凋落のエメラルダ(2)
カン! カン!
人気のない裁判所の中に木槌の音が響き渡る。
「エメラルダの国家反逆を認め騎士の資格をはく奪する」
年取った裁判官の目の前には、手かせをはめられ、うなだれるエメラルダの姿があった。
辺りを見回すと、裁判官の右前には、足を組んでいるアルダインが、机に肘をつき侮蔑の笑みを浮かべていた。
その後ろでは、ネルが静かにエメラルダを見つめていた。
この4人以外に人が見たらない。エメラルダを弁護する弁護人の姿も見当たらなかった。
はたして、これは裁判なのだろうか……いや、裁判の名前を借りた、一方的ないたぶりのようにも思えた。
しかし、エメラルダは何も言えずに、その罰を受け入れざる得なかった。
アルダインの机の上には、オオボラが持参した手紙が一つ置かれていた。
その手紙は、魔人国の第三の門の騎士ミーキアンへとあてたものであった。
そして、その内容には、大門をめぐる魔人国と聖人国の不毛な戦いを憂い、ともに休戦の道を模索しようという内容が書かれてあった。
エメラルダのまぎれもない直筆であり、また、エメラルダの真意でもあった。
手紙をしたためたことが不用意であったと、今にして思えばそうである。
しかし、よりによってアルダインの手の渡るとは想定外であった。
「裁判長。この罪人は、こちらで預からせていただいてよろしいか?」
「うむ、お任せしよう。アルダイン殿」
完全に出来レースであった。嫌らしく笑うアルダインがエメラルダに近づく。
そして、うつむくアゴを無理やり引き上げた。
「もう、お前はわしのものじゃ」
「私は、誰のものではない!」
エメラルダはアルダインの顔に唾を吐きかける。
側に控えたネルがそっとアルダインへとハンカチを差し出す。
ハンカチを無造作にひったくったアルダインは、唾をふくと、勢いよくエメラルダの頭を証人席の机にと押し付けた。
「そのような威勢も、今だけだ! 刻印がなくなれば、お前を守るものがなくなる。後はお前がワシになつくまでいたぶってやるわい」
アルダインのいやらしい笑いが静かな裁判所内に響き渡る。
微動だにしないネルの寂しくつらそうな瞳がエメラルダを見つめていた。
アルダインはエメラルダの髪を鷲掴みにすると、引き起こし、顔を近づけて唾をかけた。
「わしが直々に刻印除去をやってやる。感謝せい!」
「刻印の除去は、王でないとできないはずだ!王に、王に会わせてくれ!」
「この判決は、王の勅命でもある」
アルダインはエメラルダの髪を引きずり、突き飛ばした。
手かせがあるため、受け身が取れないエメラルダは、床にはげしく体を打ち付けた。
アルダインはネルにアゴで指示する。
ネルが叫ぶ。
「衛兵!」
裁判所のドアが開き、衛兵達が駆け込んできた。
そして、エメラルダの両脇を抱え、引きずりながらどこかへ連れて行ってしまった。




