どんな犠牲であろうとも、勝つためには仕方のないことだ。
「シロちゃんとフラフィーちゃんを魔巧機化なんてさせないかな!」
食堂にユイカさんの声が響く。
「そんな甘いこと言ってる場合じゃないって知ってるだろ!」
「甘いことじゃないっ! これを曲げたら人間失格かな!」
彼女の言葉に噛み付くように吐いた言葉は勢いを増して返された。
「そうしねーとみんな死ぬんだよ! 死んじまったら人間もクソもあるかよ!」
「なら逃げれば良いかな!」
「それはしないって決めた!」
「そんな……ワガママ……っ!」
ユイカさんが何かを堪えるように必死に唇を噛む。
「そもそも逃げるったってどこに!?」
「それは……神聖国から離れる形になるから北……」
「その先でまた光の勇者みたく強い奴に狙われたら?」
少なくともこの世界には100人の勇者がいるんだ。
そこから何人か死んだりしてるかもしれないが、それでも半数以上は生きている。
誰も彼もがチート持ちだ。
他にも強い奴は絶対にいる。
「それは……」
「また逃げるのか? 俺たちだけならまだしも、ユイカさんは村の人達だって連れてくでしょ」
自分でも語気が強くなっているのが分かった。
「…………」
押し黙ってしまったユイカさんを見て無理やり気持ちを落ち着かせる。
「フラフィー、強くなりたい」
食堂にいる誰もが口を噤んでいる中、空気を読まないのか読めないのか分からないフラフィーが口を開いた。
俺的にはありがたいけど。
「でもっ……」
本人の希望であろうとユイカさんは食い下がる。
「ユイカさんだって分かってるでしょ。フラフィーを強くしない限り勝てないって」
「そうかもしれないけど……他に方法が……」
俯いて右手を左肘に当てるユイカさんは必死に代案を考えようとしていた。
それでもないものはない。
俺だって色々考えたんだ。
「ない。この作戦があの勇者を倒す唯一の方法だ」
俺はハッキリと言った。
「で、でも……」
いまだに抵抗するユイカさんにフラフィーが追い打ちをかける。
「フラフィー、強くなりたい」
それは先ほどと同じ言葉だったが、だからこそ強い意志を感じた。
「で、でも、フラフィーちゃんはともかくシロちゃんまで魔巧機化する必要はないわよね?」
「ある。今回の作戦には必要不可欠だ」
むしろシロがいないと成功しないと言える。
こいつ、何だかんだ戦闘力が4桁あるのだ。
それにポイントがないからフラフィーもメイド組も強くできない。
ゴールドもあまりあるわけではないから、今回即戦力として呼べるのはこいつくらいなのだ。
「吾輩のことか?」
名前が呼ばれたからか、この空気の中一人だけ昼ご飯を食べていたシロが顔をこちらへ向けた。
呑気なもんだ。
本当に今回の作戦をこいつなんかに任せて良いのか心配になってきた。
「ほ、本当に言ってるのかな?」
ユイカさんも同じことを感じているらしい。
「お前だって見ただろ、あの声の威力を」
苦戦した銀の騎士を一撃で倒したらしい声。
俺は見てないけど。
「確かにあの泣き声は凄かった……けどっ」
「それで勇者を倒せる気がしない?」
確かに銀の騎士も何かの加護で守られていた。
それは突破していたが、勇者の加護と比べたら月とスッポンほどの差があるだろう。
「そうかな」
彼女の言葉には説得されるまで絶対に引かないという意思がこもっていた。
「俺は光の勇者を倒す。これはもう決めたことだ」
だが、それは俺も同じこと。
「あの光の勇者を倒す方法。それはな……」
俺は全てを賭けた作戦を言葉に紡いだ。
***
「そんな作戦……ふざけないでほしいかな」
作戦を伝え終わった瞬間、ユイカさんはそう言った。
「でも、これしかない」
確かにふざけたかのような作戦だ。
でも、これなら勇者を倒せる。
「仮に上手くいったとしてと……犠牲が大きすぎる」
「そんなの関係ない!」
予想していたであろう反応だった。
「犠牲とか何とかいってる段階はすでに過ぎている。倒すか倒されるかだ」
「でもっ……」
「ついさっきアーマードライナが倒された。残り3匹だ。稼げる時間も限られてる」
俺は事実だけを伝えた。
卑怯だとは思うが、そうしなければならないのだ。
彼女の協力無くして作戦の成功はあり得ない。
「……本当にいいの? みんな死んじゃうんだよ?」
今だに迷いのあるユイカさんへ俺はゆっくり頷いた。
「構わない」
「分かったかな……」
彼女は諦めたかのような声を出す。
「……倒そうか、勇者」
「おう」