45話
消耗品の買い出しや防具の調整などを行うこと数日。
会心の出来だと豪語するガスクから預けていた武器を受け取って、俺達は総合窓口へと足を運んでいた。
ギルドマスターのパーシヴァルからは無理をしなくても良いと言われていたが、今の内にアストラル系の魔物と戦う訓練をしておくのも悪くはない。
意気揚々と窓口へと向かえば、イリスンが睨みつけるように俺とビャクヤを迎えてくれた。
「それで、アストラル系の魔物と戦う準備はできたのね? この脳筋共」
「武器にルーンを刻んでもらいました。 これで魔法しか効かない魔物とも戦えます」
「わ、我輩も準備万端だ! いつでも依頼に取り掛かれるぞ!」
「それは結構。 だけれど少し落ち着きなさい。 あの時から少しだけ状況が変わったのよ」
そういうイリスンは真面目な表情で、一枚の書類を取り出した。
それは以前、俺達が追い返された時に発行された依頼書だ。
何枚かの資料が付け加えられており、目を通すと俺達の他に問題の解決に向かった冒険者が居たのだという。
「というと、他の誰かが解決してしまった、という事ですか?」
ギルドが発行した公式な依頼なのだから、冒険者なら誰でも受けることができる。
発行元が明確で、かつギルドに恩を売れるという事で公式依頼は人気が高いことでも有名だ。
ともすれば他のパーティが解決してしまったのかと思ったのだが。イリスンは優れない表情で言った。
「いいえ、その逆よ。 解決しようとして被害を広めてしまったの。 以前なら廃墟に入らなければ被害は出なかったのに、今では街全体で被害が確認されているのよ」
「ま、街中、だと!? では宿屋で寝ている間に、人形が枕元に立っている、なんてことも……。」
なにやら一人で盛り上がっているビャクヤを捨て置き、話を進める。
「つまり殺人人形が街を徘徊して、人々を襲って回ってると。 それで被害はどれぐらい出てるんですか?」
「少なくとも10人は襲われてるわ。 犯行はいつも夜間に行われて、被害者は冒険者が多いのが特徴よ。 これが襲われた冒険者のリストだけれど」
そう言って、イリスンは追加で何枚かの資料を取り出した。
中身は襲われた人々の情報が記されており、確かにイリスンの言う通り7人が冒険者である。
その全員がブロンズとアイアン級の冒険者であり、さすがにシルバー級の冒険者は含まれていない。
人形を追い払えるだけの実力があるからなのか、そもそも標的にされていないのかは不明だ。
犠牲者の情報を見ても共通点は見つけられず、かといってランダムに襲われているとも思えない。
例え冒険者の街とは言われていようとも、冒険者の数は街の人口に対して多いとは言えない。
ここまで襲われるのが冒険者に固まるのは不自然と言えた。
情報欄を凝視している間に、端に書かれた似顔絵に目が移る。
そしてそこには見覚えのある顔が記載されていた。
「この三人は……。」
「もしかして、知り合いなの?」
「知り合いというほどではないですけど、宿屋の前でひと悶着おこした相手です。 彼らも死んだんですね」
「えぇ。 他の被害者と同じように、変死体で見つかったわ」
「この冒険者の他には誰が襲われたんですか?」
「裏商人に、貧しい浮浪者。 これといった共通点がなくて、ギルドも憲兵団もお手上げよ。 今は無作為に標的を定めているんじゃないかと、仮定されているけれど」
聞く所によれば、被害者は別々の薄暗い路地裏や廃墟で発見されたのだという。
遺体の顔は恐怖に歪んでおり、小さな手で首を絞められた跡が残っていた。
一部の冒険者は抵抗を試みたのか、体中に不可解な切り傷を作っている者もいた。
だが追い詰められた者は、最終的には手足の関節が完全に砕かれているらしい。
これは他の犠牲者も共通で、人形の被害になったと考えるのが自然だろう。
資料に目を通していると、隣からビャクヤが顔を覗かせた。
「そこまで死者の情報を集めて、どうするのだ?」
「この手の魔物は、人間の怨念や思念が魔物化した存在だといわれてるんだ。 その怨念の理由を解決できれば戦わずに滅ぼすことができる。 まぁ、可能性は極めて低いけどな」
「これだけの人々を殺して回っているのだから、理性が残っているか不思議なものだけれどね。 でも、相手の素性や狙いを知る事は重要よ。 成長しているわね、ファルクス」
「どうも」
ただ、問題は元々の現場である屋敷から離れた場所でも被害が出ている所だ。
普通のアストラル系の魔物であれば自分のテリトリーを守るために侵入者を迎撃していると考えられた。
しかしその行動範囲が広まり、無作為に人々を襲っているとなれば、早急な対処が求められる。
ゆっくりと解決策を練る時間は残されていないように思えた。
「なにはともあれ、人形を対処すれば被害は止まる。 倒すにしても、情報を集めるにしても、一度屋敷へ向かってみるか」
「そ、そうなるか。 うむ」
「怖いなら宿で待っていてもいいんだぞ」
挑発するような言葉に、想像通りビャクヤが噛みつく。
「馬鹿を言え! 相棒のお主を放っておけるか!」
発破をかけたところで、ビャクヤを連れて目的地へと向かう。
向かう先は街の東。討ち捨てられた、貴族の栄華が残る旧貴族街。
少なくとも俺は、これが純粋な魔物の討伐依頼だと思っていた。
この時までは。
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