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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部3章3~体臭クンクン美女発見! 美女の香りにむせカエル編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 三章② タカト!大ピンチ! ~ 正体見たり!盗撮カメラ!モモクリ発見!禍機断ちねん!編
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オオボラの誘惑

「そこまで!」

 ガンエンが手を挙げ、鋭く声を響かせた。試合終了の合図だ。


 そのまま、広場の端──壁に突っ込んだまま倒れているタカトのもとへと歩み寄る。


 仰向けで壁にもたれかかるタカトは、ピクリとも動かない。

 白目をむき、口を半開きにして、気を失っているようだった。

 ……完全に、魂が旅立っている。


 タカトの顔のそばに、ガンエンの影が落ちる。

 そのまま、のそりと顔を覗き込んだ。

「一回目の『至恭至順』は──なかなかよかったぞ」

 ちゃんと褒めるあたり、師匠としての鑑である。

 だが、感謝の言葉は返ってこない。


 というか──

 タカトの口から、ふわふわと白い魂が抜けていた。


 ガンエンは、それをさも当然のようにギュッとつかむと、

「はい戻レイ」

 そのまま、タカトの口の中へと突っ込んだ。


 ゴキッ!


 ……いま、タカトの顎からSMちっくな音がしたような気がするけど。

 きっと気のせいだろう。


 ていうか──ガンエンさん、霊が見えるんですか?


 いやまあ、こう見えても万命寺の住職ですし。

 毎朝、ちゃんとお経は唱えているのだ。

 (録音テープの再生だけど。──byコウエン)


 しかし──タカトは蘇生しない。

 このままでは、マジで霊があの世へ旅立ってしまうかもしれない。


 そうなると──

「こらぁッ! ガンエン! うちのタカトに何してくれとんじゃあああッ!」

 ……と、権蔵が怒鳴り込んでくるのだ。


 想像しただけで──めんどくさい。

 いや、超めんどくさい。

 モンペの相手を、永遠、12時間コース……

 これだけ時間があれば、ドラクエのレベル上げだって、かなり進められる。

 下手すりゃ、パーティメンバー全員が賢者になっててもおかしくない。


 ――仕方ない。

 ここは万命寺の秘術を使ってでも、蘇生を試みるしかあるまい。


 おもむろに、ガンエンは手を組んだ。

 それはまるで、真言宗における密印のよう──厳かで、神秘的。

 そして、ぶつぶつと真言を唱えはじめたかと思えば──

 カッと目を見開いて叫んだ!


「タカトやッ! あんなところに巨乳美女が!」

 ……って、万命寺の秘術ってそれかいッ!


 しかし──


「えっ! どこどこどこ!?」


 その瞬間、タカトの体がビクンとはね起きた!

 さっきまで白目むいて倒れてた男とは思えないほどの、キレッキレの動きで周囲を見回す!

 まさに──死すら吹っ飛ぶエロ心。

 どうやら、万命寺の秘術はタカトには効果てきめんだったらしい。


 その様子を見ていたビン子は、顔を手で覆ってポツリとつぶやいた。

 ──ダメだこりゃ……。


 オオボラが歩み寄ってきて、タカトに手を差し伸べる。

 タカトはぶつぶつ文句を言いながらも、その手をとって立ち上がった。


 そんな二人に、コウエンが手拭いを差し出した。

 顔を拭き終え、スッキリとした表情の二人は──


「ああ! 顎がいてぇ! オオボラ! 覚えてろよ! 今度は俺がお前の顎をどついちゃる!」

 ……って、どつかれたのは腹。

 ていうか、アゴをやったのは、ガンエンさんの仕業でしょうが。


 だが、オオボラはタカトよりも一枚上手。

 無駄な反論はしない──大人の対応である。

「あぁ、楽しみに待っているよ」


「お前、今の聞いて“無理だな”って思っただろ!」

「バレたか。タカト、お前じゃ──一生無理だよ」


 二人は笑いながら拳を軽くぶつけ合った。

 そんな開放感あふれる光景を、コウエンとビン子は楽しそうに見つめていた。


 一件落着──

 ……と思ったのだが。


「ていうか……お前、なんか臭くない?」

 オオボラが鼻をつまんだ。


 ……やっぱり、そうか。

 さっきまであった腹の違和感が、どこかスッキリしている。

 まるで栓が抜けたかのような、妙な開放感。


 まさか……!


