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014_初めての戦闘

 魔物スポットの入口に近づくと、警備していた騎士がリサたちに気づいた。


「これはステファン殿下!」

「お勤めご苦労様」


 敬礼した騎士にステファンが、にっこり微笑んで労をねぎらう。


「ご学友と魔物討伐でしょうか?」

「ええ、若輩ながらご令嬢たちに魔物との戦闘をエスコートしようと思ってね。リサとアンナマリーです」


 先頭にいたステファンが右にずれて、リサとアンナマリーを騎士に紹介する。

 彼に続き、二人とも膝を軽く折って挨拶をした。


「これはこれは、名門ヴァルモット公爵家の令嬢に、噂になっている光のリサ殿まで……さすが殿下、素晴らしいご学友をお持ちで」


 名前を聞いて、騎士が驚きの声を上げる。

 どうやら騎士の間にも、二人のことは知れ渡っているらしい。


「今年は優秀な人が多いよね。僕もうかうかしていられないよ」

「ははは、ご謙遜を」


 さすが王子だけあって、騎士からの尊敬も、接し方もさすがだ。


「ここの魔物なら殿下であれば問題ないと思いますが、どうかお気をつけて」

「ありがとう」


 ステファンが頷くと、警備の騎士が左右に退く。

 記憶だと、ゲームと同じであれば、この草原の“魔物スポット”は初心者用で、魔物も強くない。


「ここだけ結界が薄くなっていて、人が入ることができるようにしてあるんだ」


 ステファンが入り口を指差しながら説明してくれる。


「稀に魔物が飛び出してくることもあるから、注意して」


 魔物スポットから魔物が飛び出した時のためにも、騎士が入り口を見張っているのだろう。


「危険があればすぐに我々をお呼びください。声は届きますので」

「それでは、意味がありませんわ」


 騎士の言葉を、アンナマリーがぴしゃりとはねのけた。

 苦笑いしながらも、騎士たちは警備の仕事に戻る。


 さすがチュートリアル、色々手厚い。

 前世で知っているゲームではこんな細かいシーンまでなかったから新鮮だ。


 ゲーム画面では、放課後の行動で、魔物スポットのどこに誰と行くか、カーソルを合わせるだけだった。

 魔物スポットには、それぞれ必要レベルがあり、レベル十五の魔物スポットなら、レベル十五のソロでも、レベル3が五人でパーティを組んでも挑むことができる。


 一方、合計レベルが足りない場合には、そもそも行くことができない。

 今だと騎士にまだ早いと止められる、といったところだろうか。


「では、入る前にパーティを組もうか」


 ステファンが軽く片手を上げる。

 戦闘学の授業で最初に学ぶのは、パーティを組む方法だ。

 そんなものはゲームになかったので、聞いたときは驚いた。


「「「ユナイト」」」


 アンナマリーとリサもステファンに倣い、手を上げて教えられた言葉を口にする。


 三人のいる中心から光の輪が生まれて、全員を包み込んだ。

 身体が淡く光って、ゆっくりと消えていく。


 ――――これがパーティ……?


