命の石
何日……いや、何か月、彷徨ったことだろう。
かつて神と讃えられたその美貌は、疲労と生気の枯渇によって見る間にやつれ、
その顔には、細かなしわが刻まれていった。
──お姉ちゃんの私が、しっかりしていれば……!
自責の念に苛まれながらも、ミズイは足を止めなかった。
倒れても、立ち上がり、また走る。
見つからない。
それでも探す。
見つからない。
探す、探す、探す──
やがて、胸を締めつけるのは、深い後悔とどうしようもない怒りに変わった。
もはや、生気の枯渇を老いで補っていたミズイの姿は、老婆そのもの。
かつての「美しかった神」など、どこにもいなかった。
それでも彼女は、生気の吸収が難しい街へと足を運んだ。
──これだけ探しても見つからないということは……誰かにさらわれた?
路地裏、橋の下、人ごみにまぎれ、ミズイは必死に痕跡を探した。
その姿は、まるで浮浪者そのもの。
──いったい誰にさらわれたというのだ?
まさか、神の恩恵を求める人間にか?
ゴミ箱をあさるミズイの目は、老いと憎しみによって醜く歪んでいった。
だが、神はこの世界において、特別な存在。
そんな恐れ多いことを、人間がするだろうか?
──いや、あいつらなら……やりかねない。
あの身勝手な人間どもなら、神の子だろうと、自分の都合で平気で奪っていく……。
――いったい、誰が……二人を……?
そんな時だった。ミズイが小門を見つけたのは。
岩肌の奥に、ぽっかりと口を開けた大きな洞穴。
その規模からして、すでに成熟した小門であることは一目瞭然だった。
ということは、おそらくこの先は──魔人の世界に通じている。
――まさか……アリューシャたちは、魔の国へ?
いまさらその可能性に気づき、ミズイは唇を噛んだ。
どうしてもっと早く思い至らなかったのか。悔しさがこみ上げる。
彼女は曲がった腰に鞭を打ち、よろけそうになる足取りで、でこぼこの岩肌をよじ登っていく。
小門の縁に手をかけた、その瞬間──
中から、かすかな空気が漏れ出した。
それは、魔の気配とは異なるものだった。
血や死を思わせる淀んだ臭気ではない。
むしろ──どこか懐かしい匂い。
あの森の中で、三人で笑い合った日々を思い出させる。
優しくて、温かくて、胸の奥がきゅっと締めつけられるような匂い。
ミズイは目を見開き、震える声でつぶやいた。
「……これは、アリューシャの匂い……!」
ミズイは、洞穴の中へと飛び込んだ。
よぼよぼの足取りながら、必死に濡れた岩肌を進んでいく。
何度も滑っては転び、泥にまみれながらも、彼女の足は止まらなかった。
──この先に、アリューシャがいる。
その一心で、ひたすらに進む。
だが、胸の奥にわずかな不安が広がっていたのも、確かだった。
もしもこの小門の奥にアリューシャがいたのなら──
なぜ、彼女は自分のもとに戻ってこなかったのだろう?
──いや、きっと戻れなかった理由があったのだ。
たとえば、誰かに囚われていたとか。
あるいは、マリアナを人質に取られて、身動きが取れなかったとか……。
考えれば考えるほど、可能性は尽きなかった。
だが──時間はあまりにも過ぎていた。
アリューシャが姿を消してから、もう十年以上が経っている。
その長い時の中で、生気を取り込まずに生きていられるのだろうか?
神とはいえ、生気が尽きればやがて荒神と化すのだ。
──もしかしたら、もう……アリューシャは……。
胸に浮かんだ最悪の想像を、ミズイは激しく首を振って追い払った。
──違う。きっと生きている。
そう信じなければ、心が砕けてしまう。
珍毛のハーレムを通り過ぎ、さらに奥へと進む。
やがて、目の前にほのかな青白い光が浮かび上がった。
そこは、体育館二つ分ほどの巨大なホール。
ミズイは肩で息をしながら、しわくちゃな手で壁にすがった。
「ふう……年寄りにはこたえるわい……」
あたり一面の壁には、ヒカリゴケやグローワームといった光る虫たちが群れをなし、まるで天空の星々のようにきらめいていた。
まるで満天の星空だ。だがもちろん、ここは地下の空洞。外の夜空など見えるはずもない。
壁面はおそらく、天井まで数メートル以上はあるのだろう。上のほうは暗くて見えないが、それでも空間全体が仄かな青白い光に包まれていた。
──ヒカリゴケだけで、こんなにも明るくなるものなのか?
ミズイは、しばしその幻想的な光景に見とれながらも、ゆっくりと壁に近づいた。
そして、光を放つコケの表面に手を伸ばし、そっと払う。
すると、その下から──全く異なる輝きを放つ壁面が姿を現した。
「こ、これは……命の石!」
ミズイは息を呑み、思わず天井を見上げた。
――まさか、このホールの壁一面が命の石で覆われているのか?
これだけの命の石があれば、数百年、いや数千年は生き延びられるかもしれない。
――これで、生気を取り戻せる……
彼女は咄嗟に、青白くガラスのように輝く壁面に唇を押し当て、生気を吸収しようとした。
だが、その唇は突然ぴたりと止まり──震えが全身を襲った。
いつしか、干からびた目からは涙が零れ落ちていた。
とめどなく……とめどなく……涙が溢れ出す。
「この生気は……アリューシャの……」




