表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

頭はフリーズ

作者: Zaki

今日は金曜日。

待ちに待った週末だ。

金曜日の夜から日曜日の夜までは、俺の最も充実した時間。


録画ためしておいたアニメを見ながら、一人で夕食を食べて、ネットゲームしながら土曜日の朝を迎え、土曜日の昼からは、小説になろうを読んでは、自作ゲームの構想を練る。でもプログラミングのセンスがないから、自分の頭の中だけだ。自分もプログラマーのスキルがあったらなぁ、とは常日頃思う。そして土曜日の夜もまた翌朝までネットゲームだ。日曜日の夜は日が越さない程度に、今度はダウンロードしたスマホゲームでもストーリーを進めておこう。


そうして、またつまらない月曜からの日々が始まるのだ。

俺は何のために生きている?この週末のためだけだ。

そのためだけに日々、精神を無にして、ひたすらつまらない仕事に精を出す。

こうしてるうちに何年たっただろう・・・。


「山田、山田!」


「は、はい!」


「お前また別の世界に行ってただろ?

 お得意先の光明商事さんからだ。」


通路を挟んだところの席に座っている俺の直属の上司、鏡原課長から、お客さんからの電話があったことを聞く。

普通、上司より部下が先に外線電話を取るものだが、俺は全く意識がなかった。

いや、退勤してからのことに全神経を集中させていたのだ。

もう5時50分だぜ?当たり前だろう?


「はい、お電話代わりました。山田です。」


何事だろうかと思いながらも、電話を取る。

こんな時間からの発注とかは止めてくれよな、と思いながら。


「山田君、すまないね。ウチ、今日で店じまいするんだ。あんたにはお世話になったから、電話させてもらったんだ。アンタの上司の鏡原さんにもよろしく伝えておいてね。」


一方的に別れを告げられ、電話が切れる。


え?何が起こった?

これって映画?ドラマ?現実じゃないよな?


しばらく茫然としてた俺に、鏡原課長が声を掛ける。


「どした?俺、先に帰るから、何かあったら、また月曜日な。」


「あ、あの・・・」


とっさにこれはマズいと思って引き留める。


「光明商事の社長さんから・・・」


「ああ、さっきのは社長さんからの電話だったな。」


「店じまいにするって・・・」


「は?!」


その大声に社内が一斉に固まる。

静寂が訪れる。


頭の中には、どうしよう、どうしよう、という言葉だけが永遠に繰り返される。

ほんの数秒が何時間かのような長さだ。


「おまえ、あの2億円の機械納品は先週だったな?」


「はい。」


「手形は?」


「週明け取りに行く予定になってます・・・」


「お前、手形もないんじゃ、どうやって回収するんだ?」


「・・・」


当たり前だ。いくらお得意さまでも、手形もなしに納品はマズい。

しかもそのお得意様が逃げてしまったら・・・。


「お前、すぐに光明商事へ行け!」


「は、はいっ」


ビクっとしながらも、消え入らないギリギリの声で返事をする。


2億円、2億円。先月までのの売掛金も合わせると2億5千万円。とんでもない金額だ。。。

なんとか光明商事へ駆け付けたのが7時。当然の予想通りに、シャッターは閉まっている。

ここに来るまでに、鏡原課長から何度も携帯に電話があった。

社長にも報告したが、これは我が社が倒産になるかもしれない事態だという事。予想通り、光明商事の社長はもちろん誰とも電話がつながらない、ということ。

課長の指示通り、向かいのビルから出てきた人に声を掛けてみる。光明商事についてだ。


「あ、ここなら、2週間ほど前からずっとシャッター閉まってましたよ。」


完全にやられた。

これはもう、手遅れとしか言えないだろう。


ほどなくして、課長と社長も現場に到着。

しかし、もうこれ以上、ここで出来ることはなさそうなので、三人で事務所に戻ることに。

車の中は無言の嫌な空気。


事務所に戻ってから、ことの顛末を再び社長に報告、そして報告書を書くように指示される。


社長と課長は別室で話している。部長が会社に戻ってきて、その部屋に入る。少し顔が赤かった。そういえば、今日は取引先との会合だったはずだ。それを切り上げて戻ってきた、ということか。


逆に、一般社員は帰るように言われて誰もいない。普段なら、11時まで誰かは残っているはずだが、今日は誰もいない。自分のパソコンを打つ音だけが部屋に響き渡る。


ちょうど、課長が呼びに来た時、報告書が書きあがった。

印刷し、三人に渡して、口頭で報告する。


しばしの沈黙。課長も部長も社長の言葉を待っているようだ。

すでに結論は出ているのだろう。


社長は静かに言った。


「ほぼ間違いなく倒産だ。いずれにせよ、いろいろ手続きが出てくる。

 とりあえず、このことは、まだ誰にも言うな。来週の月曜日、会社全体へ発表する。」


やっぱり。そうだよな。あんな額の不当たりがあれば当然だよな。

社長って、会社が倒産したら、その時の赤字を被ることになるのかな?

一般社員は給料がもらえないだけだろうけど、仕入先とかその他への支払いの責任があるもんな。。。




この夜、俺は一通の手紙を実家に送った。



そして、異世界へ生まれ変わることを期待し、トラックが走ってくるのを待った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