 そっとズボン越しにお尻を触れてみた──


 ヌルッ。


「………………ッ!!」


 タカトは凍りついた。

 それとなく、ビン子へ声をかける。

「ビン子ちゃん……ちょっとお願いがあるんですけど……」


 振り向いたビン子が、不思議そうに首をかしげる。

「なに?」


「あのですね……怒らずに聞いていただけると嬉しいのですが……」

 タカトは、救いを求めるように──ちょっと、ほんのちょっとだけ湿った手のひらを、ビン子へ差し出す。

「この道着、返す前にですね……あの……洗濯したいのですが……手伝っていただけませんでしょうか……」


 その瞬間──

 風向きが変わった。

 それまで風上にいたビン子が、風下へ──


 ぷぅ~~ん……


 笑顔だったビン子の顔が、

 にっこり → 無表情 → 苦悶

 とスライド式に変化していく。

 香ばしい香りが、フルスロットルで鼻を直撃したのだ。


 ビン子は、すべてを悟った。


 目の前に突き出された、ほんのり湿ったタカトの手──

 激しい練習で汗ばんだのだと思っていた。

 だからこそ、「よく頑張ったね」と、温かく受け取ろうとしていたのに。


 だが!違う!

 断じて違う!

 今や、この手を取ることは絶対にできない!

 ていうか、クソの漏れた道着の洗濯なんて──!


「いやああ!! 自分ひとりでやりなさぁぁぁい!!」


 ビン子は顔を真っ赤にして、後ろに全力で三〇歩下がった。


 修行……じゃなくて、道着の洗濯が終わり、寺からオオボラと一緒に帰るタカトとビン子。

 ちょうど、先日ダンクロールを打ち取ったあたりにさしかかった。

 タカトとしては、オオボラに負けたのがよほど悔しかったのか──

 「俺があの豚肉をとったんだぜ」と、妙に威張ってみせる。


 だが、オオボラは「ふーん」とだけ。

 ──暖簾に腕押し、豆腐にかすがい。まさに張り合いがない。


 つまらん……

 仕方なく、話題を切り替える。


「じいちゃんの話だと、この近くの森に“小門”があるかもしれないんだとよ」


 タカトとしては、ただの世間話のつもりだった。

 ──が、オオボラの足がピタリと止まる。

 そのまま森の奥を、鋭い目で睨みつけているではないか。


「なぁ、タカト。その“小門”とやら……行ってみないか?」


 ──豚肉じゃなくて、小門に食いついたか……

 少々がっかりしながらも、タカトは初めて見る真剣な表情に目を丸くした。


「なんで? 小門にはなにがあるんだよ」


 オオボラは、森から目を離さず答える。

「あぁ、“キーストーン”ってお宝が眠ってるはずなんだ」


「キーストーン?」

 聞いたこともない。

 というか、宝物と言ったらアイナちゃんの写真集だろう!

 ──そういえば、豚の着ぐるみで投げキッスしてる写真集があったな……

 タイトルは確か「キス♡(トン)」……神写真集だった……(うっとり)


 オオボラはそんなタカトの妄想などお構いなしに、淡々と語る。

「キーストーンは門の鍵で、その門の中に“神”を閉じ込め、支配できるらしいんだ」


「神をね……」

 まるで興味なさげに答えながらも、タカトはちらりと後ろのビン子を見る。


 ──神ならここにいるわい。

 閉じ込められるもんなら、このビン子を閉じ込めてほしいもんだ……!


 こいつさえいなければ……

 こいつが変なものさえ調理しなければ……

 今日の朝、わざわざ芋を食う必要もなかったのだ。

 すなわち、芋さえ食っていなければウ〇コを漏らさずに済んだ。

 ということは──全てビン子が悪い!


 だが──神を閉じ込める、とは。

 いくらなんでも、それは少々やりすぎじゃないか?

