

魔力 6

HP  10

MP  60

状態/健康

魔法

・浄化の光<プリズムライト>LV1

・眩忘の光<ニフライト>LV1

・癒しの光<ヒーリングライト>LV2

・光の矢<ライトアロー>LV2

・光の防壁<ライトシールド>LV2


《ステファン》

LV5/水属性

魔力 6

HP  25

MP  60

状態/健康

魔法

・水操作<ウォーター>LV1

・水の槍<ウォーターランス>LV2

・雨の矢<レイン>LV3

・水膜<バリア>LV4

・命の雫<ヒール>LV5


《アンナマリー》

LV5/火属性

魔力 7

HP  25

MP  70

状態/健康

魔法

・火の矢<フレイムアロー>LV1

・発火<イグニ>LV2

・纏い火<アドフレイム>LV3

・蒸発<ヒート>LV4

・目くらまし<スパーク>LV5




 そこまで思い出してから、ハッとする。


 現状のパラメータがわからないということは、自分のレベルもわからないということ。

 それだとヒースクリフとのエンドの条件も満たしたかわからなくなる。


 ――――魔力の流れている量とか、魔法を使える回数でなんとか判断するしかないかな。


 リサは目をつむって、意識を内へと向けた。


 魔力が常に身体の中を流れているのがわかる。

 すると、どの魔法をあと何回ぐらい使えるかも、自然とイメージすることができた。

 そして、はっきりとした数字には出てこないけれど、MP<マジックポイント>や、HP<ヒットポイント>が全体の何割ぐらい残っているかもわかる。


 もちろんヒットポイントは満タンだし、マジックポイントもほんの少し減っているだけ。

 光の矢を数回使っただけなので、まだまだ余裕がある。


 ちなみに、“マジラバ”では魔力はレベルアップ以外でも上昇する。

 魔物を倒した時に、その魔力の一部が吸収され、魔力が強くなっていく。

 魔力が上がれば、魔法の威力も上がるので、重要な要素だ。


 となれば、今することは一つ!


 内へと向けていた目を、外に戻す。


「リサ、何をなさっているの? 手が止まっていますわよ」

「ちょっと考えごとしていて……」

「戦闘中に? 光属性だからって、油断は禁物ですわよ」


 アンナマリーの言葉にぐうの音もでない。

 魔物を前に考えごとをするなんて、いくら最初の戦闘でもどうかしている。

 説明しようポーズをしていたステファンを笑えない。


「ごめん。ここからはよそ見せずにいかせていただきます! 光の矢<ライトアロー>」


 すぐに対象を定めると、光の矢を放つ。


「発火<イグニ>! 発火<イグニ>!」


 隣に立つアンナマリーも、魔法を連発している。

 けれど、黒焦げになって消えた後から、また闇角ウサギが現れる。


「一体、一体は大したことありませんけど、この数、なんとかなりませんの? 集中を乱されて……そうですわ! 前にわたくしの家で使った眩忘の光<ニフライト>で、まとめて消せません?」

