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最弱無双の転移魔導師 ~勇者パーティの荷物持ち、パーティを追放されたが覚醒し、最弱魔法で無双~  作者: 夕影草 一葉
二章 有明と黄昏

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29話

「金目の物はすべて渡したはずだ! これ以上、私から何を奪うというんだ!? 頼む、命だけは助けてくれ!」


 坑道に良く響く声が近づき、ゆっくりと物陰から声の方へと覗き込む。

 するとそこには、やはりというべきか、見知った顔がいた。


「ヴァンクラット、本当にいたとはな」


 モノクルはひび割れて、衣服も汚れている酷い有様だが、間違いなくヴァンクラットだった。

 無表情の盗賊団員に懇願する姿は、まさしく絶体絶命と言ったところか。

 ただ幸いにも周囲には三人程度しか団員はいないため、救出は難しくはない。


「なるほど。 積荷ごと、あ奴も捕まっていたという訳か」


 ビャクヤが指さす方向には、たしかに。

 以前見たヴァンクラット商会の馬車が並んでいた。

 やけに盗賊団員の持っている武器の品質が良かったのも、あの商品を使ったからだろう。

 しかし相手は感情を持たない、人形も当然の敵だ。

 いくら良い武器を揃えたところで脅威ではない。


「相手は三人だ。 やれるか?」


「当然であろう」


 自信気に頷くビャクヤの手を引き、魔力を体に走らせる。

 座標は、ヴァンクラットを囲む三人組の真後ろだ。


「空間転移!」


 その瞬間、視界が一転。

 目の前には、不気味なフードを被った男が三人並んでいる。

 その向こうでは唐突に現れた俺達を、驚いた表情で眺めているヴァンクラットがいた。

 微かな物音で振り返った男たちだったが、すでに対処できるタイミングではない。

 

「『豪撃』!」


 ビャクヤの渾身の一撃が、三人の頭部をまとめて薙ぎ払った。


 ◆


 ビャクヤの一撃は、ワイバーンの鱗を叩き割る。

 それを頭部に受けた三人がどうなったかなど、考えるまでもなかった。

 壁際で沈黙した団員をしり目に、足を縛られていたヴァンクラットを解放する。


「大丈夫か、ヴァンクラット」


「あ、あぁ! 助かりました、ファルクス様、ビャクヤ様! おふたりは命の恩人です!」


 まるでキスでもしそうな勢いで俺達に迫るヴァンクラット。

 それほどに逼迫した状態だったのはわかるが、聞きたいことは別にあった。


「世辞は良い。 なぜお主がこの場所にいる?」


「面目ないのですが、お二人から買い取ったワイバーンの素材を運搬していたら、ここの盗賊団に襲われまして。 もちろん安全を確保するために冒険者を雇っていたのですが、瞬く間にやられる始末で……。」


「それで積荷ごと、お前もこの場所に連れてこられたってわけか」


「そうなんです! おふたりとも、私の商品を見ていませんか!?」


 周囲を窺いながらヴァンクラットはそんなことを言った。

 わが身が助かった次の瞬間には商品の心配を始める。

 それは商人としては正しい判断なのだろうが、危うさも感じた。

 とはいえ彼には多少の恩もあり、強くは当たれない。 


「向こうにあったが、回収は後にしてくれ。 今は命が最優先だ。 今は隠れていてくれ」


 念を押すように言うと、ヴァンクラットは不承不承といった様子で頷いた。

 商人である彼が自衛手段を持っているとは思えない。

 相手があの盗賊団ひとりだったとしても、身を守るのは困難だろう。

 激戦が予想されるため、先へ連れていく事はできなかった。

 再び先へ進もうとしたとき、ビャクヤは未だにヴァンクラットの方を見ていた。


「ひとつ、良いか?」


 ビャクヤが静かに問いかける。


「はい、なんでしょうか」


「お主は誰と喋っていたのだ? あの連中は言葉を話さぬ。 お主も分かっていただろう」


 それは、ビャクヤの言う通りだった。

 どれだけの攻撃を受けたとしても、あの盗賊達は悲鳴すら上げない。

 それだというのに、ヴァンクラットとは会話をしたのだろうか。

 ヴァンクラットへ視線を向けると、彼は怒りを剥き出しにして、言った。


「そんなことわかりませんよ! 急に剣を突きつけられれば、誰だってああなるでしょう!?」


 ◆


 道なりに進むと、巨大な鉄製の扉が姿を現した。

 狭くはない道を完全に塞ぐ形で設置されており、何重にもカギがかけられている。

 この先に進んで欲しくないという意志がありありと分かる。

 これほど分かりやすい物もそうそうないだろう。

 

「いかにも、って扉だな。 逆に頑丈過ぎて目立つぐらいだ」


「使徒は間違いなくこの先であろうな。 壊すにも時間がかかりそうだが……。」


「任せろ」


 以前見かけたことがあるが、街などで使われる魔物の襲撃を防ぐ目的で作られた扉だろう。

 その用途を考えるに普通に壊していては時間がかかりすぎる。

 俺達の襲撃が使徒にバレているかは不明だが、時間を与えすぎて迎撃の準備を整えられても厄介だ。 

 時間を掛けないためにも、扉を施錠している錠前を別の場所へと転移させて、そのまま開け放つ。

 数秒で開いた扉をみて、ビャクヤは肩を竦めた。


「我輩が言うのもなんだが、どちらが盗賊なのやら」

 

「分かってる。 コソ泥の真似が上手くなったのを褒められても、いい気はしないしな」


 軽口を叩いてはいるが、目的地はすぐそこだ。

 気を取り直して、警戒しながら先へ向かう。

 初めてとなる使徒との対面に、心なしか鼓動が早まる。


 ここまで来たのだから、本気での殺し合いに発展するだろう。

 そうなったとき俺は動けるのか。そんな不安がよぎる

 操られた盗賊団ではなく意識を持った人間を斬れるのか。

 だが使徒を殺さなければ多くの人々が犠牲になる。

 だがらと言って人殺しが正当化されるのか。

 不安と疑念を抱えたまま、岩塩抗を進むのだった。

 

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