プロローグ
俺は葉村聡17歳。職業、私立浅見ヶ丘高校3年生。どこにでもいるような普通の高校生だった………そう、過去形なのだ。
俺は3ヶ月ほど前の下校中。幸運にも異世界転移をしたのだ。当時の俺は異世界に行くことが夢で、割と真面目に方法を考えていた。そしてついに!念願の異世界生活が始まる!と、思っていたのだが。その夢はあっけなく砕け散ったのだ。
この、魔王のせいで。
「はい、あ〜ん♡どう?美味しい?」
「ん、ああ、うまいよ。でもさ、腕が使えたらもっと美味くなると思うんだよなぁ」
「だ〜め♡そんなことしたら逃げちゃうじゃん♡ほら、お口を開けて、はい、あ〜ん♡」
そう、俺を召喚したのは魔王だったのだ。まあ、そこに関しては別に怒っていない。ぶっちゃけ異世界に行くことが目標であってそのあとはどうでもよかったのだが、現実はあまりにも酷かった。
まず、出会い頭に魔法を放たれた。ダメージは一切なかったが自由を奪われた。そして、突然のことに驚く俺に、この魔王はキスをした。それもネットリとした大人のやつを。何分ぐらいし続けただろうか。唇の周辺がふやけるほど長かった。そして次にこいつは
「やっと会えたね♡結婚しよっ!」
と言いやがった。ハプニングの連続でロクな思考ができていなかった俺はつい「はい」と、答えてしまった。返事をした後になって、ようやく状況を理解した。だが、時すでに遅し。魔王は目にも留まらぬ速さで俺に抱きついた。
「はぁ!!よかったぁ!よかったよ〜!!はっ!こ、このままだと私の聡くんが奪われちゃうかも!ど、どうしよう!?……そ、そうだ!監禁すればいいんだよ!」
そして、俺の自由は奪われた。俺は魔法で拘束されたまま地下に閉じ込められてしまったのだ。まあ、一応小さな窓から日光が入ってくるようになっていて、ちゃんと朝昼晩の食事は出される。風呂も入れる。でも、正直言ってそんな気遣いよりもここから出して欲しいと願った。当然のように却下されたが……
それからの3ヶ月、俺は外に全く出ていない。部屋の中でボーっとしたり、魔王と話をしたりするだけの毎日。何度か脱出しようかな?と思ったが当然そんな隙は与えられない。さらに、最初の頃は気付かなかったが魔王はかなり可愛かった。正直に言えばストライクど真ん中だった。今ではもうこのままずっと彼女と一緒に暮らして行こうかな?とか思い始めている。バッチリ洗脳されたようだ。でも、それでいい。だって俺はこいつのことが好きになったのだから。
「なあ、魔王」
「ん?なぁに、聡くん♡」
「俺さ、覚悟を決めたよ……俺はお前が好きだ。ずっと一緒にいたい。俺はお前の旦那さんになりたいんだ。だから、俺と結婚してください」
俺は彼女に一世一代の告白をした。俺たちはお互いに硬直した。俺はこいつの返事を聞くために。彼女は俺の告白に応えるために。
一体どれだけの時間が経っただろうか。1分?それとも1時間?もう、時間の感覚がよくわからない。
そんな空気を破ったのは彼女だった。
「ふ、不束者ですがよ、よろしくお願いします」
俺はそれを聞いた途端足の力が抜け、地面にへたり込んだ。
「さ、聡くん!?だ、大丈夫!?」
「あ、ああ大丈夫。嬉しかっただけだから」
「うん!私も嬉しいよ!!」
「うん、じゃあここから出たいんだけど」
その言葉を聞いた魔王の目からハイライトが消えた。
「なんで?なんで聡くんはここから出たいの?ここじゃ嫌?私と暮らすのがそんなに嫌なの?ねぇ、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……」
「ち、違う!お、俺はただその……新婚旅行に行きたいだけなんだって!」
「新、婚旅行?」
魔王の目に光が戻った。こいつ、今更だけどヤンデレなんだよな。まあ、刃傷沙汰にはならないからまだマシなんだけど……
「そ、そうだ新婚旅行。夫婦になった人たちが2人っきりで旅行に行くんだよ」
「ふ、2人っきり?」
「そう、2人っきり」
魔王は2人っきりという言葉を頬に手を当てて何度も呟く。よかった。お気に召したようだ。
「わかった!いつから行くの?」
「俺はいつでもいいぞ?場所はお前に任せる」
「じゃあ今から行こう!」
そう言って魔王は俺の拘束を解き、手を差し出した。俺はもちろんその手を握る。俗に言う恋人繋ぎのような形になる。そして、床に俺がこの世界に来た時のような魔法陣が描かれる。俺たちは光に包まれて行く。
「大好きだよ聡くん」
「ああ、俺も大好きだよーーーーー」
そして俺は意識を失った。
あれから一体どのくらいの年月が経っただろうか?
俺は今、荒地となってしまった魔王城の跡地に立っている。
「なあ、何がいけなかったんだろうな。どうしてこうなっちまったんだろうな?なあ、目を開けてくれよ。また、俺に笑顔を見せてくれよ。まだまだ話したいことがいっぱいあるんだよ。なぁ目を開けてくれよ」
俺は腕の中で眠っているように穏やかな顔の魔王に問いかける。だが彼女は答えない。答えられないのだ。俺はその場で泣き崩れた。もう、冷たくなってしまった彼女の身体を抱きしめながら……
「生まれ変わってでも俺はお前のところに行く。そしてまた始めようぜ?俺たちのーーーーー」
《運命がリセットされました。これより世界の再構築を開始します》
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1作目の「あべこべ世界の学園生活」の方もよろしくお願いします。
(URLを載せる方法がわからなかったのでこう言う形にしました)