「あれは、経験値が入らないからダメです!」


 ぴしゃりとリサは却下した。

 やるべきことは、ヒースクリフのまだ見ぬエンドのためにレベル上げをすること。

 弱い魔物でもリサにとっては立派な経験値源、追っ払ってしまうなんてもったいない。


「私に策があるから任せて」

「どうするの?」

「注意を他に向けさせればいいんでしょ?」


 リサは答えるなり、ステファンのほうを向いた。


「んっ? 僕の顔に何かついているのかな?」

「整いすぎた目を鼻と口が、あと……光の防壁<ライトシールド>」


 ステファンに向けて手を広げて掲げると、詠唱する。


 光の防壁<ライトシールド>は、光を指定した場所に何重にも重ねて盾とする魔法。

 武器でも頭突きでも、光の層を透過する際に勢いが弱まるという仕組みだ。


「おおっ! これが光の盾魔法」


 リサの魔法を帯びて淡く光る自分の身体に、ステファンが感動している。

 するとなぜか闇角ウサギが一斉に彼を見た。

 リサやアンナマリーと対峙していた魔物も、すべてステファンの方へ寄っていく。


「えっ? ええっ?」


 戸惑うステファンに、リサは一人悪い笑みを浮かべた。


 光の防壁には、隠された効果がある。


 それは、眩しくなるので敵を引きつけるのだ。

 間違っても、この魔法を後衛に掛けてはならない。


「盾で強化した王子に囮になってもらって、その間に背後から魔物を撃ちましょう」

「ステファンは大丈夫……なの?」


 王子を躊躇なく囮にするリサに、アンナマリーは面食らう。


「発火<イグニ>!」


 彼女がすぐにまた魔法を詠唱し始める。


 どうこう言う前に素早く倒してしまったほうがいいという判断をしたのだろう。

 このままだとアンナマリーに経験値の大部分を持っていかれてしまう、負けていられない。


「兎が経験値として輝いて見える……光の矢<ライトアロー>」


 地面からの炎と、光の矢が次々に闇角ウサギを襲っていく。

 倒れた魔物から小さな光の粒が飛び出し、リサとアンナマリーの身体へ吸い込まれていった。


「あっ……レベル上がったかも、よしよし、順調!」


 独特のざわっとする感覚がして、レベルアップしたのだと直観が告げる。


 しかし、またも闇角ウサギが数匹、茂みから飛び出してきた。

 そのままステファンの元に突進していく。


「僕が守る! って、言っているのに……うわっ……」


 なんとか防ぎながらも、数の多さにステファンも手を焼いている。


「リサ、このままでは、らちが明かないよ。浄化の光<プリズムライト>で魔物スポットの魔溜まりを消してくれないかな。そうすれば魔物も元に戻る」


 ステファンが魔物の現れた辺りを指さした。


 草原に咲く花の一輪が結晶のようになり、毒々しく闇を放っている。

 あれが魔溜まり……あれを浄化すれば、魔物が消えて元の草原に戻るはずだ。


 他のスキルと違って、浄化の光<プリズムライト>はMP消費がない、自分にだけ使える光の特別な魔法。


 魔物スポットで危機に陥ったら、確かにその方法で乗り切るしかないんだけど――――。


「まだ、早いです! 三人ならここは余裕レベルのはず」


 リサの言葉にステファンが困惑する。


「えっ? 浄化の光<プリズムライト>は……」

「まだです! あとでっ!」


 びしっと言い放つと、光の矢を再び放ち続ける。

 残った闇角ウサギが一斉にステファンに突進した。


「うわっ、ぐっ……痛く……ない、けどっ……」


 光の防壁の効果で、ステファンにダメージはほぼ通らない。

 イメージ的には、0が連続で浮かんでは消える感じ。


 けれど、チクチクぐらいはして嫌な感じはするのだろう。


「この兎っ、わたくしのステファンに何をするのです!」


 アンナマリーは声を上げると、両手をそれぞれ闇角ウサギに向ける。


「火の矢<フレイムアロー>!」


 アンナマリーは、今度は火の矢<フレイムアロー>を唱えた。

 頭上に燃える矢が現れ、彼女が掲げていた手を振り下ろすと、魔物目掛けて飛んでいく。


 発火<イグニ>より範囲は狭いけれど、発動が早く、魔力の消費量も少ない。

 火の矢が闇角ウサギを射抜いた。


「アンナマリー、ありがとう。貴女がいてくれてよかった」


 まだ生きている闇角ウサギの角に突かれながら、感動したステファンが大げさに声を振るわせた。


「ま、まあ……わたくしったら、余計なことを口走ってしまいましたわ」


 頬に両手を置きながら、アンナマリーが照れている。


「私も負けてられない! 光の矢<ライトアロー>!」


 長い矢をイメージして放出すると、魔物を三匹まとめて射貫いた。

 魔力が少しずつ上がっていくのがわかるけれど、中々次のレベルには上がらない。


「やっと……倒しきれたかな……」


 ステファンがふぅと大きく息を吐く。


 体力的にというより、突かれ続けて精神的にダメージを負ったのだろう。

 また飛び出してこないか警戒したけれど、辺りから物音が消えていた。


 それにしても、いきなり連続戦闘とか聞いていない。


 たしか戦闘チュートリアルでは、闇角ウサギが三匹出てきただけのはずだ。

 これはアンナマリーを連れてきたので、パーティレベルが高くなった補正なのだろうか。


 もし、この次のイベントにも影響があったら困るんだけど。

 そういえば、そろそろだよね?


 リサは一人、きょろきょろと辺りを伺う。

 すると、ザッと足音がして、闇角ウサギと同じように茂みからいきなり大型の何かが現れた。


「まだいましたの!?」

「アンナマリー、僕の後ろに!」

「待ってました!」


 警戒するステファンとアンナマリーに対して、リサが緊張感のない合いの手を入れる。


「おーっ、やってる、やってる。そんな君達に、いいものを持ってきてやったぞ」


 現れたのは新手の大型の魔物ではなく――――。

 大きな袋を手にしたヒースクリフだった。

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