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最弱無双の転移魔導師 ~勇者パーティの荷物持ち、パーティを追放されたが覚醒し、最弱魔法で無双~  作者: 夕影草 一葉
六章 黒と鋼

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97話

 太陽が昇り切った時刻に里を出て、山林で日暮れを待つ。

 そして太陽が山脈に隠れる頃合いを見計らって、俺達は荒野へと飛び出した。

 

 エルグランドから魔族が支配する地域にかけては、荒涼とした荒野が広がっていた。

 元々は農耕が盛んな土地だったらしいが、魔族の進行によって荒らされ、こうなってしまったのだという。

 見れば所々に争いの跡が見て取れる。中には打ち捨てられた死体も転がっていた。

 そんな、緑すら残らない荒れ果てた大地を駆け抜け、目的の場所へとたどり着く。


 遠目からは、地形の起伏に隠れてその全貌を見て取れない。

 しかし近づいてみれば、それが明らかに自然の地形ではないことが見て取れた。 

 無理やり大地を掘り返して作られた、魔族の前線基地。


 その証拠に、周辺には何人もの魔族が見回っていた。

 ただ、俺の能力はこう言った奇襲に関して言えば、他の追随を許さない。


「共鳴転移!」


 風切羽が視線の先の魔族を貫き、一瞬の間に命を奪いさる。

 そして倒れる音をかき消すため、遺体ごと別の場所へと転移させる。

 そこに魔族がいた痕跡すら残さずに次々と見張りを排除していく

 そんな一連の流れを背後で見守っていたベルセリオが感嘆の声を上げた。


「こんなに凶悪な魔法だったのですね、転移魔法とは」


「普通の転移魔導士ではこうはいかぬがな」


 振り返れば、一瞬だけビャクヤと視線が交わる。

 しかしすぐに彼女は視線をそらし、前線基地の方へと向けてしまう。

 見ればアリアからも非難の視線を向けられていた。


 あの一件以来、ビャクヤとはうまく会話できていない。

 互いに謝罪をしたのだが、俺達の間には明確な溝が生まれていた。

 それに、アーシェなら俺を説得できたのだろうか。

 そんなビャクヤの一言が、深く心の奥底に刺さったままだった。

 

 アーシェは現在、大勢を救う為に勇者と行動を共にしている。

 であれば今回も大勢を救う為に、ビャクヤ達と同じ判断を下したかもしれない。

 里の危険を知りながらも、あえてベルセリオには伝えないということも考えられた。


 もしも、そうなったら。

 アーシェと意見が割れたならば、どうなっていたか。

 俺はそのことに反対しただろうか。

 自問自答をしても、答えは出ない。

 

 だが、この場所にいない人物の事を考えても仕方がない。

 今は目の前の問題に注力すべきだと、思考を無理やりにも切り替える。

 それが卑怯な逃げだと知りながら。


「それじゃあ、事前の作戦通り動いてくれ。 俺もなるべく見つからずに行動するが、中で派手に暴れ始めたら三人もそれぞれ手はず通り仕掛けてくれ」


「できるだけ静かに行動しなさいよ」


「目的の物が見つかるまでは、善処する」


 事前に打ち合わせた作戦は、至ってシンプルな物だった。

 最初に隠密行動に長ける俺が内部へ侵入して、魔素があるかを捜索する。

 そして捜索が終わった後に魔族への攻撃を始める。

 それと同時にアリアの人形で攻撃を仕掛け混乱を招いたあと、ビャクヤとベルセリオが飛び込む。


 目的は殲滅、と言う訳ではない。

 そのためにも奇襲を仕掛けて、できるだけの損害を出させる必要がある。

 欲を言えば魔族側の指揮官を打ち取りたいが、高望みはしない。

 今回はこの前線基地から魔族を撤退させれば俺達の勝利なのだから。


 ◆ 


「これが、魔族の前線基地か。 想像以上だな」


 何度も転移を繰り返して、基地の内部を捜索する。

 俺達が攻め込んだタイミングで魔素をばら撒かれてしまえば、元も子もない。

 その為、魔素があるかどうかの捜索は絶対に外せなかった。

  

 ただ一つ問題があるとすれば、想像以上に基地が広いということだ。

 大勢の魔族がせわしなく行き来する内部では、安易に地面へ降りての捜索ができない。

 そこで一気に基地の最奥へと向かい、巨大な建物の屋根へと転移する。


「まだ、魔素は運び込まれていないのか?」


 高所から見回しても、それらしい物は見当たらない。

 倉庫などもなく物資は外で煩雑に積み上げられているだけだ。

 物資の山を遠めに見ても魔結晶などは確認できない。


 しかし、一か所だけ焚き木などがない区域が存在した。

 それも殆どの魔族がその場所に近づこうとさえしない。


「まさか、あの場所か?」


 不審に思い、転移してその場所へと近づく。

 細心の注意を施し、足音も消して周辺の探索に移る。

 だが、月明りさえない暗闇の中から、声が響いた。


「よう、そこの人間。 なに急いでるんだ?」


「っ!?」


 とっさに転移魔法で、声から距離を取る。

 だが、見えるのは暗闇だけ。

 声の主の姿は全くと言っていいほど、見て取れない。

 それでも声は徐々に大きくなる。


「知ってるぜ? この魔結晶を狙いに来たんだろ?」


「お前、使徒か」


「使徒? いいや、そりゃ誰のことだ? 俺はここを狙いに来る人間を殺せって命令されてるだけだ」


 その瞬間。

 一気に暗闇が引き裂かれた。

 暗闇の中にあった巨大な松明が炎を灯したのだ。

 壁際には荷車に乗せられた大量の魔結晶。 

 そしてその荷馬車を背中にした声の主の姿がさらされる。


 相手は、間違いなく魔族だ。

 だが外を歩いている魔族とは決定的に違う部分があった。

 見上げるほどの巨体でもなければ、悪魔の様な風貌でもない。

 どちらかと言えば、見た目は人間に近かった。

 魔族特有の威圧感もなければ、恐怖心を煽られるわけでもない。 

 

