……そして、物語は再び、ここから動き出す──
──で、タカトはというと。
小門から戻ったミズイと再会──
だが、肝心の「鑑定スキル」は手に入らずじまい。
その後、第一の騎士の門を抜けて外へ出たものの……
戻ってみれば──
福引会場では、まさかの殺人(?)事件!
ツョッカー病院では、まさかのゾンビ襲撃!
命からがら逃げのびて──結果、はい、大・騒・動!!
それでもくじけず、ついに! ついに!!
あの恐るべき──
魔豚 ダンクロール(制圧指標42)を打ち倒した?のだ!
……そして、物語は再び、ここから動き出す──。
窓から差し込む朝の光が、タカトを優しく起こす。
本日もまた、定位置──机の上での就寝であった。
そう、これはいつものタカトの部屋、いつもの朝の光景。
そして、当然のように、背後のベッドにも“定番”の光景がある。
無防備なビン子が、襲われることもなく、よだれを垂らしながら高いびきをかいているのだ。
いつもなら、ここでタカトがいたずらをしかけるところ──
……って、Hな事じゃないからね。
鼻つまんだり、顔にマジックで落書きしたり、そういうやつwww
……だが、今日のタカトは違った。
目を覚ますなり、勢いよく立ち上がる。
そして、いきなり振り返ると──
ためらいゼロで、ビン子の頭に空手チョップ!
バキッ!
……え、やっぱりいつも通りじゃんwww
「いたぁいっ!」
頭をかかえて飛び起きるビン子。
「お前まで寝坊してどうすんだよ!」
「え……!?」
時計を見るまでもなく、オオボラとの待ち合わせ時間はとうに過ぎていた。
「今日も……背負い投げ確定じゃんか……」
「そしたら、これで六回目だね」
「アホか! ビン子、お前が代わりに投げられてこいよ!」
「やだよ……」
「あいつ、冗談通じないんだよ……マジでたち悪すぎる……」
ぶつぶつ文句を言いながらも、二人は急いで支度を整える。
ただ、音を立てず、そ~っと、静かに。
というのも、タカトの部屋の向かいは、あの権蔵の部屋なのだ。
しかも暑さのせいか、今朝はドアが開けっ放し。
廊下越しに、ベッドで横になって眠る権蔵の姿が丸見えだった。
──よく寝てるな。
タカトとビン子は顔を見合わせると、息を合わせて進み出す。
抜き足……さし足……忍び足……
こういう時の二人の呼吸は実に絶妙だった。
まるでコントで演じられる泥棒のように、差し出す足がぴたりと揃っている。
日頃から権蔵には、門の外に出ることを固く禁じられていた。
騎士の門だけでなく、あちこちに発生する“小門”も同様である。
「タカト! 分かっとるじゃろうな! 小門の中には、魔の国とつながっとるものもあるんじゃ!」
タカトが聞いてるのか聞いてないのか、怪しい顔をしてると──
追い打ちのように来る、念押し。
「死にたくなかったら、門の外に出るな! 小門は絶対にくぐるな!」
小言が止まらないのが権蔵の仕様である。
そんな彼に気づかれぬよう、二人は慎重に足を進めた。
そのとき──
「ごほん」
権蔵の咳払い。でかい。タイミング良すぎ。なんか、わざとっぽくない?
……とでも思ったのか、廊下を進む二人の足が、ぴたりと止まった。
まるでDVDの一時停止ボタンを押されたみたいに。ピクリとも動かない。
しかも二人、完全に同じ姿勢。同じ顔。
首だけがゆっくり、連動するように回っていき──
寝ている権蔵の背中をじっと見つめる。
……誰も動かない。
……音ひとつ、しない。
しばらくして、そっと顔を見合わせると、小さくうなずく。
無言の合図で、再びそろそろと前進開始。
ダイニングに抜け、ついに──目の前に外へのドアが!
ガチャリ──
うす暗かった二人の顔に、朝日がパァッと差し込む。
――やったぁ!
――外に出れた!
その瞬間、タカトとビン子は、脱兎のごとく道具屋を飛び出した!
森の木々のあいだから差し込む陽光が、道の上にまだら模様を描いていた。
そのあぜ道を、息を切らしながら進むタカト。
気持ちは焦るものの、体がまったくついてこない。
そんなタカトの背中を、ビン子が「もっと早く歩いてよ!」とでも言いたげに、ぐいぐいと押している。
その姿はまるで、学校に遅刻しそうな中学生のよう。
幼馴染か? それともカップルか?
