34話
ヴァンクラットの行先は、すでに予想が付いていた。
岩塩抗を破棄した今、ヴァンクラットは黄昏の使徒としての目的を推し進めるはずだ。
つまり魔素の被害を広めるためにも、ダンジョンにいる可能性が高い。
そして精製所を放棄したという事は、魔素は必要な分だけの生産が終わっているという事でもある。
事態は一刻も争う状況だ。
村へは帰らずに、馬車を走らせてダンジョンへ向かい、一気に階層を駆け下りる。
魔素を取り込んだ影響か頭痛が酷いというのに、体は驚くほどに軽かった。
それはビャクヤも同じなのか、魔素を取り込んだと思われる魔物に対しても、終始圧倒していた。
そして第二階層の守護者の元へたどり着くと、薄々は気付いていた人物たちが待ち構えていた。
「そういう事だろうと思ってはいたが、まさかそんな姿になっていたなんてな。 お前自身も、想像しちゃいなかっただろうが」
無駄だと分かっている。
だが話しかけずにはいられなかった。
元シルバー級冒険者。今となっては、使徒の傀儡。
ハーケインのメンバー達が、虚ろな目つきで奥への道を守っていた。
当然のことだが、俺の呼びかけに答える素振りは見られない。
「完全な傀儡となり下がったか、バルロ。 はっきりとは覚えていないが、我輩が異端視されている中でも、お主は迷いなく突っかかってきたな」
一歩前へ歩み出たビャクヤは、バルロに薙刀の切っ先を向ける。
その言葉には少しばかりの憐みが含まれているように感じた。
「そういう気性なのかもしれぬな。 気に食わぬもの、納得のできぬものへ、怒りをぶつける。 嫌いではなかったぞ、お主のその分かりやすい粗暴な性格は」
それは死者への弔いの言葉だろうか。
バルロ達がおもむろに武器を構えたことで、ビャクヤも薙刀を構えなおす。
そして俺も二本の剣を引き抜き、転移魔法を起動させる。
標的はすでに決まっている。後は、ビャクヤに合わせるだけだ。
「いざ、参る!」
「空間転移!」
凄まじい速度で大地を蹴ったビャクヤが姿を消す。
そして瞬きよりも短い間に、バルロ達の背後に白い影が現れる。
完全に意表を突いた攻撃だ。
通常の人間であれば防御することはほぼ不可能。
だがしかし、相手は普通の人間ではない。
最後尾にいた魔導士が、ビャクヤの出現と同時に反応した。
そしてビャクヤが突き出した薙刀をその腹部で受け止めた。
鮮血があふれ出し、背部まで薙刀は貫通している。
だというのに、魔導士は薙刀を掴んだまま離さなかった。
「反応速度は我輩と互角、か。 なるほど、面白いではないか。 だが――」
しかし、そんな捨て身の攻撃も意味はない。
魔導士を転移させ、別の場所へと放り出す。
その隙にビャクヤは狙いを定めていた。
「『一閃』!」
ビャクヤの一撃が戦士を盾ごと貫き、そのまま薙ぎ払う。
それと同時に剣を振り下ろしてきた剣士とバルロの攻撃を、紙一重で躱した。
普通の速度ではない。スキルによる回避だ。
「『残影』」
一呼吸を置いて、剣士の体が引き裂かれた。
剣も粉々に砕け散り、甲高い金属音と共に大地に散らばる。
ただバルロは攻撃が外れてもお構いなしに、巨大なハンマーを振り回していた。
周囲を破壊しながらビャクヤに迫るバルロの攻撃は、以前に見た一撃と比べれば遥かに劣っていた。
精神を破壊して、魔素が体を満たす。
確かに命令を聞く便利な兵隊となるだろう。
しかし、元々の戦闘技術や知識を失ってしまえば、その能力は激しく低下する。
元シルバー級冒険者へのせめてもの礼儀として、すぐにでも終わらせるべきだろう。
「共鳴転移!」
真横に投げた二本の剣が、寸分たがわずバルロの胴体を貫いた。
体の中に異物が刺さった状態で、動き回ることはできない。
急に鈍くなったバルロの動きに合わせるよう、ビャクヤがゆっくりと構える。
思えば、ビャクヤはバルロを覚えていなかった。
それはつまり、バルロを嫌ってもいなかったという事だ。
彼女がバルロにどんな感情を抱いているかはわからない。
だが少しの間、祈るように目を閉じて、言った。
「これで、仕舞いだ」
僅かに憐憫を覚えるほどに無反応なバルロ。
彼は最後に見た事だろう。
白い鬼が放つ、華麗な一撃の軌跡を。
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