3話
あれから校内の色んな場所を探し回った。そして、屋上に出る扉の前で見つけた。
「おい、大丈夫か?」
「ひゃっ!にゃ、にゃんでここが!?」
彼女は真っ赤になっている顔をこちらに向けて尋ねる。あと噛みながら……
「行きそうな場所を全部回っただけだ。んで、ここにいた」
「ふぇ?わ、私を探すために全部回ったの?」
「ん?ああ、そうだけど?」
なんで聞き返したんだ?ちゃんと聞こえてたはずなのに……まあ、いいや。俺は彼女に弁当を渡す。
「はい、これ。置いてっただろ?」
「あ、ありがと……でも、あなたの分は?」
言われてから気づいた。やべ、机に置きっ放しだ。でも取りに帰って、食べるような時間はもうない。今日は昼飯抜きだな……
「その、よかったら食べる?」
「いや、いいよ。人のものを取ってまで食べるようなものじゃないからな」
「作ってくれた親御さんに失礼だよ」
「大丈夫だ。作ったのは俺だからな」
高校に入ってから弁当を作るのは俺の仕事になった。なんでも今から料理を作れるようになっときなさい。だ、そうだ。作るのが面倒になっただけだろうに……
「そ、そうなんだ……」
「そうだ。それはそうと早く食えよ、もうあんまし時間ないぞ?」
「う、嘘っ!?い、いただきます!」
彼女の口はパンパンに膨れ上がった。そんなことしたら喉が詰まるぞ……あぁ、言わんこっちゃない。
「そんなに詰め込むからだ。ほら、階段を降りたら冷水機があるから。飲んでこい。少しは楽になる」
彼女はこくこくと頷き、下に降りて行った。はぁ、今更だけどなんで俺がこんなことしてるんだ?本当なら今頃は教室で寝ているはずなのに……
そんなことを考えているとポケットに入っていたスマホが震える。どうやら電話のようだ。誰だよ……
「って、結奈じゃねぇか。はい、もしもしなんだ?」
『あんた今どこにいるのよ』
「屋上の前だけど?」
『あんた弁当置いて行ったでしょ?捨てられそうになってたわよ?』
「はぁ?」
なんで、んなこと……って十中八九嫉妬によるものだろう。全く、被害に遭っているのはこっちだと言うのに……
「まあいい、それで?どこに捨てられたんだ?あとで回収してくる」
『言ったでしょ、捨てられそうになったって。そうなる前に回収してあげたわ。感謝しなさいよね』
なん、だと?あの冷酷卑劣な残念系美少女の結奈が俺の弁当を守っただと?そうだ、きっと何か裏があるに違いない。
「言え、一体何が目的なんだ?」
『はぁ?ばっかじゃないの?それとも何?捨てて欲しかったの?それだったら今すぐにでも捨ててくるわよ?』
「ごめんなさい。謝るんで捨てないでください」
どうやら俺の考えすぎだったようだ。あっ、編入生の子が帰ってきた。
「ありがとう、んじゃ」
『あっ、ちょっと待ちなsーーー』
俺は通話を切った。最後に何か言いかけてたけど無視でいいだろう。
「大丈夫だったか?」
「う、うん。ありがとう」
別に礼を言われるようなことはしてないのだが?彼女は再び弁当を食べ始める。
そう言えば何であの時何で逃げるように出て行ったんだ?
「なぁ、何であの時逃げたんだ?別に逃げるようなことをした覚えはないぞ?もしあったら謝るが」
「ごほっ、ごほっ!」
彼女は突然咳き込んだ。どうやら気管にご飯が入ったようだ。俺は優しく背中をさする。
「大丈夫か?」
「う、うん。ごめんねさっきから」
「いや、別に大丈夫だ。それで、何でさっきは逃げたんだ?まあ、言いづらかったら別に言わなくてもいいが……」
彼女の顔は見えないが、背中にある手から彼女の体温が上がっていくのはわかる。
「か、可愛いって言われたから」
「は?」
気のせいだろうか?ものすごくちっぽけな理由な気がするのは。
「だ、だから、可愛いって言ってくれたから!」
どうやら聞き間違いではないようだ。何でそれで逃げることになる……?
俺は首を傾げざるを得なかった。