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最弱無双の転移魔導師 ~勇者パーティの荷物持ち、パーティを追放されたが覚醒し、最弱魔法で無双~  作者: 夕影草 一葉
一章 純白の鬼

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17話 剣聖視点

 中型ダンジョン、『エルカトラ』第五階層。

 

 地を這う大型のトカゲ――トキシック・リザードは、まるで獲物を弄ぶように周囲を駆け回っていた。 

 その外皮は体内から分泌された猛毒性の粘液で包まれており、接触、接近するだけで他の生物は簡単に毒に犯されてしまう。近接攻撃の距離ならば確実に、それでなくとも粘液を飛ばしてくるため後衛であっても油断はならない。

 

 とはいえ相手は即死級の技を使ってくるわけでも、特別な防御方法を持っているわけでもない。

 攻撃を当てれば殺せるし、毒になってもパーティメンバーの聖女、ティエレの状態異常回復魔法『キュア』があれば毒への対処も完璧だ。

 トキシック・リザードもせいぜいアイアン級程度の冒険者が相手をする魔物だ。ゴールド級の冒険者、それも歴代最強と謳われた勇者のパーティが後れを取るはずがない。


 だというのに、なぜ。

 

 なぜ私達は、こんなにも追い詰められているの?



「ナイトハルト! 早くミノタウロスを処理してくれ!」


「わかってんだよ! だが、くそ! そっちこそ早くトカゲをどうにかしろ!」


 エレノスがナイトハルトに檄を飛ばすが、それでも状況は変わらない。 

 前方にはミノタウロスがナイトハルトと対峙していた。

 言わずと知れた強力な物理攻撃が特徴の大型の魔物だ。

 だがこれも難敵ではあるが、強敵ではない。

 いつもならばすぐに私とナイトハルトが斬りかかって、それで終わりだ。

 だというのに、ナイトハルトは長時間の戦いを続けており、援護をする後衛の二人も魔力が少なくなっている。

 私達の連携は完全に突き崩されていた。


「エレノス、早くトキシック・リザードを!」


「分かってるよ、アーシェ! でもこの数だと僕の攻撃魔法でも対処しきれない!」


「わ、わたしくのキュアも間に合いません! このままでは、魔力が尽きます! 一度撤退を!」


「ふざけんなよ! こんなくそみたいなダンジョンの途中で、のこのこ帰れるかよ!」


 私は剣聖であって、防御寄りのスキルや魔法は覚えていない。そのため後ろの二人を守る術を持っていない。

 それでも中衛を買って出ているのは、後衛のふたりが襲われないよう、ナイトハルトが討ち漏らした敵を処理するため。

 そしてナイトハルトが頑なに最前衛に出るといって聞かないからだ。勇者の意地か、独りよがりな英雄志望か。分かるのは明らかに格下相手に苦戦を強いられているという事実のみだ。


 ナイトハルトの言う通り、このダンジョンの難易度はさほど高くはない。

 精鋭が揃っているゴールド級の冒険者、それも勇者一行が手間取るような規模でもない。

 以前にミノタウロスとトキシック・リザードを相手にした時は、ここまで苦戦を強いられなかった。


 その時となにが違うというのか。

 それはわかりきっていた。

 荷物持ちだと仲間から言われ続けていた、彼が足りない。


 私達が追放してしまった、ファルクスが。




「あぁあああっ! うざってぇ! 『ライトニング・スラッシュ』!」


 トキシック・リザードの群れをかき分けて、ナイトハルトが無理にもミノタウロスへ肉薄する。

 そして余裕のないはずの魔力を消費して、大技を繰り出した。

 雷光を纏った剣が周囲を薙ぎ払い、ミノタウロスを打ち付ける。

 しかし、届かない。

 ミノタウロスは巨大な斧でナイトハルトの一撃を防いでいた。

 無傷とはいかないが、仕留め切れていない。

 毒を受けてナイトハルトの動きが鈍っているのだ。


「この、デカブツがッ!?」


 そしてその弊害は、回避にも表れた。

 振りぬかれたミノタウロスの斧が、ナイトハルトを捉える。

 強烈に壁へ打ち付けられたナイトハルトは、すぐには立ち上がる素振りを見せない。

 衝撃で軽く意識が飛んでいるのだ。

 いくら攻守に優れる勇者と言えど、無防備すぎる。

 

 再びミノタウロスが斧を振り上げた瞬間。

 私はナイトハルトの体をはるか後方へと投げ飛ばしていた。

 そして、回避。

 数センチ先を巨大な斧が打ち据えて、地面を打ち砕く。

 私に怪我はない。だが戦う余裕もなかった。


「一端引きましょう! エレノス、退路を開いて! ティエレはナイトハルトの治療を! ここの相手は、私が食い止めます!」


 即座に撤退を選び、目の前のミノタウロスとトキシック・リザードに意識を向ける。

 もはや意地を張っていられる領域を超えていた。

 勇者一行がこの程度のダンジョンに躓くわけにかない。

 そんなプライドに構っていれば、待ち構えるのは全滅しかない。

 

 まるで重要なピースを失ったパズルのようだ。

 大きな部分は完成している。個々の能力に間違いはない。

 それでも全力を発揮できていない。

 いや、これが今の私達の全力なのか。




 後日、勇者一行がダンジョンの攻略に失敗したという噂は、たちまち街中に広がった。

 


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