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そうやって笑ってくれるのなら。



「酷いのじゃ酷いのじゃ酷いのじゃ!」


 屋敷へと返ってきた俺を迎えたロリ天使は暴れていた。


「分かったから叩くのはやめてくれよ」


 半分涙目になってるから本当にヒヤヒヤする。

 このまま泣き出したら冗談抜きに死ぬ。


 彼女の泣き声が本物なのはここにいる誰もが思い知った。


 それは国家すら壊滅させるほどなのだから。


「なんであんな嘘をついたのじゃ!」


「そうするしかなかったんだよ。お菓子あげるから許してくれ」


 俺はポイントで交換したシュークリームでなんとか落ち着かせようとする。


「フラフィーも、頑張った」


 そうするとすかさずフラフィーが口を挟む。


「お父様、一仕事を終えたメイドはお茶菓子を嗜むのがルールだとユイカ様に教わりました」


「テテ、おまえまでっ」


「いいんじゃないですか、たまにはこういうのも」


「ウチも久し振りに美味しいケーキが食べたいかな」


「はぁ……。いいよ、好きなの食べればいいじゃん。ポイントもありえないほど手に入れたし」


 俺が許可を出すと女子組はキャーキャー言いながらお茶会の準備をし始めた。


「吾輩はそんなのでは騙されないのじゃ」


 プンッと頬を膨らませたシロだが俺の手のひらに乗るシュークリームから視線は外せないらしい。


「分かった分かった」


 俺は呆れながらシュークリームをむりやりシロの口に突っ込む。


「んぐっ、べ、べひゅにこのくりゃい、んぐっ、おいひくほも、んぐっ、なんほも、ないのら!」


 満面の笑みでシュークリームを頬張るシロが何を言っているかは分からない。


 こんな幼女が国を落とすんだから怖いよなぁ……。


 神聖国は小国だ。

 神から授かったという七つの神器を持つ七聖典率いる聖軍が強く、帝国からの侵攻に抗えていたらしい。


 それでも帝国に攻め入るほどの国力もなく、防戦一方が続いていた。


 土地も広くなく、首都は石造りの高層型で人口が密集していたのもシロに滅された原因だ。


 俺はそっとスマホを覗き、自分のステータスを確認した。



 名前:ケイ

 種族:人間

 職業:召喚師

 所属:

 加護:

 字名:最弱の魔王候補

 称号:転生者


 戦闘:6249

 資金:36428ゴールド

 支配:2517


 総合:42153




 桁がおかしいじゃないかと不安になるゴールド量は、それだけの人間を殺したという証拠だ。


 勇者を殺す方法。


 強すぎて倒せないのなら、倒せるほどまで弱くすればいい。

 それは小学生でも分かる簡単な話だ。


 簡単に思いつくのと、それを実行できるかとは別の問題だが。


 元々ウィスパーレイヴンの姫は泣くと群れを壊滅させてしまうほどの泣き声を持っていた。

 群れで行動し、常に密集しているとはいえ、それでも壊滅させてしまうのだ。


 だから家来の黒いウィスパーレイヴンは姫を泣かせないように世話をする。


 彼らもかなり死んでしまったからまた補充しないとな。


「おかわりをよこせ!」


 偉そうにクリームを口につけたシロが手を差し出してくる。

 彼女の喉元は魔巧機化され、鈍い銀色に光っていた。


「はいはい」


 俺は呆れながらに追加のシュークリームを出し渡す。背中で服の裾を引っ張るフラフィーに渡すのも忘れない。


 《拡声機構・喉》という魔巧機化した喉から発する声を大きくするユイカさんの能力だ。


 それで彼女の泣き声を大きくさせた。


 しかし、それだけでは首都一つは落とせなかっただろう。


 《反響機構・翼》。


 これは家来のウィスパーレイヴン達に与えた能力だ。


 魔巧機化した翼に反響機能を付与して、翼に伝わった音を指定方向に反射させることができる。


 ただ、欠点があった。


 姫であるウィスパーレイヴンの声に耐えられるのはその本人だけ。


 家来であるウィスパーレイヴンだろうと例外ではなく、シロの泣き声を聞けば死ぬ。


 シロの泣き声が響き渡った神聖国の空は、濡羽色に包まれたと思ったらタイルが剥がれ落ちていくかのようにボロボロと青空が広がっていく光景になっていただろう。


「本当に良かったんですか、センパイ」


「え、あ、なにが?」


 気づけば棒立ちになっていたのか、いつのまにか傍にいたトモが話しかけてくるが何のことを言ってるのかわからなかった。


「いえ……なんだか考え事してるようでしたので」


「……勇者を殺したことは後悔してないよ」


「そっちもですけど、神聖国……でしたっけ」


「神聖国だって元々潰すつもりだったし」


「え!? そうなんですか!?」


「ああ。リアから南の城塞都市が潰されたって聞いた時あたりから、いつかは戦わなくちゃなとは思ってたから、どうやって倒そうかは考えていたんだ」


 レッドスライムを量産して街を火攻めにしたりとか。

 石造りの街だって聞いて断念したけど。


「知りませんでした……」


「言ってなかったけ?」


 てっきり知っているものかと。


「言ってません。センパイはそうやって一人で勝手に抱え込むんですから」


「悪かったって。これからはちゃんと言うようにするからさ」


「ほんとですか?」


「ほんとほんと」


 こちらの顔を除きこできたトモに笑ってこたえる。


「ほら、せっかくのお茶会だ。楽しもうぜ」


 俺はそう言ってトモの手を引っ張った。

 未だに疑念は多いけれど、今はこの時間さえあればいい。



第三章完結です。


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