紳士ローパー
吾輩はローパーである。ローパー界一の紳士であると自負している。
吾輩の同胞達は今日も今日とて体液でヌラヌラさせている触手をウネウネと動かし獲物を待ち構えている。
そして、大抵は焼き払われて散っていく。儚くも短いローパー生に幕を閉じた。
しかしながら、ローパーは決して弱い種族ではない。吾輩の同胞達は紳士でこそないが、魔物なのである。
「はなせ!はなせええ!!」
絹を裂くような悲鳴を上げた長耳の少女が同胞のウネウネと蠢く太い触手の餌食になろうとしている。
ヌラヌラの体液は麻痺毒であり、触れているだけで体の自由を奪っていく。
そしてローパーは種の繁栄に対して他種の胎を必要とする。言わば苗床にするのだ。
吾輩はもう見ていられないと視線を外す。
吾輩は紳士であるが、同時にローパーでもあるのだ。同胞の獲物を奪うようなことをしてしまえば吾輩はローパー界で生きていくことは出来ない。
彼女には悪いが、ローパーの未来のために犠牲になってくれ。
南無三。
しかしながら、同胞でなければ吾輩とて容赦しない。
吾輩はローパーとしては異端なのでよく散歩をしている。幸いにも、吾輩は特異な個体らしく同胞達に比べて体も大きく、触手の数も多い。つまり立派なのだ。
そんな吾輩の散歩ルートで、哀れ今にも慰み者になろうとしている人間たちがいるではないか。
「ふぎいいいいいい!!」
「いやああああああ!!」
紳士界の敵、強姦魔であるオークである。可愛らしい豚の頭を持っているがかつて精霊戦士として悪神たちの尖兵として戦った誇り高さや屈強さはなく、戦意を全て性欲に極振りしてしまっただらしない体をした豚野郎である。
吾輩はオークを見ると殺意が湧いてくるのである。なぜなら吾輩は紳士であるからして。
「シャアあああああ!!」
吾輩の喉(発声器官はどこにあるかわからない)から出た叫び声と共に空気を切り裂きながら伸ばされた触手がオークの頭を叩き潰す。
オークなど物の数にも入らぬ吾輩の無双っぷりに女性たちはきっと目を輝かせてるに違いないと思って振り返れば。
「ろ、ローパーの特異種……?!」
「こんな強いローパー……私たちもうダメよ……」
この世の終わりと言わんばかりの絶望感に包まれていた。
そう、吾輩は所詮ローパーなのである。いくら女性のピンチに駆けつけようとも種族の壁は超えられぬのだ。
吾輩はまた悲しみを一つ味わい、股の間に黄金の湖を作った女性達を視界に入れないようその場を立ち去る。
吾輩は紳士である故、黙して語らずその背で語るのである。
「助かった……?」
巣に帰れば同胞達がウネウネと蠢いている。
彼らはローパーとして頑張っている。吾輩が何度失敗を積み重ねても彼らは何も言わない。彼らは紳士ではないが、大切な仲間なのである。
(あいつ、まだ童貞なのかな?)
知らぬが仏なのである。




