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最弱無双の転移魔導師 ~勇者パーティの荷物持ち、パーティを追放されたが覚醒し、最弱魔法で無双~  作者: 夕影草 一葉
一章 純白の鬼

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18話 剣聖視点

「くそ! くそくそくそ、くそがぁぁあああ!」


 雄叫びを上げながら、ナイトハルトがテーブルを蹴り上げ、イスをなぎ倒す。

 ナイトハルトは仮にも勇者のジョブを持っている男だ。

 怒りを向けられた家具は一撃で粉々になり、床に散乱する。

 とてもではないが勇者の所業とは思えず、小さなため息が意識の外から口を突いて出た。

 まるで子供の癇癪だ。

 しかしエレノスは努めて冷静に、ナイトハルトの背中に声を掛けた。


「落ち着きなよ、ナイトハルト。 それ以上暴れたら、修理費の請求どころか出禁になる。 僕達の評価も落ちることだろう」


「落ち着けだ? おい、エレノス。 賢者を名乗っておきながら、あんなザコに苦戦するとはどういう了見だ?」


「なるほど、八つ当たりかい? それはいいね、すごく建設的だ。 それで、僕が謝罪をして地面に頭を付ければ、今回の失敗が無かったことになるのかな。 是非とも教えて欲しい」


 エレノスの強烈な返しに、ナイトハルトの顔が歪む。

 だが効果は抜群で、ナイトハルトを黙らせることに成功した。

 この状況が続けば、失敗は必ず繰り返されるだろう。

 怒りをまき散らすのは簡単だが、根本的な原因を見つけなければならない。


「エレノスの言う通り、ここで争っても解決はしないでしょ。 今はなぜ失敗したのかを考えるべきよ」


「アーシェ様の言う通りでしょう。 争いは何も生みません」


「は! 魔王を殺す戦争に加担してる聖女が良く言うぜ」


「ナイトハルト!」


 再び怒鳴りつけてナイトハルトを黙らせる。

 なぜナイトハルトの様な男が勇者なのか。よほどファルクスの方が勇者に相応しいと私は常々思っていた。たとえジョブに選ばれていなくとも、ファルクスの志は間違いなく勇者のそれだった。

 ナイトハルトとは比べ物にならない。だがそんな意見を言った所で問題はこじれるだけだ。

 ただ一人冷静さを保っていたエレノスが、声を上げる。


「僕から意見をいいかな」


 その場の空気を断ち切る様に、エレノスが椅子から立ち上がる。


「みんな気付いていると思うけれど、この失敗は偶然ではない。 以前からこのパーティは不調が続いていた。 この失敗は必然だと、僕は思う」


「そんな訳ねぇだろ! 中層までは楽勝だっただろうが! それが不調だと? 今回はお前らが鈍間だったから牛頭を殺し損ねたんだろ!?」


「そこよ、ナイトハルト。 中層までは、簡単だった。 それは全面的に認めるわ。 以前と変わらずこのパーティには最高のジョブがそろってる。 低級の魔物になんか遅れは取らない」


 私達はこのダンジョンの攻略以外にもいくつか依頼をギルドから請け負っていた。

 思えばゴールド級冒険者パーティにかかれば達成は確実な物ばかりだったと思う。

 しかし依頼の結果は芳しくなかった。

 勝てて当然、とは言えないものの、確実に負けるような相手でもなかった。

 それだというのに、ここの所失敗が続いていたのだ。

 それも決まって、今回の様な状況で。


「でも互角の相手と戦う時には、決まって連携を崩される。 それも、これまで簡単に倒していた相手に苦戦するようになった」


「わたくしも、害ある魔物……毒や麻痺を扱う魔物への対処が遅れているように感じられました」


「僕も完全に同意だ。 今回の様に状態異常を扱う相手がいると、必ず僕達は対処が遅れる。 そのせいで相手に追い詰められて、苦戦を強いられている。 苦戦が続けば魔力や物資がなくなり、それ以上戦えなくなる。 そして失敗につながる」


 次々と頷くエレノスとティエレ。

 しかしナイトハルトは取り乱したように、叫んだ。


「黙って聞いてりゃ、それはお前たちが原因だろ! 対処が遅れるのも、苦戦が続くのもよ! 俺は前と全く同じ戦い方をしてんだよ! お前らの腕が鈍ったんじゃねえのか!?」


「いいえ違うわ、ナイトハルト。 私達は五人で一つのパーティだったのよ。 今は四人になって、連携が歪んでしまったけれど」


 私の言葉を聞いて、ナイトハルトは一瞬だけ動きを止めた。

 そして徐々に言葉の意味を理解したのか、その顔に形容し難い笑みを浮かべた。

 それはファルクスを追い出した時と、まったく同じ物だった。

 

「は、ははは! お前、まさかアイツのことを仲間だと思ってたのか? ふざけんなよ、荷物持ちがいなくなったところでなにが変わるってんだよ。 俺達は勇者のパーティだぞ?」


「じゃあ教えて、ナイトハルト。 いいえ、勇者様。 あの時の私達と、いまの私達。 なにが変わってしまったの?」


 常勝無敗の勇者の一行。それが私達だった。

 魔王の復活によって集められた、大衆の希望を背負うべくして生まれたパーティ。

 歴代でも最高と呼ばれるジョブが揃い、向かう所に敵なし。たった一年でゴールド級にまで上り詰めた。

 そのパーティがこうもあっけなく崩れてしまった理由。その原因。

 すでに分かり切っている答えを求めたところで、ナイトハルトは答える事すらしなかった。


「知らねぇよ、そんなことはよ! お前たちが問題なんだから、お前らで解決しろ!」


 顔を背けて、ナイトハルトは自分の部屋へと戻っていった。

 残されたのは破壊された家具と、疲れ切った顔をした仲間達だった。

 エレノスは過去を悔いるように、つぶやく。


「彼を……ファルクスを追い出してしまったことは、間違いだったみたいだ」


「賢者も時には間違うのね」


「知っているかい? アーシェ。 真に賢い者は失敗を素直に認めて、次に生かすのさ」


 冗談交じりに返すエレノスだったが、今は笑えなかった。

 私達の冒険は常に命懸けだ。今回は上手く逃げ帰れたけれど、次も上手くいくとは限らない。 


「その次があれば、いいのだけれど」


 早くこの状況を立て直さなければ、全滅することは目に見えていた。

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