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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 4章 ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編

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ミズイの決意

 今度はそこの言葉にタカトが一瞬ドキンとした。

 うるんだミズイの目。

 そこには打算もあざとさも何もない。

 あるのは、ただの優しさのみ……


 ――これじゃ、まるで、本当にこのスライムが女の子みたいじゃないか?


 それを確かめるように、タカトはおずおずと口を開く。

「あ……あのですね……実はこれ……本当はスライムなんですけど……」


 言いながら、胸の奥に後ろめたさがこみ上げる。

 苦し紛れに声を張り上げた。

「な、なんちゃってwww わっはははは……!」

 大空洞に響いた乾いた笑いにタカト自身がむかついた。

 ――なに笑ってんだ、俺……。


 ミズイはハッとしたように声を張り上げる。

「そんなことはわかっておる! ワラワを何の神と思うておる! 鑑定の神じゃ!」

 だが、その口元はかすかに震えていた。

「何度も鑑定したんじゃ。間違いない。ただのスライムじゃ」


 それは涙を隠すための空威張りにしか見えない。

「ま……まぁ、クロダイショウに散々噛まれたせいで、毒耐性はかなり高いようじゃがな!」


 その変わりようにタカトは首をかしげた。

 ――やっぱりただのスライムか……俺の勘違いだった?

 じゃあ、さっきの優しい目は……なんだったんだ?

 胸の奥に、何か引っかかるものが残る。


 だが、今はそれどころではない。

 ここで「幼女だ」と押し通せなければ、自分の生気を吸われかねない。

 今度は寝るだけじゃなく――死ぬかもしれない。


 ――それだけはいやだ! 絶対に!


 タカトは必死で言葉をひねり出す。

「た、ただのスライムでも……生気がめちゃくちゃ詰まってるスライムとかじゃないですか!」


 ミズイは首を振る。

「……それもない」


 だが、タカトも引かない。いや、引くわけにはいかないのだ!

「なら! 実は少女の姿に化けられるとか!」

 何が何でも、このスライムに身代わりになってもらうしかない!


 ――少女の姿……?

 ミズイの瞳がふと揺れ、スライムへと戻る。

 そこには寂しげな眼差しが重なっていた。

「今のところ、それもない。本当に……ただのスライムのようじゃ……」


 万事休す! チェックメイト!

「そんなぁ……」

 タカトの絶望とあきらめの声が響いた。


 ミズイは呆れたように見下ろす。

「だから言ったじゃろ。神の恩恵を使った後、お前から生気を補充させろと」


 だが、あきらめのつかないタカトは身を乗り出し必死の形相で拒絶する。

「そしたら俺が死んじゃうやんけ!」


 しかし、心のどこかでは理解しはじめいていた。

 この状況、どうやっても手詰まりなのだ……


 ――クロダイショウに噛まれて死ぬか、ミズイに生気を吸われて死ぬか――結局同じことじゃないのか。


 心の中で、天使のタカトがささやく。

「ならまだ、美魔女に吸われながら死んだ方がマシ……じゃない?」


 だが、すかさず悪魔のタカトが吠える。

「おい! それで本当にいいのか?」


 ――俺の人生、まだ、オッパイどころかキスすらしたことがないじゃないか!


 悪魔のタカトはにやりと笑う。

「なら、せめて! キスぐらいはしてから死にたいよな!」


 そして、悪魔と天使がタカトに向かってせり出してくる!

「さあ! どうする? どうするタカト?」

「あんさん! ファイナルあんさぁ~!」


 否が応でも迫られる!

 タカトの脳内に響く声。

『ジャッジメント・ターイム!』


 ズシンと止まった重い空気。


 ――そうだ! キスもせずに死ぬなんて絶対いやだ!


 続く沈黙。

 悪魔がゴクリと喉を鳴らし、天使が両手を握りしめる。

 まるでテレビの公開収録。会場全体が次の一言を待って息をひそめていた。

(こ、こんな緊張……まるでみのもんたと対峙しているみたいじゃないか!)

 ――いやだ! いやだ!

 いやだ! いやだ!

 絶対にいやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 ドクン……ドクン……ドクン……

 天使と悪魔の鼓動が重なる。


『残り10秒……』

(え、カウントダウンまで始まった!?)

『9……8……』

(やばいやばいやばい!)

『7……6……』

 観客席(謎の大衆)が「オオオ……!」とざわめき出す。


 そして――タカトが顔をあげ、声を張り上げた!


