第353話 続・ショッピングバトル!(3)
「やめてえ!」
弓を降ろしたエメラルダが、住人たちを助けようと、とっさに足を踏み出した。
しかし、その肩をカルロスが制止する。
――アイツの目的はそれだ!
カルロスは、いやらしく微笑むネコミミオッサンの目をにらみつけていた。
――おそらく奴は、エメラルダさまの性格を熟知している。
カルロスに守られたエメラルダには、容易に近づけない。
それは、先ほど実証済みだ。
しかも、元騎士であるエメラルダ自身も、なかなかの手練れ。
こう、完全に身構えられてしまっては、暗殺者全員でかかったとしても、確実に命がとれるか怪しいものだ。
だからこそ、エメラルダ自身が油断していた、あの初撃で決めたかったのである。
しかし、タカトの投げた指輪によって、その刃先は、ずれてしまった。
ならば、プランBによる、4人の一斉攻撃で確実にしとめるつもりであった。
だが、やはりそこにはカルロスがいた。
このカルロス。鬼教官と言われるだけあって、年の割にはなかなか強い。
カルロスが近くにいては、エメラルダに刃が届くことは難しい。
ならばどうする。
簡単な事である。
エメラルダをカルロスから離してしまえばいいのである。
どうやって?
目の前で、人を殺してやればいいのだ。
あのお人よしのエメラルダの事、とっさにカルロスから離れて、飛び出してくるに違いない。
そんなネコミミオッサンの思考を、カルロスは感じ取っていた。
カルロスは、更にエメラルダを肩を掴む手に力を込めた。
なぜなら、エメラルダが、懸命にカルロスのその手を振り払おうともがいていたのである。
――今のエメラルダ様には、冷静な判断はできない。
カルロスは感じ取っていた。
――元騎士の時であれば、おそらく、今ほどは取り乱したりはしなかったであろう。
そう、それは、あくまでも戦場における指揮官としての役割を認識していたのである。
――しかし、今は違う。
醜悪な男たちの蛮行によって完全につぶれたエメラルダの心を、優しく包み癒してくれたスラムの住人達。
その住人たちの優しい笑みの積み重ねが、今のエメラルダをココに立たせてているのである
まさに、家族のようなつながり。
エメラルダにとっては、心のよりどころなのである。
その住人たちを、目の前で殺されていれば、冷静な判断は無理からぬこと。
必死に駆けつけようとするエメラルダを、カルロスは懸命に静止する。
――だが、このままではエメラルダ様は、駆けていく……
くっ!
カルロスは唇をかみしめた。




