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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 4章 ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編

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戦には勝って、勝負に負けた!

 ほどなくして、洞穴の中は静まり返った。

 あれほど騒がしかった巨像の姿は、もはやどこにもない。


 巨像を構成していた万毛たちは──浮気男への憂さ晴らしを終えるやいなや、潮が引くように岩陰へと散っていった。

 それぞれ、何事もなかったかのように、勝手気ままに。


 そして、オオボラの目の前に残されたのは──一匹のナマコ。

 ……いや、どちらかといえば「ナミガイ」と言ったほうがしっくりくるかもしれない。


 というのも、そこに横たわっていたのは、ナミガイ特有のビローンと伸びた水管。

 チ○コのようにも見えるが──実際この水管、コリコリとした歯ごたえ、柔らかな紐身、そして磯の風味と旨味を楽しめる、なかなかの珍味なのだ。


 そんな水管のような触手が、オオボラの目の前に──ドーンと10メートル!

 ……いったいこれだけあれば、何人前の刺身が作れるというのかwww


 オオボラは、その巨大な触手を足先で、つん、と小突いた。

 だが──カリ頭は、もはやピクリとも動かない。


 触手の先端からは、魂が抜け落ちたかのように……白濁した唾液が、力なく、よだれのように垂れていた。


 「……なんとか勝ったか……」


 万毛たちの執拗な集中攻撃により、珍毛は──完全に事切れていた。


 だが、死んだのは珍毛だけではなかった。

 もう一人、魂を抜かれた者がいたのだ。


 それは──タカトである。


 「……何が勝ったかだよ、このバカ野郎がぁ……!」

 地面に膝をついた彼は、肩を震わせ、うなだれていた。


 その目の前には、一冊の本。


 「確かに! 戦には勝ったわい! だけど! だけどなあ!」

 嗚咽と共に拳を地面に叩きつける。


 「勝負は──ボッコボコ! いや、ドロッドロの! 大負けじゃあああああ!!」


 その叫びの先にあったのは、白濁の海に沈む写真集だった。

 まるで、レイプされた乙女が泥沼に放り込まれたかのように──


 ぺらりとめくれたページの中で、けなげに微笑むアイナちゃん。

 だが、その笑顔も、スルメドリップの潮に溺れ、歪んでいた。


 タカトは、震える手でページの端をつまみあげた。

 糸を引くスルメ汁が、ぽたぽたと垂れ、岩肌に落ちる。

 鼻を突くイカ臭さが、残酷な現実を突きつけてくる。


 「……俺の……アイナちゃんが……」


 その一言に、全てが詰まっていた。


 ──抱きしめたい。ただ、それだけだった。

 だが、それは叶わぬ願い。


 目の前に滴るその液体は、スルメドロップ。

 魔の生気を孕んだ猛毒だ。


 指先で触れようものなら、小指から孫指がボコボコと芽吹き、

 やがて脳までやられ、人魔症を引き起こすに違いない。


 ──捨てるしかない。


 ……だが、捨てられるものか!


 これは、すでに絶版となった伝説のグラビア本。

 涙と汗と煩悩で手に入れた、唯一無二の宝物なのだ。

 その価値は──金ではない、愛である!


 タカトは、決意した。


 写真集をそっと抱え、岩陰に穴を掘った。

 湿った土の中にそれを埋め、小石で作った墓標を立てる。


 「愛するアイナちゃん……ここに眠る」


 そして、静かに──頭を垂れた。


 そんなタカトの様子を見ながら、オオボラは彼の言葉を思い出した。

 ──確か、こいつ……超貴重品って言ってたよな……。


 申し訳なさからか、それとも哀れみに近い感情からか──

 オオボラは、タカトの肩越しにそっと声をかけた。


「……すまなかった……」


 だが、タカトはうなだれたまま、一言も返さない。

 まるで、愛する人の墓の前から動こうとしない忠犬のように、じっとその場に座り込んでいた。


 ──このままでは埒が明かない。


 ようやく、珍毛の脅威は去ったのだ。

 キーストーンを探すべく、奥へと進まなければならない。


 だが、タカトに「行こう」と声をかけたところで、きっと逆効果だ。ますます意固地になるに違いない。

 ならば──


「……確か、『アイナと縄跳び』だったか」

 オオボラは静かに言った。

「俺がそれを探しておいてやるよ。それでいいだろ」


 その瞬間──


「マジかっ! 嘘じゃないよな、それ!」


 パッと振り返ったタカトの顔は、まさに満面の笑み。

 ……あまりの切り替えの早さに、オオボラは引きつった笑みを浮かべつつ、一歩後ずさった。


「ああ……ちゃんと約束は守るよ」


 ***

 

 いつの間にか、タカトたちの横を地下水の川が流れていた。

 チョロチョロという細い水音が、暗闇の底から微かに聞こえてくる。


 その音の響き方からして、かなりの深さがあるのだろう。

 ──落ちたら、もう二度と戻ってこれないかもしれない。


 そんなことを思いながら、タカトは濡れた岩肌を慎重に踏みしめて進む。


 だが──

 珍毛との戦いが終わったからか、それとも緊張の糸が切れたせいか、またしても睡魔が容赦なく襲ってくる。

 まぶたが重く垂れかけ、それを意地でこじ開ける。

 目の前で揺れるオオボラのたいまつの灯りが、何重にも滲んで見えた。


 何度も「ちょっと休もうぜ」と口にしかけた。

 けれど──


 オオボラの様子を見て、タカトは言葉を飲み込む。

 どうやら先ほどの戦いで、足を傷めたらしい。歩き方が明らかにぎこちなく、何度も岩肌につまずきかけていた。


 ならば、なおさらだ。

 一刻も早くキーストーンを見つけねばならない。


 ──オオボラのために。

 そんな思いで、タカトは眠気と闘いながら足を進める。


 ……だが。


 ビン子は相変わらず、タカトの背中でスヤスヤスヤ……


 ──こいつ! 少しは気を遣えよ!

 タカトは内心そうツッコミを入れるが……


 実はこれ、これでビン子なりの「気遣い」だったりする。

 だがその真意をタカトが知るのは、まだまだ先のお話なのである。

 

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