ビン子ッ! ビビン子ッ! ビビビンッ子ォォォ!!
目の前にたわわに実るオッパイという果実。
タカトは禁断の果実に、ついに手を伸ばした。
かつてエデンの園にあった禁断の果実――「善悪の知識の木」の実。
神は「食べるな」と言ったが、イブはヘビにそそのかされてパクリ。
そしてアダムもパクリ。
結果、二人はめでたく楽園追放。
――だが、楽園だろうが牢獄だろうが関係ない!
据え膳食わぬは男の恥!
ここでオッパイを揉まねば、この先の人生でチャンスなど二度と来ないかもしれない!
タカトは意を決して――
目の前の果実を、鷲づかみッ!
ぎゅっ!
「いやん♥」
某アニメの蛇姫ハンコックのような女が、いやらしく身をよじり、タカトの鼻をぺろりと舐める。
「アダム様♥ もっと優しくしてくださいませ……♥」
……初めて触れるオッパイ。
ちょっと力を入れすぎたか?
反省……反省……反省だけならサルでもできる!
いやむしろ、今すぐサルになりたい! シコシコシコ!
その時――タカトの脳裏を稲妻が走る。
ピキーン!
「まさか……これが“善悪の知識の木”の力!?」
禁断の果実に触れたタカトの頭は、異様に冴えわたっていた!
感じる――違和感。
――かたい……
固すぎるのだ!
オッパイとはマシュマロのようにふわふわしたもの。
せめて水風船のようにぷにぷにしているはず。
だがこれは……
なんというか……
バスケットボール。
ザラザラの表面。跳ね返る反発力!
オッパイパブですら、こんな硬さはあり得ない!
いうなればゴム! ゴムゴムの実!
お前はルフィーか!
しかも冷蔵庫帰りのヒンヤリ感。
確かに火照った体には気持ちいい。
――だが、違う! 俺の求めていたのはこれじゃない!
崖から落ちた時に抱きしめてくれた、金髪のお姉さんの柔らかな胸。
あの頬に残った優しさこそ、俺が探しているオッパイなのだ!
これは……女の柔肌とは程遠い。
――そうか、これは夢なんだ。
だからこそ、異世界からいきなり高級ソープに飛ぶような場面転換が起こるんだ。
夢じゃなきゃ説明できない。
――そういえば俺、小門に入って……
ビン子を石の台に寝かせて……
そのまま眠り込んだ気がする……。
「そうだ! ビン子だ!」
ほったらかしにしてたら絶対文句を言われる!
いや、最悪、飯抜きだ!
タカトはハッと気づき、まとわりつく女たちを力任せに弾き飛ばす。
そして――
「覚醒しろ! 俺ぇぇぇッ!」
とばかりに、自分の股間の魚肉ソーセージ(※実際はミニウィンナー。だが本人のプライドのために今は伏せておこう)へ――中段突き!
「ソイヤッ!」
ぼこっ!
「ぐはぁぁぁっ!」
口からよだれをぶちまけ、のけぞるタカト。
……どれぐらい寝ていたのだろうか。
口元を拭い、体を起こしたタカトは、おもむろに目を開ける。
―― へっ……?
目の前。
黒い蛇が鎌首をもたげ、氷のように冷たい緑の瞳を光らせて睨んでいた。
――ハハハ……こちらが夢ですよね……夢だって言ってくれ……
祈るようにまばたきを繰り返す。
だが――女たちは消え、代わりに無数の蛇やムカデがタカトの体を這い回っていた。
「!?☆!△!!」
蛇の一匹が胸に乗り、舌でタカトの鼻先をチロチロ舐める。
瞬時に顔面蒼白。
「ぎゃああああああッ!」
全力で蛇を振り払うと、目にもとまらぬ速さでビン子の眠る岩の上に駆け上った。
「ビン子ッ! ビビン子ッ! ビビビンッ子ォォォ!!」
すでに何を言っているのか判然としないタカトは、ビン子の肩をがっくんがっくんと揺さぶった。
「ふわぁ……」
目をこすりながら、ビン子がようやく目を覚ます。
「タカト……もう、朝ぁ……今日の朝ごはん、なに……?」
「いやいや朝ごはんじゃなくて! 今! 俺たちが朝ごはんなの!!」
「え……タカトが、朝ごはん……? ちょっと、うれしいけど……馬鹿じゃない……」
「馬鹿はお前じゃ! 目を覚ませ! ビン子! 非常事態ァァァ!」
タカトは眠そうに目をこすりながら笑うビン子をガックンガックン揺さぶった。
しかしビン子は「分かった分かった」と言わんばかりに、逆にタカトをギュッと抱きしめてくる。
――もう、ほんとにかわいいんだから♡
だが、タカトはその腕を乱暴に引きはがした。
「あほかビン子! 今はそれどころちゃう! 魔物や言うとるやろ!」
「えぇ~? タカトったら照れちゃってwww 大丈夫だってぇ、タカトの分もちゃーんとあるから♡」
唇を尖らせ、チューを迫るビン子。
もしここが先ほどの夢の世界なら、それはそれで本懐を遂げたといえるのかもしれない。
だが今は――今はそんな暇などナッシング!
「大丈夫じゃない! 周りを見ろ!」
タカトは抱きつくビン子を力づくでベリベリ剥がし、その顔を両手でワシ掴みにして強引に岩下をのぞかせた。
……!?
数秒のフリーズタイム。
やがて顔を上げたビン子は、まるで動物園に来た子供のように指さした。
「蛇だよね……」
「蛇ですね……」
「いっぱいいるね……」
「いっぱいいますね……」
「緑の目だね……」
「緑の目ですね……」
「魔物じゃないかい! ワレ!」
目を血ばらせたビン子が中指を立て、ブサイクドアップでタカトにかみついた!
だが、タカトも負けてはいない!
「そうさっきから言っとるじゃろがぁぁぁぁぁぁあ!」
口から火炎放射でも吐く勢いでカウンターツッコミ!
二人のツッコミが正面衝突し、空気がバチバチに火花を散らす!
その爆発的エネルギーに目も覚めたのか、ようやく状況を理解したビン子!
──そう、岩の下からは大量の蛇どもが、今まさにヌルヌルと台の上へ突撃しようとしていたのだ!
「タカト! どうしようこれ!」
ビン子は反射的にタカトにしがみつく!
しかし奇跡! 蛇どもはガラス質の岩肌をずり落ちて、ツルツルの無限すべり台状態!
「おおっとセーフ! 俺たち、なんか助かってるゥゥゥ!」
だが、このままではじり貧確定だ。
岩の周囲は、うごめく蛇とムカデで地面すら見えない。
数はゆうに――万を超えていそうだ。
……こんな群れの中に降り立つ?
無理だ。絶対に死ぬ。
なら、この数をどうにかする?
それこそ、もっと無理!。
タカトは藁にもすがる思いでオオボラを探した。
だが――いない。影も形もない。
「あのボケガエル!! こんな時こそお前の出番やろが! どこでサボっとんねん!!」




