伸びろにょい棒!
「これで真音子の後を追いかける!」
「できるのか……?」
「できる! 俺を信じろ!」
小さくなずく座久夜は、手で目をこすると立ち上がった。
「しかし……ワレ……その格好、よう恥ずかしないのぉ……」
もう、そこには先ほどまで泣き叫んでいた座久夜の姿は無かった。
「だけど、タカト、真音子ちゃんの臭い分かるの?」
ビン子が心配そうに尋ねる。
「ちょい待っとき! 今、真音子の服持ってくるさかいに!」
座久夜は、慌てて真音子の部屋へと戻ろうとした。
だが、それをタカトが制止する。
「今は時間がない!」
「でも……」
二人はタカトを心配そうに見た。
「真音子の臭いは分からんでも、この俺の臭いなら完全に覚えている!」
タカトは、自信満々に『ガールズ! アン・ドゥ パンツ、ぁー!』を掲げた。
うん!?
ちょっと待て……
俺の臭いって……一体なんやねん……
もしかして、お前……あの、白い液……
いや、考えまい……今は、考えまい。
そんなの考えたくもないし、知りたくもないわ!
タカト君、曰く……
「何考えてんだヨ!
そんなわけあるはずないだろ!
あれはタダの片栗粉を溶いただけの汁だぞ!
ちょっとそれを温めて固くして、その真ん中に穴をあけ……
……フウ……
もう一回!」
「こっちだ!」
犬の鼻を引くつかせながら、タカトは夜の神民街をひた走った。
タカトたちが向かう先は、神民街を取り囲む城壁。
その向かう先が分かると座久夜は、少し安堵した。
なぜなら神民街から一般街に出るには、城壁の門を通らないと出られない。
だが、門には守備兵が常に警備している。
こんな明け方、幼子を連れたオッサンなど不審者そのもの。
職質されて当然だ。
ならば、そうそう簡単に一般街へと出ることはできないだろう。
まぁ、人質とされた真音子も、おとなしく黙っているわけはないはず。
大方さらわれたなどと大騒ぎするに決まっている。
オッサンは仕方なく、真音子を人質として盾にしながら城門を通り抜ける算段なのだろう。
だが、守備兵をけん制しながら門を潜り抜けようとしている間に、タカトの鼻はオッサンに追いつくことができる。
そうなれば、最悪、真音子だけでも救い出すことは可能のはずなのだ。
しかし、そんな座久夜の安堵もつかの間の事であった。
こともあろうにタカトの鼻先は向きを変えたのである。
「どこに向かっているんや!」
怒鳴る座久夜を振り返ることもなく、タカトは懸命に匂いを追っていた。
どうやらタカトは、城壁の門ではなく城壁を登る階段へと向かっているようだった。
「あっ! あそこ!」
ビン子は叫んだ。
うっすらと明るくなってくる夜明け前の空、城壁の壁に垂直に張り付く階段を駆け上っているカウボーイハットのオッサンを見つけて指さした。
オッサンも遠くから走ってくるタカトたちに気づいたようである。
「ちょっ! お前ら早すぎだって!」
「このこそ泥野郎! 真音子を放せ!」
タカトは叫ぶ!
オッサンは困ったような表情を浮かべた。
「いやぁ、ちゃんと安全なところで解放するつもりだったんだけど……お前らが早すぎて……これは困ったな……」
「真音子を放さんかい!」
そんな会話も耳に入らない座久夜は、止まることなく階段に向かって走っていた。
どうやらおっさんの元まで一気に階段を駆け上り、真音子を奪還するつもりのようなのだ。
「待て!」
タカトは叫ぶ。
オッサンは既に4階建ての4階部分を過ぎたところ。あと少しで屋上である城壁の上部へと登りつめようとしている。
おそらく、座久夜が追いつく頃には城壁の上。
「あのオッサンの事だ、城壁の上から地上へと逃げる算段が何かあるはずだ!」
なら、座久夜に追い詰められたオッサンは真音子を解放せずに、一般街へと降りるかもしれない。
ビン子も叫ぶ。
「真音子ちゃんが、こんな夜更けに一人で一般街で放されたりしたら、こんどは、変な人に誘拐されちゃうよ!!」
そう、一般街は神民街と違って治安が悪い。
いくら城壁に近い一般街であっても、夜ともなれば「お嬢ちゃんのパンツ何色?」などと言ってくるような不審者が徘徊しだすのだ。
だが、座久夜にはそんな声は届かない。
交渉などくそくらえ!
「ワテが、そんなことさせへん!」
要はそれまでに真音子を救い出せば済む話。
待っとれや! 真音子! 今、行くで!
すでに真音子の事しか頭にないのだ。
だが、おっさんも再び慌てて階段を駆け上り始めた。
タカトは壁の上を見上げた。
――このままでは、真音子は一般街に。
クソ!
真音子のところまでは約4階と半分の高さ。
「ビン子! カバンを貸せ!」
タカトは、ひったくったカバンを漁る。
なんかないか!
なんかないか!
!?
これなら、もしかして!
「開血解放!」
一つの道具を掴みだすと、力いっぱいにその道具を振るった。
「伸びろ女医棒!」
それはタカトが神民病院で入院している時に、女医のスカートをめくるために作ったものだった。
どんなに女医が遠くにいたとしても、棒が伸びてぱっとスカートをめくる優れもの。
だが、入院中のタカトは知ってしまったのだ。
タカトを担当しているフジコさんは女医ではなく看護師だということを。
しかも、新米の仕事のできないただの看護師だった……
これでは、フジコさんのスカートを女医棒でめくることは不可能!
だって、これは女医にしか反応しないのだ。
ならば、ここは発想の転換だ!
下がだなら、上がある!
ということで、出来上がったのが、女性の背中にあるブラホックを気づかれることなく自動的に外すことができる画期的な道具『帰ってきた! お脱がせ上手や剣(棒)』だったのだ。
全く持って意味わからん!




