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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 第五章 胸糞・・・胸糞・・・クソ!クソ!クソ!

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凋落のエメラルダ(8)

 カルロスは、第六の門の宿舎にある隊長室で、エメラルダ逮捕に関する情報を洗い出していた。

 報告書、伝聞、兵たちの証言。そのひとつひとつは事実であり、裏付けもある。

 だが、それらを拾い集めるほどに、全体像は逆に噛み合わなくなっていった。


 事実は、確かに存在する。

 しかし、その並びが歪んでいる。

 まるで意図的に、ある順序を崩されているかのようだ。


 ――おかしい。


 胸の奥で、疑念だけが静かに、しかし確実に膨らんでいく。

 嫌な予感だった。経験が告げている。

 これは単なる情報不足ではない、と。


 そのとき、隊長室のドアが唐突に開かれた。


 外から、数人の神民兵らしき男たちが、合図もなく雪崩れ込んでくる。

 室内の空気が、一瞬で張り詰めた。


「何の用だ」


 声を荒らげることもなく、カルロスは男たちを冷ややかに睨め付けた。

 その視線だけで、十分だった。

 神民兵たちの動きが、わずかに鈍る。


 その張り詰めた空気の隙間を縫うように、

 男たちの背後から、一人の男が姿を現した。


「これはこれは、カルロス“もと”隊長どの!」


 ジャックだった。

 口元に薄い笑みを貼り付け、あからさまな嘲りを含ませたまま、形式だけの敬礼をしてみせる。


 ――もと……だと?


