アイナちゃん!妊娠!
かろうじて足先が性書に触れた。
その反動で、性書はふわりとバウンドし、地面に倒れこむ。
それは、まるでM字開脚する女性のように、大きくページを見開いていた。
──セーフ……!
オオボラとタカトは、同時に胸をなでおろす。
……が、触手のカリ頭の様子がおかしい。
身を震わせながら、じっと性書を睨みつけている。
──怒ってる……?
タカトはそう思った。
先ほどオオボラが見せていたのは、中ほどのページ。
露出はないが、縄跳びが体操服に絡み、浮き上がる肉感がいやらしかった。
だが今、性書は確かに開かれているものの――明らかに、片側のページが薄い。
──まさか、1ページ目……?
それは制服姿のアイナちゃんが教室でにっこりほほ笑んでいるページ――いや、それはそれでアリだ。アリなのだが……!
性書を熟知しているタカトには分かってしまった。
これは、“抜きどころ”を外したパターンだ、と。
タカトはオオボラに目配せした。
──オオボラ! ページをめくれ!
──何ページ目だよ!
──どこでもいいんだよ! とにかくめくれ!
このままじゃヤバい。
怒り狂ったカリ頭の矛先が、こっちに向くのは時間の問題だ!
先端に開いた小さな口から――白くてドロッとした毒液を、ドピュっと噴射してくるかもしれない!
……そうなれば、もう終わりだ。
タカトとオオボラ、めでたく妊娠確定!
参政党も卒倒するレベルのミラクルが爆誕だ!
オオボラが、そっと性書へと近づく。
だが、それに気づいたカリ頭が、ピンと鎌首をもたげた。
まるで──「俺のオンナに手ェ出すな」と言わんばかりの威圧感である。
さすがのオオボラも、思わず気圧された。
……だが、ここで引くわけにはいかない。
オオボラは逃げ腰のまま、そっと手に持った鉈を伸ばす。
届かない。
あと少し……ほんの数センチが、届かない。
プルプルと震える腕。
一生懸命に、鉈の刃先を性書へと近づける。
だが、やはり届かない。
こんなにも「あと少し」が遠いことがあっただろうか。
……この瞬間ほど、すでに折れた鉈が憎らしく思えたことはなかった。
その刹那──カリ頭の先端が、わずかに膨張した。
童貞諸君ならご存じだろう。いや、経験豊富なご婦人方のほうが、むしろ敏感かもしれない。
夜な夜な執り行われる聖なる儀式の終盤、ついにフィナーレを迎えるあの一瞬。
毒液を吐き出そうとするカリ頭は、ほんのひと息──
まるで空気をため込む風船のように、張りつめた膨らみを見せるのだ。
そう、これは“発射”の兆候。
異変をいち早く察知したタカトは、全身を総毛立たせながら叫んだ。
「オオボラ! よけろ! 毒液がくるぞ!」
3!
2!
1!
ダァァァアァァァ!
もはや「ドピュッ♡」なんて表現は生ぬるい!
まるで決壊したダムが一気に放流したかのように、白い液体が洪水のごとく吹き出した。
まさに、天井知らずの大噴水──これはもう、白い津波だ!
――これでオオボラは……ママに……
一瞬、目を背けたタカトは、恐る恐る視線を戻した。
しかし、ママになったのはオオボラではなくアイナちゃんだった。
うん? 意味が分からない?
分からないよねwwww
あの瞬間、カリ頭の先端から噴き出した毒液は──オオボラではなく、地面に横たわる性書のアイナちゃんへと飛んでいった。
そのページに描かれていたのは、亀甲縛りで淫らな姿をさらすアイナちゃん。
よく見ると……お腹がぷっくりと膨れ上がっているではないか!
どうやらカリ頭が見ていたのは──1ページ目ではなく、最終ページ!
そう、言うまでもなく、教育委員会やPTAが発狂する“問題のラストカット”だったのだ!
それを目の当たりにしたオオボラは、心の中でそっと思う。
――ていうかコイツ……写真まで妊娠させるのかよ……
な、わけあるかいwwww
冷静に考えれば、写真の上に盛り上がった白い毒液なだけの話。
まぁ、体操着が白いから勘違いしたのかもしれないけど、ファンにとっては絶望的なシチュエーションであることには変わりないよね。
しかし、絶望を感じたのはファンだけではなかった。
今まで、夜な夜な“聖なる儀式”と称して愛を囁き、蜜を交わしてきた男が……!
よりにもよって、見ず知らずの女に! しかも目の前で!!
とんでもない量の白濁液を──まるで決壊したダムのごとく、ドバァアアッ!! と噴き出したのである!
羞恥? 配慮? そんなもん一切なしの無差別放水!!
しかも、どう見ても自分たちのときより多いって、どういうこと!?
……それって、何? 本命ってこと? スペシャルってこと!? ふざけんな!!
その瞬間、万毛たちの中で──いや、雌たちの中で──何かがはじけ飛んだ。
これはもうジェラシーとかいうレベルではない。
雌としての誇りが、ぐっしゃり踏みにじられたのだ。
きっと彼女たちは、こう思ったに違いない。
――なんで私たちは、こんな雄に惚れたんだろう。
――どこに惹かれた? この軽率なタマキンの、どこに色気を感じた!?
怒りがふつふつと沸き上がり、ぶわっと逆立つハナゲの体表。
その怒りの矛先は、言うまでもない。
そう──中心に立つ、あの調子に乗っていた珍毛に一直線!!
――死ねぇええ!! この浮気おとこぉおおお!!
――このタマキンがぁあああ!! 潰れちまえぇぇぇぇええ!!!
女のプライドを裏切った男の末路は、実に悲惨である。
次の瞬間、万単位の万毛たちが一斉に跳ねた!
ジャンプキック! ジャンプキック!
そして……超滞空! 渾身のッ! ジャンプキィィィイイイックッッ!!!
鳴り止まないラッシュ! 止まらない金的連打!!
その中で、珍毛はきっとこう叫んでいたに違いない。
「や、やめてくれぇ……! オレのタマキンが……砕け散るぅぅぅ!! うひぃっ♡」
……だが、その無様な断末魔を、オオボラは黙って見ていた。
痛みを共有するでもなく、同情するでもなく──
ただ、静かに立ち尽くしながら。