『勝者ァァァァァ! 悪魔ぁぁぁぁぁっ!』


「絶対に嫌だぁぁぁぁあ!」と、叫ぶタカトに、ミズイは腰に手を当ててあきれ顔でしなめる。

「安心せい。ここは以前、荒神牢獄として幽閉された荒神が爆発した場所じゃ」


「だからなんやねん!」


「お前は馬鹿か! 荒神が爆発したということは、この周りの輝く石は全て命の石の結晶じゃ。すなわち、神一人分の生気が詰まっておるのじゃ」


 タカトはあたりを見回す。

 ――この輝く壁が全部、命の石……? 売ればとんでもない大金に……。

 己の運命が風前の灯火であるにもかかわらず、頭の中に浮かぶのは金勘定。

 口元がいやらしくゆるむ。


「そして、お前のもう一つのスキル『万気吸収』があれば、この命の石の生気を吸って生き延びることができるじゃろ」


 ――へぇ……俺のもう一つのスキルは『万気吸収』って言うんだ……って、ちょっと待てよ!


「いやいや! 俺が生気を吸うんじゃなくて、お前が直接吸えばいいんじゃね!? その方が早いだろ!」


 ミズイはため息をつく。

「あのな……これだけ大量の命の石の生気を一気に吸うことなど不可能じゃ」


「なら、俺も一緒だろ!」


「なぜかは知らんが、お前の『万気吸収』レベルは異常に高い……普通に呼吸するだけで、ここら辺一帯の命の石の生気を吸収し始めておる……」


「アホか! その話が真実なら、呼吸してるだけで俺の体に生気が異常にたまってるってことだろ!? そんな人間おらんわ!」


 ミズイは馬鹿にしたようにタカトを見つめた。

「自分の手を見てみい……」


 タカトは右手を見下ろす。

 手から生気が揺らめき立ち、体の外へあふれ出していた。

 ――これは……何だ?


「お前が吸収した生気が、あふれ出しとるんじゃ」


 ――へっ!? ……どういうことだ?


「これで分かったじゃろ。わしが生気を吸ってもお前は死なん。やるのか? やらんのか?」


 タカトは状況を整理する。

 体から生気があふれるほどに充満しており、眠気も消えている。

 ――なるほど……俺の体、自動で生気を吸収して、溢れ出してる状態か。


「本当に助かるの……?」


「神様、嘘つかない! じゃ」


「じゃぁ、お願いします」


「じゃぁ、お願いします」


「契約成立じゃな……」


 ミズイはスーッと上空に浮かび上がる。

 タカトは足元を確認した。先ほどの光の範囲は縮まらず、ミズイの放つ『神の盾』が大きく周囲を包んでいた。


 ミズイがタカトに吸収させようとしているのは、周囲の命の石の生気だ。

 その命の石には、もともとスライムになる前のアリューシャの生気が宿っている。

 つまり、タカトが命の石の生気を吸うことは、結果としてアリューシャの生気を吸うことと同義となる。


 小門を必死で守り、アリューシャの復活を願い続けてきたミズイ――その努力が報われぬことを悟りながらも、今、彼女はその生気をタカトに託そうとしていた。


 浮かび上がるミズイの視線は、タカトが抱えるスライムに向けられている。

 切なそうな瞳が、わずかに潤む。


 この小門の中で、荒神爆発の結果スライムとなったアリューシャ。

 森で姿を消してから今まで、おそらく想像を絶する出来事があったに違いない。

 だがもう、その体では神に戻ることは不可能に近い。

 もしここが魔の国であれば、地下道に投げ込まれ、汚物を食らい下水処理のためにこき使われていただろう。

 それが今では、タカトの胸の中で、安らぎに満ちて眠っている。


 失われたアリューシャの光を、二度と戻せない現実の中で、せめてタカトと共に過ごす幸せに変えたい――。

 ミズイの心には、切ない願いが込められていた。


 ――やっと、あなたの光を見つけたのね、アリューシャ……

 ミズイの目には、かつて見たアリューシャのかわいらしい寝顔が映っていた。

 ならば、残された余生を――安らぎに満ちた時間にしてやりたい。


 ――アリューシャ……こんな義姉で、ゴメンね……


 くるりと振り返ったミズイは、クロダイショウとオオヒャクテの大群を鋭く睨みつける。

 その目には決意の光が強く輝いていた。


 ――今度は、必ず!!


「鑑定の神ミズイの力! とくと見るがいい!」






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