 その一言が、鋭い棘となって胸に引っかかった。

 カルロスは表情を一切動かさぬまま、その言葉の意味を反芻する。


「で、第一の魔装騎兵どのが、いかようか?」


 カルロスは、胸に生じた違和感に従い、声の調子を崩さずに問いかけた。

 刺激せぬよう、あくまで形式的に。

 だが、その冷え切った視線だけは、意図せずとも相手を射抜いていた。


 案の定、ジャックの肩が、ほんのわずかに揺れた。

 一瞬の動揺。

 それを誤魔化すかのように、ジャックは視線を隊長室の中へと彷徨わせる。


 机。

 壁。

 備え付けの棚。


 まるで、この部屋そのものが気に入らないとでも言いたげに、

 あちこちへと目を走らせ、無意味に指先で触れて回った。


「いやぁ……これからは、俺たちがこの宿舎を使うことになったんですよ」


「そんな話は、聞いておらんが」


 カルロスは一歩も動かない。

 ただ、視線だけを向けたまま、ジャックを見据え続ける。

 逃げ場を与えぬ視線だった。


 ジャックは、小さく何かを呟いていた。

 まるで、自分に言い聞かせるように。

 あるいは、苛立ちを押さえ込むための、無意識の癖かもしれない。


 大きく息を吸い込み、吐く。

 そして、覚悟を決めたようにカルロスの正面まで歩み寄ると――


 机の上に、命令書を叩きつけた。


「だから、今、伝えてるんだよ! ジジイ!」


 言葉とは裏腹に、その声はわずかに上擦っていた。

 怒鳴ることで、自分を奮い立たせているのが透けて見える。


 カルロスは、その様子にも眉ひとつ動かさない。

 歴戦の勇者は、ただ静かに命令書を手に取り、

 そこに記された文字へと、淡々と目を走らせていった。


 ――やはり、そう来たか。


 胸にあった疑念は、もはや疑念ではない。

 確信へと、静かに姿を変えていた。


「この命令書には、現時点をもって第六部隊は解散。

 その上で、第一部隊にすべてを引き継げとあるが」


「……ボケたのか? その字面通りだよ!」


 カルロスの視線に一瞬たじろぎながらも、ジャックは強引に顔を近づけた。

 威圧するつもりで。

 だが、その距離の近さは、かえって焦りを露呈しているようにも見えた。


 カルロスは、何も言わずに視線を机の上にある書類へと戻した。

 感情を挟む余地はない。確認すべき点は、すでに確認し終えている。


 紙の質。

 印章。

 命令文の書式。


 どれを取っても、見慣れたものだった。


 ――本物だ。


 そこに疑いを差し挟む余地はない。

 だからこそ、なおさら解せなかった。


「……このような内容を、エメラルダ様が、お認めになるわけがなかろう」


 低く、抑えた声だった。

 理屈ではなく、信念から滲み出た言葉。


「ジジイ! 何にも知らねえのか!」


 ジャックの声が、露骨に荒れた。

 苛立ちが、そのまま音になって飛び出してくる。


「エメラルダは、もう騎士じゃねえよ!」


「……なんだと」


 思わず、カルロスは立ち上がっていた。

 身体が先に反応していた、と言うべきかもしれない。

 その動作に、迷いはなかった。

 だが――


「裁判の結果だ。騎士の刻印は剥奪。

 代わりに、新しい騎士が任命されたんだよ!」


 その言葉に、カルロスは息を呑んだ。


 はっとして、自らの胸元へと手を伸ばす。

 無意識の動作だった。

 だが、胸元を探った指先が、虚しく宙を掻く。


 そこにあるはずの、エメラルダの神民である証。

 刻まれていたはずの紋章は、

 まるで最初から存在しなかったかのように、消え失せていた。


 ……ない。


 エメラルダが、騎士ではない。

 裁かれ、騎士の刻印は剥奪された。

 それは、紛れもない事実だった。


 ――そんな……馬鹿な。


 長年、命を懸けて仕えてきた主の名が、

 あいまいな疑惑ひとつで潰される。

 その現実が、カルロスの背骨を内側から砕いていく。


 体中の力が、音を立てて抜け落ちていくのが、はっきりと分かった。

 視界が滲み、輪郭が曖昧になる。

 何を見ているのか、何を感じているのかさえ、判然としない。


 ――これは現実なのか。

 ――それとも、悪い夢か。


 その問いに答えを出すことすらできず、

 カルロスは抗うこともできないまま、椅子へと腰を落とした。


 次の瞬間。


 カルロスの視界が、乱暴に揺れた。


 白髪混じりの頭を、ジャックの手が鷲掴みにしていた。

 そこに、遠慮も躊躇もない。

 力任せに引きずり下ろされ、

 カルロスの体は椅子から床へと叩きつけられた。


「だからよぉ!」


 勝ち誇った声が、頭上から降ってくる。


「もう、お前は、ただの一般国民なんだよ!」


 唾を飛ばし、笑いを噛み殺すことすらしない。

 その声音には、長年押し殺してきた劣等感と、

 今ようやく手にした優越が、濁ったまま混じっていた。


「元教官だからって、偉そうにすんな!」


 靴先が、わざとらしく床を鳴らす。

 見下ろす視線は冷たく、

 同時に、どこか愉しげでもある。


「だいたいなぁ――」


 言葉を区切り、わざと間を作る。

 この瞬間を、舌の上で転がすかのように。


 ジャックは倒れたカルロスを見下ろしたまま、

 嘲るように、吐き捨てた。


「神民様が座る椅子に、

 ふんぞり返って座ってんじゃねえよ!」


