魔の融合国(2)
ビン子のつける犬耳に声が聞こえる。
先ほどよりもはっきりと。
「……こっちです。こっちが出口です」
その声は、ビン子たちを案内するかのように、穴の奥の方から聞こえてきていた。
「男の子?」
ビン子は暗い洞窟の中を走りながらつぶやいた。
どうやらその声は、女ではなく男。それも、どうやら男の子のようである。
後を追うタカトが怒鳴る。
「男の声が聞こえるわけないだろうが!」
――そんなわけあるか! 俺の発明は、寂しい女の声を拾うようになっているはずだ! 男の声など拾ってたまるか!
タカトは、エメラルダの尻の肉をギュッと掴む。
――失敗などしていない! 俺は失敗などするもんか!
って、あんたの作った道具、ほとんど失敗のような気がするのですが。
ビン子はその声に従って走っていく。
納得できないタカトは、ビン子を制止する。
「ビン子! 待て! 罠かも知れん!」
もしかしたら罠ではなどと思わなかったのだろうか。
ビン子も少しは疑った。
今進んでいる方向は魔の国である。
ビン子たちを呼ぶ声は、魔物か魔人の可能性がある。
と言うことは、出会った瞬間に食われるということも。
「大丈夫。この子はきっと大丈夫!」
だが、ビン子は確信していた。
そう、その声に、悪意がみじんも感じられなかったのだ。
まるで、草原にふく風のように心地よい声。
魔物や魔人たちが、嘘でおびき寄せようとするならば、どことなく、いやらしさを感じさせるものである。
そして、なぜか、この声は、どこかで聞いたことがあるような……
ビン子は、その声に向かって懸命に走った。
それを追うタカトは、背中に押し付けられるやわらかな感触のために、思考が停止していた。
ビン子たちの目の前に暗闇が、徐々に明かりを帯びてくる。
曲がり角を曲がった瞬間、強い明りが目に飛び込んだ。
どうやら、そこは出口。魔の国につながる小門の出口であった。
ビン子とタカトは、その光の中へと飛び出した。
だが、その直後、二人は、立ちすくんでしまう。
そこは、聖人国の入り口である森とは違う風景。
まさに荒野。
荒れ果てた赤き大地の上に、生暖かい風が吹き抜ける。
小門の中での騒動は、昼ご飯を食べる前の出来事だった。
と言うことは、今の時刻は昼時なのだろう。
しかし、空は赤紫を帯びてまるで夕刻のような空模様であった。
見える風景が全てが寒々しい。
これが、魔人世界。魔の国か……
だが、そんなことに二人が驚いたのではなかった。
タカトとビン子たちの目の前に、大きなカエル。
一匹のカエルがじーっと二人を見ていたのであった。
緑色の目が、きょろきょろと動きながら、小門から出てきた二人を確認している。
カエルもまた、いきなり目の前に出てきた物体が何であるかを認識できていないようであった。




