5話
「ただいま〜」
「お邪魔します……」
はぁ、なんで俺がこんなことをしないといけないのか……
「あれ?お母さんが帰ってる。いつもならもっと遅いのに……」
「なぁ、俺、帰っていいか?」
「ダメ」
妙に力のこもった声で返された。親がいる家に入るとかもう完全に終わっただろ。
「お母さ〜ん?どこ〜?」
おい、なんで呼んだ。なんでわざわざ面倒になるようなことをした?
はぁ、もういいよ。こうなったらとことん付きやってやる。
「つ、付き合う!?」
どうやら声に出てしまっていたらしい。俺は訂正しようとして第3者の声によって遮られた。
「あらあら、今日はお赤飯かしら?」
「お、お母さん!?」
彼女は恥ずかしさからなのか奥の方にかけて行った。
この人が彼女のお母さんなのか……うん、やっぱり彼女の美しさは親譲りだったようだ。
っと、今はそれどころじゃなかった。早いところ訂正しないと取り返しがつかなくなりそうだ。
「それで、あなたがあの子の彼氏さん?」
「違いますよ。彼女の勘違いです。それに俺なんかが彼女に釣り合うわけないじゃないですか」
「……そうかしら?むしろあなた以外はあの子に釣り合わない気がするのだけれど?」
んなわけあるかい!おっといけない。思わず口に出してしまうところだった。
「まあいいわ。いつまでも玄関に立ってないで上がってちょうだい。今ご飯ができたところなの。食べていくでしょう?」
「いえ、いただくわけには……」
そこでぐぅーー、と俺の腹が鳴る。仕方ないだろ!?昼飯は時間が無くてほとんど食べてないし。こんなにいい匂いを嗅いだらそりゃ腹もなる。
「ふふ、身体は正直よ。ほら、上がっていきなさい」
「……はい。あ、後冷蔵庫借りてもいいですか?弁当の残りを入れておきたいんですけど……」
かなり失礼だが腐らせるよりかはいいと思う。
お母さんがいいわよと言ってくれたので入れさせてもらった。
「すげえ……」
「お、お母さん!?な、なんでこんなに!?」
「今日はお祝いの予感がしたから、早めに帰って準備してたのよ」
予感って……
今、テーブルの上には小さなパーティーを開けるほど美味しそうな料理が乗っている。どれも湯気が立ち上り、とても美味しそうだ。
「これ、本当にいいんですか?」
「ええ、たーんと召し上がれ」
「「い、いただきます!!」」
俺たちはすぐに椅子に座って料理をかきこんだ。
なんだこれめちゃくちゃ美味いぞ!?俺の作ったやつよりも数百倍は美味い!
俺たちは次から次へと料理を平らげていった。
「「ごちそうさまでした」」
「ええ、お粗末様でした」
はぁ……こんなに食べたのはいつぶりだろうか?俺はふと時計を見る。時刻はもう8時を過ぎていた。
「ヤバっ!もうこんな時間かよ!すみません、俺帰ります!」
「あら、そうなの?てっきり泊まっていくものかと思っていたのだけど……?」
何言ってんだよ……流石にこれ以上は無理だ。これ以上俺のライフを削らないでくれ。
「いえ、そういうわけにはいかないので帰ります。お邪魔しました」
俺は逃げるようにして帰った。
葉村(主人公)が帰った後の王野家の様子。
「で、あなた的に彼はどうなのよ」
「ど、どうってそれは………いいなぁ、とは思ってます……//」
「脈はあるのね。わかったわ」
「お母さん?」
「(あの子は絶対に確保するわ……)」
本人のいないところで面倒ごとが増えていた。