 実際、ビン子を閉じ込めると言われて、「はいそうですか」とは言えない。

 それは、ビン子に限らず、他の神でも同じこと。

 他人を閉じ込め束縛していいはずがないのだ。

 ……って、おいタカト!

 お前、さっきビン子を閉じ込めろって言ってただろうが!

 ──あれはな……もののはずみ! ただの勢いってやつだ!


 オオボラは、何か思いついたようにニヤリと薄気味悪く笑った。

「そのキーストーンの場所を知らせれば──大金貨500枚(日本円で5千万円)はくだらないぞ」

 

 それを聞いた瞬間──タカトの目に、円マークが浮かんだ。

 (まぁ、融合国の通貨が“円”なのかどうかは知らんけど!)


 ――大金貨500枚だと⁉


 それだけあれば、オオボラと山分けしても250枚!

 仮にビン子を頭数に入れて三人で分けたとしても、一人あたり166枚!

 そして──ビン子の分は俺のモノ!

 横取りすれば、なんと合計332枚!

 さらに端数の2枚を加えれば──

 ななななんと俺の取り分、334枚!

 オオボラより多いではないかッ!


 これだけあれば……俺、もしかして神民学校に行けるんじゃね?

 神民学校に行けたら、魔装騎兵になることだって夢じゃない!

 そうなれば、あの獅子の魔人にだって勝てるはず!


 ──そして何より!

 万命寺で、痛い修行をしなくて済むッ‼

 (↑ここが一番の本音)


「俺、探しに行くよ!」

 ということで、タカトは二つ返事で了解した。

 

 だが──こういう時に水を差してくるのが、いるんだな、必ず。

「危ないよ、タカト! じいちゃん、いつも『門には入るな』って言ってたでしょ」

 ビン子が不安げな目でタカトの袖をつかんだ。


 だがタカトは、その手をひょいと払って大笑い。

「大丈夫だって! 小門には神民魔人も魔人騎士も入れねぇんだから、むしろ安全安全!」

 そう、小門を通れるのは、一般国民以下の身分のモノに限られているのだ。


「でも……魔物はいるんでしょう」

 ビン子は、まだ不安の色を隠せない。

 ……まぁ、確かに。ビン子の言うことは一理ある。

 なんせ、魔人界で言うところの“一般国民レベル”の魔物なら、小門をくぐって入って来られるわけで……

 ──って、危ないやん! それ、フツーに危険やん!


 タカトとオオボラは、顔を見合わせた。

 ピーピ・ピピピ・ピーピーピー──

 どうやら目と目で思念を飛ばしあっているらしい。


 なにせ、ビン子が権蔵にチクろうもんなら──

 この男たちの浪漫と冒険は、水泡に帰すのだ。


 ──ならば、どうする……

 ビン子を黙らせるには……どうすればいい?

 買収か?

 いや、それはダメだ。ビン子の大金貨は俺様のものだい!

 どうやらタカトは、買収工作に強く反対の構えらしい。


 となれば、あとは──

 オオボラが、先ほどまでの怖い顔から一転。

 にこやかな笑顔で、ビン子に向かってウィンクをひとつ。


「安心しろ。魔物が出たら俺が何とかしてやるよ。俺の強さ、知ってるだろ? “対応戦力等級”25だぜ?」


 “対応戦力等級”──

 それは守備兵や魔装騎兵が、どれだけの敵を制圧可能かを示す基準だ。

 魔物の強さは“制圧指標”という数値で表され、それとの兼ね合いで、任務の可否や配属が決まる。

 たとえば、魔物カマキガルの制圧指標は21。

 つまり、オオボラなら1匹くらい──余裕で倒せるってわけだ。

 ちなみに、タカトの“対応戦力等級”は1である……


「だからな、大人たちには──絶対、ナイショだぞ?」

 オオボラが、ビン子に念を押す。


 続いて、タカトも威勢よく──

「そうそう、俺もいるしな!」


 ……ビン子が、じと目で言い放つ。

「タカトが一番心配なんですけど……」


 だが、その忠告はスルーされた。


 こうして──

 タカトとオオボラによる“小門探索”は、着々と動き出し……

 物語は、冒頭の“あの朝”へとつながっていくのだった。

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