 アンナマリーとステファンの存在が、どこか近くなった気がする。

 小さな糸で繋がっているとでもいうのだろうか。


 不思議な感覚だ。

 あと三人で手を上げて叫ぶのは、ちょっと恥ずかしい。


「では、行こう。二人とも手を」


 無事パーティが組めたことを確認すると、ステファンが軽く腰を折って、両手をそれぞれリサとアンナマリーに差し出す。

 その優雅な所作は、まるで二人同時にダンスの誘いをしているかのようだ。


「私は大丈夫ですので、ステファン王子。アンナマリーをお願いします」

「……えっ、リサ」


 アンナマリーがステファンの手を取ったのを確認してから、丁重に断った。


「わかった。アンナマリー、僕の手を離さないで」


 手を引っ込めるタイミングを失ったアンナマリーが、睨んでくる。

 にやにやしながら、リサもステファンの後をついて、魔物スポットに足を踏み入れた。




※※※




 リサ、アンナマリー、ステファンの三人が草原の魔物スポットに入っていった時、ヒースクリフは、少し離れたところで見ていた。


「心配だからね、俺って面倒見いい!」


 ここまで三人を尾行していたのだ。


 目的は色々ある。

 最愛の妹を守るためでもあり、気になっている光属性の令嬢を見張るためでもあり、自らの商売の顧客を増やすための努力でもある。


「ちっ……邪魔だな」


 魔物スポットの入り口に近づいたヒースクリフは騎士の姿を見つけ、舌打ちした。

 自分の姿を見れば、騎士は魔法が使えない者は危ないからと、勝手な正義感で止めるだろう。


 うっとうしいこと、この上ない。

 騎士達は、ヒースクリフの一体何を知っているというのだろうか。


「影消し<シャドウ・オフ>」


 ヒースクリフは、小さく詠唱した。


 この魔法は対象の影を消して、見た者の感覚を歪ませる。

 影のない物は、物として認識されない。

 通常、人は影がある物を物体として捉えているので、影のないヒースクリフの姿は、そう簡単に認識できなくなる。


「んっ? 今、誰かいなかったか?」

「俺は誰も見てないが……」


 騎士が辺りを見回すも、草原に立っているヒースクリフに視点が合うことはない。


「見間違いだろ。この見晴らしのいい草原に隠れる場所なんてないぜ」

「そうだな、変なこと言って悪い」


 騎士二人の目の前を、ヒースクリフは難なく素通りした。




 ヒースクリフがリサたちの入った魔物スポットに足を踏み入れる。

 すると、さっそく魔物が現れた。


「闇角ウサギ<ダークホーンラビット>か」


 それはウサギが魔物化したもので、額から大きな黒い角が突き出ていた。

 学生がおそらく最初に倒すだろう弱い魔物の一種で、魔法でなくとも倒すのは容易い。


「チチッ……」

「うるさい……」


 ヒースクリフにとっては、わざわざ倒すまでもない相手だ。

 自分は経験値を稼ぎに来たわけではない。

 一々相手をしていられなかった。


「闇の歩行<ダーク・ウォーク>」


 再び魔法を唱える。

 闇の炎が四つ生まれ、ヒースクリフの周囲をゆっくり回る。

 この闇は畏怖の象徴であり、弱い魔物は恐れを感じて近づけなくなる。


「キー……キュキュ」


 弱い魔物である闇角ウサギも当然ながら、逃げ出した。

 その後も魔物に遭遇するも、ヒースクリフに近づこうとすると、次々逃げ出していく。


「雑魚が……」


 ヒースクリフは魔法が使えないわけではない。

 ある理由から使えないフリをする必要があったに過ぎなかった。




※※※




 一方その頃、リサたちはその闇角ウサギに囲まれていた。


「落ち着いて。数が多いだけだから冷静に対処すれば大丈夫だよ」


 ステファンの指示が二人に飛ぶ。


 いきなり最初の戦闘で魔物が群れで現れたため、さすがに慌てた。

 けれど、そこは前世の知識で闇角ウサギが雑魚だと知っているリサと、元々度胸のある悪役令嬢アンナマリーだ。

 すぐに態勢を立て直して、授業でやったように三角形の陣形を取る。


 魔物の群れと戦う際に怖いのは、背後から攻撃されることだ。

 後ろから来るかもしれないという恐怖が、魔法の威力を鈍らせたり、照準が定まらなくなることがある。

 なので、相手の数が多い場合、死角を作らないように戦うのが基本だった。


「まずは二人で倒してみて」


 ステファンの言葉にリサとアンナマリーは頷いた。

 彼はすでに魔物スポットの探索を経験済みなので、二人が実力を試す時だ。


 それにしても……。


 雑魚魔物の、闇角ウサギって実際に戦うとすばしっこくて面倒だ。

 ある程度魔法は対象を追尾してくれるとはいえ、大きく外れれば簡単に避けられてしまう。

 命中率なんて、ゲームの中では関係なかった。


「アンナマリー、いい?」

「ええ、いきますわよ!」


 アンナマリーに呼び掛けると、リサは闇角ウサギの一体に対象を絞った。


「このっ、光の矢<ライトアロー>!」


 本当に弓を構えるように右手を突き出し、左手を曲げて身体に引き寄せる。

 そして、闇角ウサギに向けて詠唱すると、光の矢が素早く飛び出した。

 ポーズはなんでもいいし、極論を言うと棒立ちでもいいのだけれど、このほうが狙いやすい。


「キ――――」


 光の矢が命中した闇角ウサギが、断末魔を上げた。


 魔法で光を凝縮して作った矢に触れたものは、太陽の光によって焼かれる。

 闇角ウサギは一瞬白い炎で燃え上がり、すぐにパッと消えた。


「お見事。魔物は闇属性だから、リサの光属性の魔法に特に弱いよ。どんどん攻撃してみよう」


 戦闘中なのに、ステファンが人差し指を軽く上に向けて、いわゆるワンポイントアドバイス的なポーズを取っている。


「……しゃべり方が、チュートリアルすぎます、王子」


 さすがに、思わずつっこまずにいられなかった。


「僕の属性は水だよ。回復魔法も使えるから安心して」


 リサのつっこみに、ステファンはまったくの無反応だ。

 これも世界の強制力の為せることなのだろうか。


 ――――そういえば、アンナマリーの属性は……。


「発火<イグニ>!」


 ちょうどよく、アンナマリーの詠唱する声が隣から聞こえてきた。

 彼女は右手を闇角ウサギが数体いる辺りに突き出すと、親指と人差し指を擦り合わせて鳴らす。


 すると一本の草に火がついて、一斉に燃え上がった。

 焼かれた闇角ウサギ数匹が、力尽きてコテンとお腹を見せ、先ほどと同じく消滅する。

 辺りに焦げ臭さが広がった。


 彼女は、高威力、広範囲の攻撃に特化した火属性に間違いない。


 ――――しかし、えぐい……。


 死体こそ残らないからマシだけれど、辺りを焼き尽くすその攻撃はアンナマリーの性格以上に激しいものだった。


 確か開始時のレベルは、ステファンとアンナマリーのほうが高かったんだっけ?


 実際、二人は同級生の中でも突出した魔法の素質があると言われている。


「ステータス……メニュー……ウィンドウ」


 試しに自分の前に手をかざし、お約束の文言をリサは唱えてみた。


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