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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 第五章 胸糞・・・胸糞・・・クソ!クソ!クソ!

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凋落のエメラルダ(11)

 目の前で神民魔人が「魔獣回帰」を使ったという事実に、義雄は臍を噛んだ。


 確かに、自分が騎士に任命されていないという現実は受け入れがたい。

 だが――百歩譲ってだ。

 仮に自分が選ばれず、別の者が新たな騎士に選任されたとしても、門外に眠るキーストーンを守るため、聖人世界のフィールドを維持するのが常道のはずだった。


 そのためにこそ、新たな騎士は速やかに自らの神民を選ぶ。

 それが、この世界の「当たり前」だ。


 確かに、ここにいる魔装騎兵たちは誰一人として新しい騎士に「神民」として選ばれていない。

 選ばれていない以上、神民スキル「限界突破」が発動できないのは理解はできる。


 ――そこまでは、だ。


 だが、神民魔人が神民スキル「魔獣回帰」を使えるのは、まったくの別問題だ。


 というのも、神民魔人の神民スキルが発動できるのは、魔人世界のフィールド内のみ。

 つまり――この駐屯地は、すでに魔人世界のフィールドに呑み込まれていることを現わす。


 義雄は、ギリギリと奥歯を噛みしめた。


――話が違うじゃないか……

――なんで俺が、こんな目に遭わなきゃならない。


 まさか。


――俺は……アルダインに、はめられたのか?


 この機に乗じて、エメラルダに縁のある者たちを一掃するつもりなのではないか。

 そう考えれば、すべてが繋がる。


――くそ……アルダインめ。

――この仕打ち、ただで済むと思うなよ。


 だが、ここで負け犬の遠吠えをしても、アルダインに届くはずもない。

 何としてでも内地に戻り、一矢報いる――それしかない。


――今の駐屯地に義理立てしても意味はないな。

――ならば……逃げるか――


 だが! その考えは、一瞬で砕け散った。


 城壁の裂け目から、ひとつの巨大な影が現れたのだ。


 筋肉が異様に隆起した、圧倒的な巨躯。

 魔物たちがざわめき、次々と道を開けていく。

 魔人たちは即座に膝をつき、すでに頭を垂れていた。


 恐怖。

 それだけが、そこにあった。


 その存在が放つ威圧だけで、周囲の生き物は呼吸すら忘れる。

 空気が凍りつき、世界が静止する。


 ――魔人騎士、ガメル。


 巨大な剣を肩に担ぎ、

 ガメルは、ゆっくりと姿を現した。


「ガメル! 貴様! ノコノコと!」


 恐怖におののきながらも、一人の魔装騎兵が声を張り上げ、果敢にもガメルへ斬りかかった。

 必死に振り下ろされた剣閃。


 だが――


 きん、と乾いた音を立て、その剣筋は金色の光に弾かれた。


「騎士の盾か!」


 ガメルの全身を包み込むように、巨大な金色の光が揺らめいている。

 魔装騎兵の剣は、その光の表面を滑っただけだった。


「ガメル! 正々堂々と勝負しろ!」


 叫ぶ魔装騎兵の剣先は、小刻みに震えている。

 恐怖を押し殺そうとすればするほど、その震えは隠しきれなかった。


 ガメルは、それを横目で一瞥する。


「その威勢は嫌いではない」


 だが、と続けて、低く言い放った。


「――今は、貴様と遊んでいる時ではない」


 次の瞬間。

 ガメルの腕が動いた。

 『凶虫の棍棒』が、空気を裂いて振り抜かれたのだ。


 もう、次の瞬間には、魔装騎兵の姿はその場になかった。

 肉体は一撃で弾き飛ばされ、為す術もなく宙を舞い――


 壁に叩きつけられていた。


 鈍く湿った衝撃音と同時に、

 赤黒い花が、壁一面に叩きつけられるように咲き誇っていた。


 黒い胸部装甲は大きく陥没し、内側から折れた肋骨が突き出している。

 だらりと垂れ下がった手足の装甲の隙間から、とめどなく血が流れ落ち、床に赤い川を作っていた。


 誰も、すぐさま救助に向かわなかった。

 もう、生きているとは到底思えなかったのだ。


 ……いや、違う。

 義雄をはじめ、魔装騎兵たちはその場から動けなかった。


 動いた瞬間、殺される。

 そう理解するよりも早く、体がそれを拒んでいた。

 足が、地面に縫い留められたかのように。


 一方、ガメルは、壁に張り付いたまま動かないその死体に、視線すら向けなかった。

 興味を示すことなく、残された魔装騎兵たちへと怒声を叩きつける。


「オイルバーンはどこだ!」


 場の空気が、凍りついた。


「……オイルバーン?」


 思わず漏れた義雄の声が、やけに大きく響く。


 義雄を含め、魔装騎兵たちは誰一人として疑っていなかった。

 ガメルの狙いは、この駐屯地に眠るキーストーン――それこそが、この戦いの理由だと。


 だからこそ、その口から放たれた聞き慣れない名に、困惑が走った。

 互いに顔を見合わせる魔装騎兵たち。


 オイルバーン。

 だが、その名を、ここにいる誰一人として知らなかった。


「お前……キーストーンを奪いに来たんじゃないのか?」


 義雄の問いに、ガメルは答えない。


 一体、オイルバーンとは何なのか。

 オイルパン? 廃オイルを入れる、あの金属容器のことか?

