1、愛は性別を超える
作者が迷走して書いたブツです
拙い文ですが面白いと感じていただければ幸いです
「俺とやらないか?」
◇野生のゲイが交尾を迫って来た!
▷うけいれる
▷こ◯す
▷つうほうする
皆さん、こんにちは!
突然ですが、現在目の前には息を荒げながらこちらに迫ってくる黒い筋肉の塊♂がいます。
なぜこんな事になったのか、それは今から遡ること3時間前__
◇
≪3時間前≫
「愛に年齢なんて関係ありません! 宗教も国籍も身分もっ! 更には性別さえもっ! 愛の前には、どんな障害も全て等しく無力なのです! 己の胸の内に耳を澄ませて、本当の自分を……自分の愛を信じなさい」
まだ太陽が完全に昇っていないせいか、少し薄暗い春先の早朝。暇つぶしにつけたテレビのCMでは、スーツを着こなした男が熱弁を振るっていた。
「直也っ! 明美ちゃんが来たわよ! もう準備は終わったの?」
俺の名前は田原直也。今日から、地元に新しく出来た私立の高校に入学する事になった高校1年生だ。
「もう終わってるよ! 今行く!」
俺はテレビを消し、新しい学校のブレザーに袖を通す。今日から通う事になる学校は自転車ならそんなに時間はかからないが、歩くと少し時間がかかる。それでも本来なら、後30分以上は寝ていることが出来たであろう。にもかかわらず、こんなに早く起きたのには、今日が登校初日で更に入学式でもある事以外にも理由があった。通学カバンを手に取り、玄関へと向かう。
「じゃあ、行ってくるよ母さん」
「行ってらっしゃい。気をつけて行ってくるのよ! それと、たまには帰ってきなさい!」
母の言葉に、分かってる! と、返事を返しながら玄関の扉に手を掛ける。
「おはよう! 直也くん! 久しぶりだね」
そう挨拶と共に話しかけてきたのは、小さい頃によく遊んでいた所謂、幼馴染というやつだ。
俺の家族は4年前に、父の転勤がきっかけで引っ越した。そして中学時代を向こうで過ごし、いよいよ夢の高校生だ! という時に、偶々見ていたネットの記事で、
〝入学試験は面接のみ!? 受かるかどうかは面接の結果次第! 専門知識を学ぶための整った設備に、様々な学問を学べる完璧な環境! ……どうせお高いんでしょ? __いえいえ、そんな事はありません。むしろその逆! 学費は、な、な、なんと一般的な私立高校と比較してもこれほどの差があります!〟
という、明らかに怪しさ満点な記事だったが、何故か目を引いた。そのまま視線を動かし、俺は記事の下の方にデカデカと表示されているグラフを数秒眺め……決心した。
よしっ、ここを受験するか、と。
受験当日、入学試験は本当に面接のみらしく、受験生は各々が個別に面接担当の教師? と沢山の個室に別れていき面接を行なった。驚いたのは、俺の他にもかなりの数の受験生がいた事だ。受験生が待機するための待合室も複数有り、待合室にはファミレスのようなドリンクバーが鎮座しており受験生は自由に飲んでいいらしい。
受験生が座る為の椅子も何だか品を感じさせる作りなっていて、本当に金掛けてるんだなぁ、などとぼんやり考えていた。
その後、俺の順番が回って来るまで4時間程が経過していたが、俺は特に緊張する事もなく面接に臨むことが出来た。その時の面接官が相当にやつれており、何となく気怠げな雰囲気が漂っていて少しだけ不安だったのだが、俺は無事に面接を通った。
その私立高校が存在するのが、偶然にも以前暮らしていた家から近い、という事で俺と母さんは昔住んでいた家に一時的に戻ってきていた。母さんは俺が卒業するまではこの家に居るつもりらしいが、どっちみち俺は学校の寮に入るので、次にこの家に帰ってくるのは当分先の話になるだろう。
話を戻そう。そうして地元に帰って来た訳だが、懐かしさから地元の商店街を散策していた。衝撃だったのが、商店街にいたほぼ全員が俺のことを覚えていたことだ。話している流れで、この近くにある新しく出来たばかりの高校に通う事を話したのだが、話を聞いていた総菜屋のおばさんが「なおくんもあそこに通うのかい? だったら丁度いいわ。明日の入学式、ウチの明美と一緒に行けばいいじゃない」という話になり(本人の了承なく)、地元に帰ってきて数年ぶりに幼馴染と再会するという、それなんてエロゲ? 的な展開になったのだ! 入学初日から幼馴染の女子(美少女)と登校……ふっ、これは俺の学園生活は勝ち組決定だな。