 その言葉が、最後の楔のように突き刺さる。

 カルロスは床に伏したまま、

 拳を握ることすらできなかった。


 力の抜けきったカルロスに、もはや歴戦の勇者の面影はなかった。

 背筋は折れたように曲がり、肩は落ち、

 白髪の奥に宿っていたはずの気迫も、跡形もなく消え失せている。


 一気に老け込んだその姿は、

 ただの老いぼれたジジイ――そう言われても、否定できぬ有り様だった。


 そのジジイが、床に膝をつく。

 そして、誇りをかなぐり捨てるように、縋るように、

 ジャックの足元へと手を伸ばした。


「……それだと……第六のキーストーンの守護は……どうするのじゃ……!」


 声は、ひどく震えていた。

 怒りでも、抗議でもない。

 誇りも立場も、すべてを失った男が、それでもなお口にした、最後の問いだった。


 だが――

 その問いが孕む意味は、あまりにも重い。


 エメラルダの神民がすべて一般国民へと落とされた今、

 第六の門外のフィールドは、完全にガメルの領域へと変貌しているはずだった。

 すなわち、そこは魔の融合国のテリトリー。


 キーストーンを守護していた駐屯地も、

 すでにその侵食下にあると考えるべきだ。


 ――駐屯地に残る魔装騎兵たちは、限界突破を使えない。

 一方で……

 ――魔人は、魔獣回帰を行使できる状態にある。


 もはや戦力の天秤は、

 最初から釣り合ってなどいなかった。


 そして、何よりも致命的なのは――

 魔人騎士ガメルが、そのテリトリー内において、

 絶対不死の存在となることだ。


 つまり。

 今この瞬間にでも、ガメルがキーストーンを奪取するため、

 駐屯地を襲撃すれば……。


 迎え撃つ術は、どこにも存在しない。

 それが、この場にいる誰の目にも明らかな現実だった。


 だからこそ、カルロスは床に這いつくばり、足に縋った。

 国家のためでも、騎士としてでもない。

 ただの老人として、必死に。


 ――仲間たちの命は、どうなるのだ。


「――そんなこと、俺が知るわけねえだろうが!」


 吐き捨てるように言い放つと、

 ジャックは隊長用の椅子へと、どっかり腰を下ろした。


挿絵(By みてみん)


 きしむ音すら楽しむかのように、肘掛けに腕を乗せ、

 背もたれに体重を預ける。


 そして、座り心地を確かめるように、

 くるり、くるりと椅子を回した。


「へぇ……悪くねえな。

 さすが神民様の特等席ってか?」


 嘲るような笑み。

 その態度には、欠片ほどの緊張感もなかった。


 その光景を目にして、カルロスははっと我に返る。

 床を蹴り、よろめきながら立ち上がると、

 部屋の外へ向かって駆け出そうとした。


「――待て!」


 背後から、楽しげな声が飛ぶ。


「言っとくがなぁ、ジジイ。

 門外には、出られねえぜ?」


 ジャックは椅子に座ったまま、

 意地の悪い笑みを浮かべていた。


 カルロスは、はっと足を止め、振り返る。

 その顔には、もはや怒りはない。

 あるのは、切迫した悲壮だけだった。


「……お前……!」


 絞り出すような声。


「駐屯地の兵士たちを……

 見捨てるつもりか……!」


 その問いに、ジャックは肩をすくめる。


「はぁ?

 なんで、そんなに慌ててんだ?」


 軽い。

 あまりにも、軽い声音だった。


「どうせ、いるのは奴隷兵と――」


 にやりと、口角がつり上がる。


「――“一般兵”だけだろ? wwww」


 笑い声が、隊長室に空虚に響いた。

 その一音一音が、

 カルロスの胸を、鈍く、しかし確実に締め付けていく。


 突如として、第六の門の警鐘が鳴り響いた。

 重く、低い音。

 それが何度も何度も反響し、宿舎の壁そのものを震わせる。


 ――第六の門外で、異常事態が発生した。


「……どうやら、早速おいでなすったか」


 ジャックは舌打ち混じりに呟き、ゆっくりと立ち上がった。

 窓辺へ歩み寄り、視界の先にある第六の門を、細めた冷たい目で睨みつける。


 その横顔に、焦りはない。

 驚きもない。

 あるのは、予想通りの事態を迎えた者だけが浮かべる、薄ら笑いだった。


「おい」


 ドアの脇に控えていた神民兵へ、ぞんざいに声を投げる。


「第六の門を閉鎖しろ。

 絶対にだ。何があっても、開けるんじゃねえぞ」


「――御意!」


 命を受けた男たちは、一斉に踵を返し、部屋を飛び出していく。

 警鐘の音は止まらない。

 むしろ、不安を煽るように、さらに強く、執拗に鳴り響いていた。


 その音に背中を押されるように、カルロスはジャックへと詰め寄った。


「お前……っ!

 本当に、状況を理解しとるのか!」


 掴みかかりたい衝動を、必死に押し殺した声だった。


「今、第六の門外のフィールドは……

 すべて魔人国のものだぞ!」


「――だから?」


 返ってきたのは、あまりにも軽い一言。


 カルロスは歯を食いしばり、声を絞り出す。


「騎士の盾を持つガメルが一人いれば……

 駐屯地など、ひとたまりもない!

 壊滅させられるんじゃぞ!」


「分かってるよ」


 ジャックは肩をすくめ、嘲るように鼻で笑った。


「でもさぁ?」


 振り返り、カルロスを見下ろす。


「俺たちは第一の神民だぜ?

