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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 4章 ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編

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その頃、ミズイは

 その頃、小門の外──

 美魔女へと姿を戻したミズイは、大きな岩に腰を下ろしていた。


 老婆のときにまとっていたローブは、艶やかな肢体にはあまりに窮屈だった。

 張りのある胸が布地を押し上げ、くびれた腰と豊かなヒップに引っ張られた裾は乱れ、太腿が大胆にあらわになっている。

 だが、当の本人はそんな姿に頓着する様子もなく、膝を立てて腕を軽く乗せたまま、ぼんやりと空を仰いでいた。


 青く澄んだ空に、白い雲がゆっくりと流れていく。

 どこかで鳥がさえずり、柔らかな風が木々の梢を撫でて通り過ぎていった。

 時間の流れが少しだけ緩んだような、静かな午後。


 風に乗って、ミズイのピンク色の髪がふわりと舞う。

 彼女はそれを指先ですくい上げ、ゆっくりとかきあげた。

 その仕草には、年齢の影すら感じさせない、しなやかな色気が宿っている。


 そして、ぽつりと──それは独り言というには少しばかり声が乗っていた。


「……あ。あいつらに、珍毛のこと伝えるの、忘れてたわwwww」


 まるで本当にどうでもいいといった顔つきで。

 けれど、思い出してしまったものは仕方がない。


 そう、小門を少し進んだ先には、男に対して強烈な敵意を持つ魔物──「珍毛」が巣食っていたのだ。

 それをタカトたちに伝えるのを、ミズイはうっかり忘れていた。


 ミズイ自身は何度も小門を通っている。

 老婆の姿であっても「女」は「女」。珍毛には無害とみなされ、襲われることはなかった。

 だが、タカトもオオボラも、れっきとした「男」である。

 もし、あの好戦的な珍毛に見つかってしまえば──


 ……背筋に、ほんのわずかな悪寒が走った。

 けれど、次の瞬間には肩をすくめ、くすっと笑っていた。


 ――まあ、あのタカトなら大丈夫じゃろ。

 あのダンクロール(♀)を倒せたくらいなんじゃから。


 あの魔物──ダンクロールは、ミズイがかつて、ベッツたち不良どもへの復讐のために魔人世界から鶏蜘蛛(♀)を連れてきたとき、小門を通って聖人世界へついてきた個体だろう。

 ──まったく、余計なもんまでついてきおって……

 と、今さらながら自分の詰めの甘さを思い出して、ミズイは小さく舌打ちした。

 あれも雌だったから、小門のセキュリティ──男だけを弾く珍毛のスクリーニングには引っかからなかったのだろう。

 だが、それに気づいたときには、もう後の祭り。老婆の姿のミズイでは討伐できようもなかった。

 それほどまでに大きな個体、強かったのだ。


 とはいえ、最初は「まあええわ」と思っていた。どうせ勝手にどこかへ行ってくれるじゃろう、と。

 人間たちがどうなろうと、ミズイには関係ない。自分が長く生き延びるための邪魔さえしなければ、それでよかった。


 ──なのに、よりによって小門のすぐ近くに居座りおって……。


 このあたりはベロベロチューリップやレディカーネーションなんかの魔草花が群生していた。しかも、森の小動物も多い。つまり、餌には困らない場所だったのだ。

 それでも、ダンクロールは、神であるミズイに対しても容赦なく牙をむいた。

 老婆の姿であるミズイは、もはや彼女にとってただの餌でしかなかった。


 ──おかげで長いこと、小門に近づくこともできなかった。あれはほんまに厄介なヤツじゃった……。


 しかし、タカトがあれを倒してくれたおかげで、再びこの場所に立てるようになったのだ。

 ──あの子の持つ生気は底が知れん……いや、あの子の中に巣くう別の何かのせいなのか。


 というか……なぜミズイは、それほどまでにこの小門に執着しているのだろうか?

 あるいは、この門に、彼女だけが知る因縁でもあるのだろうか?


 ──あれは、もう、何十年も前のことだったじゃろうか……。


 岩の上で風に吹かれながら、ミズイはふと目を細める。


 まるで、霧が晴れるように。

 遠い、遠い昔の記憶が、少しずつよみがえってくる。


 鑑定の神であるミズイは、かつてこの場所とは違う、しかしどこか似た雰囲気を持つ森の奥深くに身を潜めていた。

 人目を避け、静かにひっそりと暮らしていたのだ。

 神とは、生気を失えばやがて荒神と化す存在。


 だが、自分のことしか考えない人間たちにとって、そんなことはどうでもよかった。

 見つかれば、神の恩恵を求めて群がり、やがては追い立てられる。


 けれど──

 神の恩恵とは、そう簡単に与えられるものではない。


 というのも、恩恵の授与は神の生気を著しく消耗させる。

 つまり、神は自らの命を削って、人に恵みを与えているのだ。


 ゆえに、神が与える恩恵には、重い覚悟と代償が伴う。

 それでも、求める者は後を絶たず、与える側ばかりが消耗していく。


 だが──

 たとえ何も与えずとも、神の命は削られていく。

 生きている限り、生気は静かに、確実に減ってゆくのだ。


 ──それが、「生きる」ということ。


 そんな生気の枯渇を防ぐため、ミズイたちは森の動物たちから、ほんのわずかずつ生気を分けてもらいながら、慎ましく暮らしていた。


 けれど、寂しさはなかった。

 なぜなら、当時ミズイには、マリアナとアリューシャという二人の女神がいたからだ。


 三人は寄り添うように、この森の中で仲良く暮らしていた。


 物質的には満たされなかったかもしれない。

 それでも彼女たちは、三人で力を合わせ、日々を懸命に生きていた。


 笑い合い、喧嘩をしては、すぐに仲直り──

 手を取り合い、支え合いながら、静かに、確かに──生きていた。


 ──それで、よかった。

 それだけで、本当に……よかったのに……。


 ――だけど……


 ミズイが街へ、命の石を買いに出かけていた、ほんのわずかなあいだのことだった。

 一番年下のアリューシャが──忽然と姿を消したのだ。

 理由も、手がかりも、何も残されていなかった。


 そして、その直後。

 二番目のマリアナも、妹を探しに行くと、何も告げぬまま森を出て……そのまま帰ってはこなかった。


 ミズイは、二人を懸命に探した。

 神の力たる〈鑑定〉のスキルを使っても、二人の存在は空虚のまま。


 ──ならば、この眼で探すしかない……


 森の中を駆けまわり、大声で名前を呼んだ。


「アリューシャ! マリアナぁ!」


 その声は、風にちぎれて、森に吸い込まれていった。

 乱れたピンクの髪には、枝や葉が絡まり、泥と汗で頬は濡れていた。

 生気を吸収することすら忘れ、ただ無我夢中で探し続けた。


 ──あの時、目を離さなければ……




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