ガッチャマンボ!
――目の前の赤い繭は、紛れもなく人のなれの果て。
ならば……臭気センサーから“人間の匂い”を除外だ。
高斗は素早くパネルを操作する。
HUDの表示が切り替わり──現れた、青色の反応。
EBEの証!
発信源は、ベンチの下に潜む赤い繭だった。
「そこか!」
高斗は超振動チタンブレードを振りかぶり、一気に突き刺そうとする。
だが──寸前で、繭が尺取虫のようにひらりとかわした。
そして、コッペパンのような繭が、直立して立ち上がる。
ジジジ……
まるでジッパーを開けるかのように、正面が上からゆっくりと裂けていく。
赤い液体がぼたぼたと零れ落ちる──おそらく、中に閉じ込められていた人間の体液だ。
裂け目が足元まで達すると、その中から赤い液にまみれた足が、ぬるりと姿を現した。
それは、ごつく毛深い──完全にオッサンの足。
そして、その足は外気に触れた途端、ボン、と膨張していく。
まるで化学反応でも起こしたかのように。
繭から現れた巨体は、身の丈五メートル──普通の人間の二倍以上。
対する玄武は六メートル……ほぼ二階建ての建物に相当する。
オッサンは首をゴキゴキと鳴らし、玄武をにらみつける。
「ちょっとぉ~ いきなり襲うとか、ひどいじゃない~」
――しゃべった⁉
高斗の脳裏に衝撃が走る。
今まで遭遇したEBEは、ワイバーンのように「アギャー」「オギャー」と鳴くだけ。
――いや、待て。アイナもか。
アイナやガイア、マッシュもEBEだ。
なら、人型で日本語を話す存在がいても不思議ではない。
だが、それ以外の個体で言語を操る者は、報告されていなかった。
――新種か?
高斗の意識の奥で、タカトがつぶやく。
というか、つぶやくしかできないんだけどねwww
(おいおい……こいつ、魔人じゃねえか!)
魔人──魔物が人間の脳や心臓から生気を吸い尽くし、進化した存在。
脳を食らった人間の記憶をわずかに引き継ぐため、結果、日本語も話せるようになるのだ。
……というか、タカト、お前日本語わかるのかよwww
(わかるんだよ! 多分!)
だが、目の前の魔人は──魔人と呼ぶには、まだ魔物の名残が多すぎた。
形は……おおむねオッサン。
だが胸にはホタテガイの貝殻が二つ、腰にはワカメがヒラヒラ。
そして尻からは魚のしっぽまで生えている。
……って、これじゃ魚人のコスプレじゃん!
いや、そう見えるのも無理はない。なにせオッサンの頭の後ろには、よりによってカワウソの顔までくっついていたのだから。
かわいい♡
おそらく、ビン子がいたらそう言うだろう。
それぐらい、そのカワウソのお目めはクリクリとしていたのだ。
しかも、オッサンのお目めまでクリクリwww
どうして、こんな魔人と戦えるだろうか。
……いや! 出来はしな──
ガガガガガ!
無数の銃弾がカワウソオッサンを貫いた。
瞬く間に、肉は裂け、骨が砕け、体は穴だらけになる。
玄武がホームに落ちていた白虎のマシンガンを拾い上げ、有無を言わさず引き金を引いたのだ。
飛び散る魔血!
飛散する肉塊!
仰向けに崩れ落ちるカワウソオッサン──そのお目めは、最後までクリクリだった。
「やったか……」
高斗はディスプレイをにらみつける。だが油断はできない。人間の常識は通用しない――ガイヤやマッシュで嫌というほど学んだ。
死んだと思っても、生き返る。
そういう連中なのだ……。
「ちょっと! いきなり撃つなんてひどいじゃない!」
あのオッサンの声だ。だが目の前の死体は動かない。声は、背後から。
いそいで後部モニターを確認する高斗。
そこには、例のクリクリお目めのオッサンが立っていた。
ただし、一つだけ違う。
頭の後ろについているのはカワウソではなく、巨大なカラスガレイ――回転寿司で出てくるエンガワの正体だ。
カラスガレイオッサンは横たわるカワウソオッサンのそばへ歩み寄る。
「起きなさい! おそマッチョ3!(制圧指標83)」
そう叫ぶと、いきなり腰のワカメに中段突きをかました。
「ソイヤッ!」
ぼこっ!
口からよだれをまき散らせながら、のけぞるカワウソオッサン。
──てか”おそマッチョ3”って名前なのかよwww
カラスガレイオッサンが拳を引き抜くと、ワカメの下から約60センチの魚肉ソーセージがモッコリとそそり立つ。
……オッサンの体が人間の二倍サイズでも、これはデカすぎる!
ビン子がこれを見たら、きっとよだれを垂らしながらこう思うだろう。
『おいしそう……いや、うらやましい……タカトなんてミニサイズだもん!
ミニ!』
口からこぼれたよだれを拭いながら、“おそマッチョ3”が体を起こす。
「助かったわ、”からマッチョ2”(制圧指標82)」
(そうかwwwそうかwwwカラスガレイだから“からマッチョ”なわけねwww)
なんとなく腑に落ちたタカトは嬉しそうだ。
だが、一つ疑問が残る。
“おそマッチョ”がカワウソ?
わかんない?
わかんないかぁwwww
何を隠そう、漢字の「獺」はカワウソの古語なのだぁぁぁぁ!
って、これwww『おそ松さん』やんwww
だが、一方で、高斗の唇には焦りの色がにじんでいた。
仕留めたはずの“おそマッチョ3”が、再び立ち上がったのだ。
しかも、目の前には“からマッチョ2”まで増えている。
もしこれが『おそ松さん』の流れなら……当然……
「トウ!」
「お呼び?」
「ここにもおるで!」
「シコシコシコ……」
と、四つの大きな声が玄武の周りに響いた。
「我が名は“イマラッチョ1”(制圧指標91)」
「私の名前は“ジュウシマッチョ4”(制圧指標74)」
「ウチの名は“とどマッチョ6”(制圧指標76)」
「シコシコシコ……あ、僕の名前は“シコマッチョ5”(制圧指標55) 」
そして、6人がそろうと、一つのポーズをバシッと決めた!
「6人そろって”6つ子忍者戦隊ガッチャマンボゥ”うっ!!」
ここで説明しておこう。
“イマラッチョ1”は、少々イライラしているイチモンジタナゴの被り物をつけた男だ。
ちなみにイチモンジタナゴは絶滅危惧IA類に指定された希少な淡水魚である。
“ジュウシマッチョ4”は男ではなく、頭に小鳥のジュウシマツをかぶった女。
一見するとガッチャマン3号のように見えなくもないが……おばさんなので、少し見るに堪えない。
そして、ガッチャマンといえばデブ役!
“とどマッチョ6”はトドの被り物をした巨漢である。
最後に残ったのが“シコマッチョ5”。
チョロ松ではなくシコ松だ!
青春、いや“性春”真っただ中の少年で、まるで猿のようであった。
シコシコシコ……