 それでも侮れない相手と言うのは、一目で見て取れた。

 少なくない俺の戦いの経験から、本能が激しく警鐘を鳴らしている。

 両の手に握った剣を打ち合わせた魔族は、口元に獰猛な笑みを浮かべて、牙をむく。


「魔族連隊筆頭戦士、ガルドニクスが相手だ。 悪いがお前には、死んでもらうぜ?」


 ◆


 かつて勇者は多くの種族の英雄と共に魔王を討った。

 だが考えてみれば、おかしな話だった。

 魔族という単一種族の殲滅の為に多くの種族が立ち上がったのであれば、もっと簡単に決着がついてもおかしくはない。

 俺も勇者の英雄譚を聞いたときにはそう考えた物だった。


 しかしそれが間違いだったと、遅れながらに理解する。

 魔族と言うのは、ほかの種族を凌駕するだけの能力を有しているのだ。

 それこそ、ほかの種族をすべて敵に回してでも、圧倒できるほどの能力を。

 

「おらおらどうした! その程度かよ!」


 その叫び声は、目前から聞こえていた。

 いくら距離を取ろうとも、いくら攻撃をしようとも、一瞬で距離を潰される。

 その体の頑強さと、魔族ゆえの身体能力の高さの前に、攻略の糸口を探し出せずにいた。


「共鳴転移!」


 風切羽が、ガルドニクスの死角から飛来する。

 しかし俺の予備動作を見切っていたのか。

 ガルドニクスは視線を向けるまでもなく、風切羽の一撃を回避した。


「ぬるいぜ!? 人間!」


「く、空間転移!」


 瞬間的に迫りくるガルドニクスから逃れるために、転移魔法で一気に距離を引き離す。

 それでも気付けば、ガルドニクスはすぐ目の前まで迫っていた。

 しかし俺を一気に仕留める気はないのか、退屈そうに剣を打ち鳴らす。


「珍妙な技を使うみてぇだが、それまでだ。 動きを見てればわかる。 お前は魔法に頼りっぱなしで剣の腕は下の下だな。 少なくとも、剣士を名乗れる技量じゃねぇ」


「それは俺が良く知ってるさ」


「ほう?」


「俺には俺の戦い方って物があるんでな」


 瞬時に理解した。

 ガルドニクスは俺では到底及ばない高みにいる戦士だ。

 正面から剣で斬りあっても、勝機などありはしない。


 であれば戦い方を変える必要がある。

 ガルドニクスの言う通り、俺は剣士ではない。

 転移魔法を操る、魔導士なのだから。


「なら来いよ! 全力を打ち砕き、その上で乗り越える! このガルドニクスがな!」


「悪いが早々に決着をつけさせてもらうぞ」


 視界が暗転、そして視界が開けたと同時に、ガルドニクスの背中へ切りかかる。

 しかし、刃は届かず、ガルドニクスの剣に阻まれて火花を散らす。

 不意打ちに近い形であっても、ガルドニクスは見事に読み切っていた。


 さすがは筆頭戦士。

 だが、その次の行動はどうやら読めなかった様子だった。 

 俺の一撃を受け止めたガルドニクスの剣が、一瞬にして虚空へ消える。


「て、てめぇ!? 俺の剣を!」

 

「剣士として敵わないなら、剣を奪えばいい。簡単な話だ」


 いくら魔族と言えども、切れ味鋭いワイバーンウェポンを素手で防ぐことはできない。

 そして剣で防ごうとしても俺の転移魔法によって、剣を別の場所に転移させてしまえばいい。

 優れた剣士であるならば、その剣を奪ってしまえばいいのだ。

 卑怯と言われようとも確実な勝利を手に入れられるのであれば、手段は択ばない。


 初めて狼狽したガルドニクスを前に、剣を構えなおす。

 この魔族を倒せば魔素を別の場所に移動させられる

 そうすれば、少なくとも戦場に魔素をばら撒くという使徒の思惑を潰すことができるのだ。

 

 だが、大きすぎる火の手が夜の空を照らし出した。

 続けざまに気勢が反響する。

 魔族の声ではない。もちろん、ベルセリオやビャクヤでもない。


「まさか、エルグランドの軍勢か!?」


 最悪のタイミングだった。

 よりにもよって、俺達と襲撃が重なるとは。

 しかし目の前のガルドニクスは、たまらずといった様子で笑い声を上げた。


「はは、はははははは! こりゃ良いぜ! いっそう、戦争染みてきやがった!」


「馬鹿な! このままだと全員死ぬぞ! その魔結晶の中身が何か、知ってるのか!?」


「戦士の俺が知るわけねえだろそんなこと!」 


 ガルドニクスは、あっさりと切り捨てる。

 そこでガルドニクスの性格の一端を垣間見る。

 俺が襲ってきた意味や、なぜ自分が魔結晶を守っているのか。

 そういった理由など、ガルドニクスには些細な問題なのだろう。


 戦士である以上、戦うことが役目であり、本懐である。

 その純粋な思考こそが、ガルドニクスを高位の戦士たらしめているに違いない。

 ガルドニクスは火の手が上がる様子を見て、血濡れの姿で高らかに笑った。


「だが戦争は殺し合いが正当化される唯一の場所だ! そこで全員死ぬなら、それも一興だろうよ!」

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