「最後に会ったのが小学6年生の時だから……4年ぶり、かな?」
目の前で、はにかんでいる少女。名前は西園寺明美。今はどうか分からないが、昔から成績優秀、スポーツ万能の文武両道を地で行く才媛だったと記憶している。その上、誰に対しても分け隔てなく接するので男子だけでなく女子からも人気があった。
「おはよう。そうだな、もう4年になるのか……一瞬、本当に誰だか分からなかったぞ?」
そこで俺は、改めて明美を観察する。
昔から変わらない可愛いらしい顔立ち、紺の制服に映える黒のショートヘアーにダークグレーの瞳。およそ、全国を見渡してもこれほどの美少女はそういないだろうと思う。実際、俺も明美を超える美少女に出会った事が無いしな。成長した今ではより可愛いらしくなっている。
「もう! 私だってちゃんと成長してるんだからね! ぷんぷん、だよ! ぷんぷん!」
……どうやら、早朝という事もあってか脳がまだ完全に覚醒しきっていないらしい。明美の可愛らしい口から、ぷんぷん! なんて、あざといにも程がある言葉が出てくるはずが無いからな。
「……学校、行くか」
「うん! いこいこ。学校まで私が案内するよ♪」
やはり、明美のあのセリフは幻聴だったようだ。やけにテンションが高いとはいえ、普通の女子高生であり常識人でもあった明美があんなセリフを言うとは思えない。若干の違和感を感じた気がしないでもないが、明美と共に人通りが少ない早朝の時間帯を、ゆっくりと昔を懐かしむように歩く。
「あっ! 直也くん。この場所……覚えてる?」
立ち止まった明美がそう言って示したのは、何の変哲もない普通の公園だった。早朝のため人影はなく、公園内は静寂に包まれていた。
「……覚えてるよ。懐かしいな。小さい頃、よくこの公園で遊んだっけ」
当時はまだ小学校の、更には低学年だった事もあり、男女というものをあまり意識していなかった。その時から明美とは、よくこの公園で遊んでいた。
「そうそう! よく二人で、おままごととかしたよね!」
「……あれ? おままごと、か。悪い、思い出せない」
何かが記憶に引っかかる気がするが、恐らく気のせいだろう。明美は、俺の返答に気を悪くした様子も無く「あはは、昔のことだからね。思い出せなくても仕方ないよ」と笑っていたので、その話は特にそれ以上掘り下げることはしなかった。
「そういえば直也くん。私たちがこれから通うことになる学校のこと、ちゃんと調べた?」
学校まであと半分ほどにまで差し掛かった所で、不意に明美が意味ありげな視線で尋ねてきた。
「そこまで詳しくは調べてないよ。パンフレットを読んだくらいかな」
今日から俺たちが編入する学校__私立百合薔薇大学付属高等学校。通称、百薇高はかなり特殊な部類に入る学校だ。それに、まだ今年で創立2年と新しく、俺たちは3期生だ。
「もぉ、ダメだよ! そういうのはちゃんと調べないと、後々になって後悔するんだから」
俺の自業自得なのだが、怒られてしまった。
……っ、まただ。何かが引っかかっている感じがする。何だ、何か……そう、何か、重要なことを忘れてしまっているような……
明美を見ていると、何故か違和感がある気がするんだが……
「直也くん! 聞いてるの? はぁ、仕方ない。簡単にだけど、私が説明するよ」
違和感の正体について考えていた為、少し放心していたようだ。聞いてないとまた怒られる事は分かり切っているので、再度同じ過ちを繰り返さないように注意深く明美の言葉に耳を傾ける。
「いい? 百合薔薇の校則はとっても厳しいから、絶対に破っちゃダメだよ!」
そんなに念を押す程厳しいのだろうか、興味が湧いたので尋ねてみる。
「へぇ、どんな校則があるんだ?」
「ふっふーん。よくぞ聞いてくれました。百合薔薇の校則は全部で7つあるのだよ! 校則を破らない範囲でなら割と自由も利くみたいだよ!」
……何でコイツはまだ入学してすらない学校について、こんなにも色々と知ってるんだ?