 第六の門外に出たところで、何ができるってんだ?」


 口元が、意地悪く歪む。


「一般兵と同じ力しか出ねえ。

 つまり――」


 吐き捨てるように言い切った。


「行くだけ無駄だろ。バーカ」


「……っ!」


 カルロスは言葉を失った。

 喉の奥で何かが詰まり、声にならない。


 ――その通りだ。


 第六の門外で力を発揮できるのは、第六の騎士と、その神民のみ。

 ジャックはアルダイン――第一の騎士の神民。

 門外へ出たところで、一般兵と変わらぬ存在でしかない。


 だからこそ。

 騎士が交代する際には、神民の空白が生じぬよう、

 速やかに新たな騎士が立てられる。


 それが、この国における最低限の理だった。


 だが今、その理は、

 意図的に、踏みにじられている。


 沈黙するカルロスを見て、ジャックは明らかに楽しそうだった。


 歴戦の勇者。

 かつて、魔装騎兵の象徴として名を馳せた男が――

 今、自分の目の前で、なすすべもなく立ち尽くしている。


 新人だった頃。

 あれほど恐れ、震え上がった存在が。


「……はは」


 ジャックの喉から、小さな笑いが漏れる。

 それは、勝者が敗者へと向ける、何より残酷な笑みだった。


「まあ、キーストーンを奪われたとしても――」


 肩をすくめ、事もなげに続ける。


「俺たちの責任じゃねえしな」


「……新しい騎士は、どうした!」


 絞り出すような、カルロスの声。


「さあなぁ?」


 ジャックは口の端をつり上げる。


「聞いた話じゃ、新しい騎士様は――

 神民を一切、持たないらしいぜ」


 次の瞬間、堪えきれぬといった様子で、腹を抱えて笑い出した。


「ははははははっ!

 笑えるよなぁ!」


 その笑い声が、隊長室に空虚に響く。


 カルロスは無言で壁へと歩み寄り、拳を振り抜いた。


 鈍い音。

 石壁に叩きつけられた拳から、赤い血が一筋、静かに流れ落ちる。


 ――今までの努力は、何だったのか。

 ――志半ばで倒れた仲間たちの犠牲は、何だったのか。


 幾度も門外へ出て、死と隣り合わせで戦ってきた日々。

 エメラルダと共に守り抜いてきた、第六の門。


 それらすべてが、

 たった一枚の命令書と、

 一人の無責任な騎士によって踏みにじられた。


 カルロスの頬を、熱いものが伝った。


「……その騎士は……バカなのか……?」


 震える声を絞り出す。

「……騎士の役割を……放棄するというのか……そのバカは!」


 ジャックはちらりとカルロスを一瞥した。

 ほんの一瞬だけ、視線が引っかかる。

 だが次の瞬間には、興味を失ったかのように目を逸らし、椅子へと腰を下ろした。


 背もたれに深く体を預け、

 何の躊躇もなく、両足を机の上に投げ出す。

 その仕草は、

 目の前の男を「もう相手に値しない存在」と断じた証のようだった。


「おい、ジジイ」

 投げつけるような声。

 敬意も、配慮も、もはや欠片もない。


「荷物まとめて、さっさと帰れヨ」

 冷たく、突き放す。

 まるで不要になった道具を片づけるかのように。


「せっかく拾った命だろ?」

 机に乗せた足を揺らしながら、

 軽い調子で続ける。


「あとは……短い老後を好きに生きろヨ……」


 その言葉は、

 追放宣告であり、同時に放免でもあった。


 かつて自分を叱り、鍛え上げた鬼教官。

 恐ろしくも、忌々しくもあった存在。


 その男に向けて投げられた一言は――

 侮蔑なのか、

 それとも、ほんのわずかに残った情けだったのか。

 少なくともジャック自身、

 その答えを確かめる気は、もうなかった。


 一気に老け込んだカルロスは、何も言い返せなかった。

 背を丸め、引きずるような足取りで、隊長室を後にする。


 その背中には――

 かつて第六の門を支えた歴戦の勇者の面影は、

 もはや、どこにも残っていなかった。

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