……ともかく、やけに息が合っているのは確かだった。
「もうだめだ……走れない……」
「また、オオボラに投げ飛ばされるよ?」
「フン! どうせもう遅刻確定! 今さら走ったところで、状況は変わらん!」
「それはそうだけど、努力したってことはオオボラだって分かってくれるわよ!」
だから!──とばかりに、ビン子はさらに強く背中を押す。
その先、道の向こう。
イヤイヤながらも走るタカトの視界に、オオボラの姿が見えてきた。
腕を組み、仁王立ち。
足をトントンと地面に打ちつけている。
──もしかして、やっぱり怒ってる?
遠目からでも、オオボラの怒りのオーラははっきりと感じ取れた。
タカトは、背筋に冷たい汗がつーっと流れるのを感じた。
──ヤバい!
本能的に危機を察知したタカトは、急に足をバタバタと動かしはじめた。
背中を押していたビン子の手がスルリと外れ、バランスを崩して「おっとっと……」
その目の前を、なぜか全力疾走をはじめるタカト。
いや、明らかに“走ってるフリ”である。
さっきまで普通に呼吸していたのに、急に「ハァッ、ハァッ」とオーバーな息切れ。
汗なんか一滴もかいていないくせに、なぜか手ぬぐいで額をぬぐっている。
──あきらかに言ってる。
「オラ! 必死に頑張ったぞ!!」……と
だが……演技、雑すぎ。
オオボラのもとにたどり着いたビン子は、すぐさま深く頭を下げた。
「ごめんなさい。寝坊しました……」
オオボラはちらっとビン子を見やると、無言でタカトをにらむ。
何か言いたげな顔をしながらも、口は開かない。
ただただ、ムッとしている。
その横で──
タカトは膝に手を当て、「ハァ、ハァ……」と大げさに息を切らせながら、
なぜか涼しい顔で、ビン子を指さした。
「いやぁ〜ビン子がさぁ、寝坊してさぁ〜俺も大変だったんだよぉ〜」
――は?
頭を下げたままのビン子は、目を見開いた。
まさかここまでとは……まさか、”100%”の責任をこちらに擦り付けてくるとは!
――起きなかったの、タカト、あんたもだからね!?
しかも、そのあとダラダラ歩いて、走りもしなかったくせに!
遅刻の原因? それはもう8割はタカトで確定。事実だ。
なのにこの男の表情ときたら、堂々と言い切っていた。
「オレは、悪くない!」
それを見たビン子の脳内に、自然とひとつの言葉が浮かぶ。
――タカトなんて、死んじゃえ。
その瞬間! 世界が回った……!
いや違う──回ったのはタカトだ!!
視界がぐるりと反転し、次の瞬間、背中にドンッと激しい衝撃。
一本!
オオボラの背負い投げ、見事に決まった瞬間だった!
「おおおお……」
思わずビン子の口から感嘆の声が漏れる。
両手は自然に拍手を始め、心の中では思い切りガッツポーズ。
──よくやった、オオボラ!
一方、タカトはというと。
「いてぇぇぇぇぇぇ!!」
背中を地面に打ちつけられた瞬間、視界がバグった。
一瞬だけ、目の前にブロックノイズ。
現実って、こんな風にバグるのか──と本気で思った。
とはいえ、この背負い投げもこれで6回目。
最初のころは見事に気絶していたが、
回を重ねるごとに、タカトの受け身スキルも進化してきた。
いまでは、何とか気絶だけは免れるまでにレベルアップしていた。
「遅い! この寝坊助が!」
オオボラは開口一番、怒鳴り声を響かせた。
タカトの腕をつかんでいた手をスッと離し、立ち上がる。
「あのさ、俺、低血圧なんだよ!」
タカトはあおむけのまま必死に叫ぶ。
だが、その声は完全に無視されて――
オオボラは無言で森の中へ歩みを進める。
「今日こそ小門を見つけるぞ。早く来い!」
そう──タカトとビン子は、よりにもよってオオボラと一緒に“小門”探索。
え、そんなん絶対に権蔵にバレちゃダメなやつでしょ!?
……てことで、今朝のコソコソ劇場、開幕だったわけです。