疑問は残るものの、終始ハイテンションな明美に動揺しつつ目線で続きを促す。
「もう! ノリが悪いよ直也くん。えっと百合薔薇の校則はねぇ……
__1つ、長期休暇以外で本校の敷地外へ出ることを禁ず
__1つ、本校における生徒間での男女交際の一切を禁ず
__1つ、寮の門限を破った生徒には罰則を与える
__1つ、試験において欠点を取った生徒には補習を課す
__1つ、本校における全ての生徒は部活動に所属することを義務とする
__1つ、校則を3回以上破った生徒には生徒指導を行う
__1つ、以上の校則を意識し、本校において卒業までの時間を有意義なものとするよう心掛けること
……だったかな。ね? 厳しいでしょ?」
俺は校則の中でいくつか疑問が浮かんだ。厳しいというのは有名で人伝に聞いて知っていたが、いくつか明美に質問して確認することにしよう。
「いくつか質問したいんだが、そんな事よりも、なんで明美はそんなに詳しいんだ?」
「それはねぇ……私が何でも知っているからだよ!」
何だその、某物語シリーズに出てくる全知全能の神みたいな返答は……
「と、言うのは冗談で、本当のところは私の情報網から仕入れたんだぁ」
「情報網?」
おうむ返しのように聞き返した俺だったが、明美はフフっと意味ありげに微笑んでおり、答える気は無さそうだった。
「それにしても、直也くんがウチに入れるとは……意外だねぇ」
しみじみと感慨深そうに呟く明美。言葉の節々から、本心から意外だと思っている感じがした。
「意外とは何だ意外とは。編入試験が無いとはいえ、俺だって面接試験は受かったんだぞ?」
「そんな事言ったら、私だって面接試験を通って百合薔薇に来てますぅ! そもそも、面接試験で受かってなかったら百合薔薇に入れないしね」
未だ、頭を過る違和感の正体については分からないものの、俺たちは学校を視認できるところまで来ていた。ここからなら、目測でだいたい100m程度だと思われる。明美と懐かしい昔の話をしていたからか、随分と早く着いた気がする。
しかし、改めて見ると本当に大きい学校だよな。敷地が広すぎて、この距離では学校全体が見渡せないほどだ。
「なぁ、明美。今日って__ッ!!?」
今日の学校での日程を聞こうと思い、何気なく横を振り向いた……否、振り向いてしまった。
「……ぐふ、ぐふふふふ。はぁはぁ、ついに、ついにこの日がッ! ぐふふふ」
「…………」
振り向いた先で見たものは、ショッキング過ぎてあまりにも信じ難い光景だった。
__そこに居たのは、恍惚とした表情で奇怪な笑い声を上げる明美だった。
呆然としていた俺だったが、不意に頭に頭痛が走った。
「うっ、……そ、そうだ。そうだった……思い、出した」
俺は違和感の正体を思い出した__いや、〝思い出してしまった〟と言う方が正しいか……
フラッシュバックするように頭の中で再生されるのは、俺がまだ小さい頃の記憶だった。
場所は先程見た公園。砂場で城をクラフトしていた当時の俺の目の前には、小さい頃の明美だろう可愛らしい幼女がいた。
『ねぇねぇ、なおやくん。おままごとしよ』
『このお城作りながらでいいならいいよ』
『うん! それでいいよ』
『じゃあ、ぼくは何の役をすればいいの? おとうさん?』
『ううん! なおやくんは、おかあさんの役ね!』
『え? じゃあ、あけみちゃんがおとうさんの役をするの?』
『ちがうよ! わたしもおかあさんの役をするの!』
『えぇ? おかあさんが二人なんておかしいよ』
『は? おかしい? なにが?』
『い、いや、だから……』
『なにもおかしくなんてないよ』
『で、でも……』
『ね?』
『う、うん』
『でしょ! それじゃあ早くはじめましょ!』
あぁ、完全に思い出した。思い出せなかったのは、忘れていたからじゃない。自分で忘れようとしたからだ。
小さい頃よく一緒に遊んでいた、横で悶えている妖怪は__
____同性愛者だ。
俺は明美とのおままごとでは、全てお母さんの役だった。明美の方もまた、全てお母さん役だった。
それが始まりで、俺たちが小学校低学年の頃には明美は同性を意識し始めていたように思える。
幼少期から既にそこまでの片鱗を見せつけていたのだ。彼女は俺が引っ越す寸前には、最早完全に異性などアウトオブ眼中だった。
だが、彼女が同性愛者だと知るものは、恐らく俺の他にはいなかっただろう。それはひとえに彼女のスペックが高く、普段は普通の少女の皮を被っていたことも大きな要因の一つではある。しかし、だとすれば何故、彼女が同性愛者だと俺が知っているのか、彼女のスペックであれば俺に性癖を隠し通す事など造作もなかっただろう。
彼女の性癖を俺が知っている理由、それは__
「あぁっ、その顔、やぁっと思い出してくれたんだ♪ もう遅いじゃない__怪盗さん?」
それは、ただ単純に彼女が俺の弱みを握っているからに他ならない。
「ふふっ、ここでいつまでも突っ立ていても仕方ないし、早く行きましょ!」
俺の学園生活が勝ち組といったな。訂正しよう、どうやら俺の学園生活は始まる前から詰んでいるようだ。
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更新は不定期になると思いますが、なるべく早く更新出来るよう頑張ります!