 いやいや、オイルパンって言ったら揚げパンだろ。

 ……待てよ。

 「おい、ルパン!」――銭形のとっつぁんのことか?


 ――って、この駐屯地に銭形なんて名前の奴、いたか?

 いや、いない。断じていない。


 魔装騎兵たちは再び互いの顔を見て、無言で首を振り合う。

 誰も、その名に心当たりはなかったのだ。


 その様子を見て、ガメルは悟った。


 ――まさか……あの女に、ガセを掴まされたか。


 脳裏に浮かんだのは、一人の女の顔。

 尾根フジコ――そう名乗る女である。


 ガメルは、彼女にオイルバーンの奪取を依頼していた。

 だが、そのオイルバーンは、ルパン・サーセンによって持ち逃げされていた。

 手詰まりとなった尾根フジコは、代替情報としてギリー隊長から仕入れた噂を持ち出したのだ。

 ――『オイルパンは第六駐屯地に運び込まれた』と。


 だが、目の前の人間たちの反応を見る限り、その情報は怪しい。

 少なくとも、この駐屯地にオイルバーンが存在する気配はない。


 ――だが、引き下がるわけにはいかん。


 どうしても、オイルバーンを手に入れねばならない。

 ――愛する、あいつのために。


 そして、必ず月へ行く。

 ――必ず……必ず、アイツを連れ戻す。


 ここにないのなら、それは聖人世界の内側にあるはずだ。

 ――ならば、そこまで取りに行くまでのことよ!


 聖人世界へ踏み込むには、聖人世界の騎士の門を開けねばならない。

 だが、その門は魔人にとっては開かずの扉。

 唯一、それをこじ開ける手段――キーストーン。


 ガメルは、ゆっくりとその場を見渡した。


「オイルバーンが無いのなら……」


 一拍。

 沈黙が、場を締めつける。


「――代わりに、キーストーンをもらい受けるとしよう!」


 詰め寄るような低い声。

 その圧に押され、魔装騎兵たちはじり、と後ずさった。


「うぉおおおおおおおお!」


 咆哮とともに、ガメルは覚悟を固める。

 次の瞬間、その巨体を金色の光を放つ球体が、爆ぜるように包み込んだ。


「もう、終わりだ! 逃げろ!」


 最初に悲鳴を上げたのは、やはり奴隷兵たちだった。

 命令を待つという発想すらない。責任も誇りも持たされていない彼らにとって、生き延びる以外の選択肢は存在しないのだ。


 数人が城門へと駆け出し、勢いのまま閂に取りつく。

 重い音を立てて門が開いた。


 その先にあったのは、逃げ道ではなかった。


 魔物。

 魔物。

 魔物。


 城門の外は、ひしめく魔物で埋め尽くされていた。

 一体や二体ではない。足の踏み場もないほどの数が、門の向こうで蠢いている。


 言葉を失った奴隷兵たちの体が、ほとんど同時に反転した。

 恐怖を理解するよりも早く、脚が駐屯地内へと向いていたのだ。


 逃げ帰る奴隷兵の姿を見て、一般兵たちの間にも動揺が走る。


「正門は駄目だ……!」

「なら、裏門だ! 裏の小門ならまだ――!」


 誰かの声に、希望という名の錯覚がすがりつく。

 隊列も指揮も失った一般兵たちは、我先にと裏門へ殺到した。


 慎重に、音を立てぬよう扉が押し開かれる。


 しかし、そこに“何もない空間”はなかった。


 門の外に立っていたのは、神民魔人たちだった。

 逃走経路を読んでいたかのように、整然と、静かに。


 一瞬の沈黙。


 次の瞬間、神民魔人たちが一斉に声を張り上げる。


「魔獣回帰!」


 肉が盛り上がり、骨格が歪み、人体の輪郭が崩壊する。

 人だったものは、瞬く間に巨大な魔物へと変貌した。


 裏門は、完全に塞がれた。


 しかも、それらはただの獣ではなかった。

 知性を保ったまま、ゆっくりと口を開く。


「さあ……食事の時間だ」


 次の瞬間、一般兵たちの悲鳴が折り重なり、

 駐屯地には、逃げ場のない絶望だけが満ちていった。


 神民兵たちは、互いの顔を見合わせた。

 指揮を執る者を失い、誰が前に出るでもなく、誰が命令を下すでもない状況。

 こんなときに、カルロスが居てくれたなら――そんな思いだけが、無言のまま共有されていく。

 その空白に耐えきれなかったのか、戦意を失った魔装騎兵たちが、じりじりと後退を始めていた。


「撤退! 撤退! 撤退!」


 駐屯地内に、怒声と悲鳴が折り重なる。

 だが、すでに二つの城門は大きく開かれていた。

 雪崩れ込んだ魔物たちは通路を埋め尽くし、逃げ惑う兵を踏み潰し、引き裂き、血と悲鳴で地面を塗り替えていく。

 倒れた者の上をさらに魔物が乗り越え、叫びは断末魔へと変わり、秩序は音を立てて崩れていった。

 駐屯地はもはや防衛拠点ではない。

 逃げ場を失った者たちを呑み込む、阿鼻叫喚の地獄と成り果てていた。

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