1話
こういった作風は初めてなので、お手柔らかにお願いしますm(__)m
「ファルクス、お前は今日限りでクビだ」
その言葉は、いつかは来るだろうと思っていた物だった。
「そうか。 そう、だろうな」
自分でも驚くほどに冷静な返事が口を突く。
ただ心の中は穏やかではない。
荒れ狂う感情が、口を少なくさせただけだ。
反論も、言い訳も、湧いて出てくる。
だがそれを言ったところで、どうなるというのか。
このパーティで俺が不必要というのは、変わらない事実なのだから。
◆
俺と幼馴染のアーシェは、辺境の貧しい農村で育った。
魔物も頻繁に出没するため冒険者を雇うが、裕福ではない村に支払える報酬は限られている。
安値で雇える駆け出しの冒険者では辺境の魔物を相手に出来ず、かといって少ない報酬では高ランクの冒険者は雇えない。窮地に立たされていた村だったが、そこに一人の男が現れた。
男は単身で様々な依頼をこなしていった。
男は決して能力が優れているわけではなかった。
依頼の成功も失敗も同じ数だけ繰り返していたと思う。
だが諦めず、少ない報酬で最後まで村を助けてくれていた。
最後には強力な魔物と相打ち、壮絶な戦いの末に息を引き取った。
その男に憧れて、俺とアーシェは冒険者を志したのだ。
例え見返りが少なくとも、人々の役に立てるのであれば身を犠牲にしてでも戦う。
そんな冒険者に。
だが、三年前。
俺とアーシェに致命的な差異が生じた。
職業、という物がある。
誰しもが十三歳になると、選定の儀を受け、神々からジョブを授かることができる。
剣の才能を持つ者は剣士に。魔法の才能がある物は魔術師に。
神はその人間に最も適性があるジョブを選び、与える。
つまり自分がどういった才能に優れているのか、神が教えてくれるのだ。
自身の才能を目覚めさせ、新しい力を次々と与えてくれるジョブは、もはや世界になくてはならない物となっている。
だがそれ故に弊害も生まれる。
いくら否定しようとも、選ばれたジョブは覆らないということだ。
アーシェは剣士の最高位である剣聖のジョブを授かった。
そして俺。
俺は、最弱と呼ばれる転移魔導士のジョブを授かった。
それでもアーシェは俺と共に冒険者として、戦いを続けた。
互いの間にある実力差を知りながらも、見て見ぬふりをして共に戦ってきた。
だが一年前、魔王と呼ばれる存在が復活した。
そのため勇者、賢者、聖女、そして剣聖であるアーシェは集まり、魔王の討伐を国王より命じられた。
俺はそのパーティの荷物持ちとして陰ながら支えてきたつもりだった。
だが、その役目もついに終わる時がきたようだった。
「ちょ、ちょっと待ってよ! ナイトハルト、それって本気で言ってるの!?」
突然の追放宣告に、アーシェが勇者のナイトハルトに食って掛かる。
だがナイトハルトは当たり前だと言わんばかりに、薄ら笑いを浮かべていた。
「あぁ、当然だろ? こいつみたいなお荷物にはこのパーティを抜けてもうのが一番だ。 俺は前々からそう思ってたんだけどな」
「そんな言い方ってないでしょ! 今までも仲間として頑張ってきたじゃない!」
「仲間として、だ? じゃあ聞くがよ、こいつがパーティに貢献したことがあったか? 今日のダンジョンで、こいつが一度でも魔物を仕留める所を見た奴がいたか? やってることといえば、道具を俺達に渡すか、使うか、魔物に投げつけるだけじゃねえか」
アーシェは、反論しようとして黙り込む。
ナイトハルトの言葉は、まったくの事実だからだ。
仕方なく同席していた賢者エレノスと、聖女ティエレに視線を向ける。
「エレノス、ティエレ。 ふたりも、ナイトハルトと同じ意見なのか?」
「僕は、ナイトハルトの言うことも分かるよ。 僕達は魔王討伐という目的の為に戦ってるんだ。 魔王は一筋縄ではないかない相手で、きっとギリギリの戦いになる。 君には悪いけど、少しでも腕の立つ仲間を集める必要があると考えてる」
「わたくしも、兼ねてより懸念しておりました。 ファルクス様のレベルでは、もはや戦いにはついてこれないのではないかと。 多少の傷であれば聖女であるわたくしのスキルで治癒することもできますが、これからの相手は強敵ぞろい。 低いレベルでは即死の危険性もあります」
「俺も弱い奴を守りながら戦うなんてまっぴらごめんだね。 それにだ。 お前が攻撃魔法の一つでも覚えてりゃ考えてやっても良かったが、よりによって転移魔導士だ。 あの、『最弱』のな」
このパーティが結成された当時から、ナイトハルトは俺に対して敵対心を持っていたように思う。
だが、これまでは仲間の様に振る舞っていたエレノスとティエレでさえこの反応なのだ。いわば俺は本当にお荷物扱いされているという事になる。ただ、それも無理はない。
テーブルを見渡しても、
『勇者』ナイトハルト。
『剣聖』アーシェ。
『賢者』エレノス。
『聖女』ティエレ。
と、歴代の勇者パーティとは比べ物にならないほど強力なジョブが、このパーティにはそろっているのだから。
それに比べて、俺のジョブは最弱と呼ばれる転移魔導士。
他の四人と見劣りするどころか、他のパーティですら見向きもしないジョブだ。
アーシェも必死にフォローしようとしてくれているが、言葉が見つからずにいた。
「君たちが幼馴染であることは知ってるし、互いに支え合って戦ってきたのも、十分に承知してる。 でも、これからの戦いは激しさを増すだろう。 そんな中でレベルの低い、自衛手段も持たない仲間を連れて歩くことが、どれだけパーティに危険を招くか。 言わなくても、十分に分かってもらえると思う」
「無辜の民を苦しめる魔王を滅ぼすためです。 この瞬間にも人々は恐れ怯え、魔王は手下を使い悪逆非道を尽くしています。 その蛮行を止められるのは、わたくし達だけなのです、アーシェ様。 その本懐を忘れる事だけはなきようにお願いします」
繰り返すが、俺とアーシェは同じ村で育った。
そして、あの冒険者を憧れとして共に冒険者を目指したのだ。
人々が襲われている。そしてそれを助けることができるのは自分達だけ。
そう聞かされたアーシェが、どう答えるかは想像に難くなかった。
彼女は俺の方を向かずに、言った。
「……わかったわ。 ファルクス、ごめん」
「いや、いいんだ。 アーシェ」
最後の最後で、アーシェが俺を選んでくれるのではないかと、期待した部分もある。
だが彼女の言葉を聞いて、なにも変わっていないのだと安心している自分もいた。
テーブルの向かいに座っていたナイトハルトは、俺が捨てられたことがさぞうれしかったのか。両手を叩いて、奇声を上げる。
「はっ! なら話が早えや。 ならさっさと出ていきな!」
言われるがままに酒場から追い出された俺は、ふと振り返る。
扉の向こうから、アーシェが追いかけてくるのではないかと、一抹の期待を抱いたのだ。
だが数秒の時間を費やして、その考えを振りほどく。
「はは、なに馬鹿な事を考えていたんだろうな」
ぽつりと鼻先で水が弾ける。
見上げてみれば、生憎な雨模様だった。
どこまでも付いてない。
頭の中を整理するために、街の郊外へと足を向けるのだった。