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戦略的撤退とはいうけどさ……。



「くそっ!」


 俺は目の前に置いてあった木製の机を蹴りつける。


「……ちょっと……物に当たらないでよ」


 リアが諭すように文句を言うが、彼女の声もどこか暗かった。


「なんなんだあいつは!?」


 突然現れた光の勇者。

 あいつはテテを殺し損ねた後、俺の使い魔を殺し回っていた。


 フラフィー並みの速さで動く勇者に対応できる個体なんておらず、殆どが蹂躙と言っていいほど一方的に殺されている。


「……バイタードラゴンでも倒せないんですか?」


「噛み付くことすらできねーよ」


 炎属性を割り振っていたダイナですら一方的にやられた。

 ダイナが噛み付こうとする前に首を落とされている。

 たとえ噛み付けたとしても勇者は加護で守られているらしく、ダメージもあまり期待できない。


 歯が立たないとはこの事だ。


「申し訳ございません、お父様。私がどうにかして倒せていればこんな事には」


 静寂が訪れるのを待っていたかのようにテテが口を開いた。


「……奴を倒せなかったのはテテのせいじゃない。生きて帰ってきただけで充分だ」


 むしろ勇者相手によく噛み付けたもんだ。


「ありがとうございます、お父様」


 丁寧に頭を下げるテテ。


「今って勇者はどうしてるんですか?」


 最近の溜まり場的な場所になってしまった感じのあるリアの書斎にあるソファに座ったトモが聞いてくる。


「勇者はアーマードライナのC班を追いかけて森の中に入っております。ここより北西あたりなので、ここらでしょう」


 ウィスパーレイヴンの情報を管理しているクロが中世レベルな雑すぎる地図で説明してくれた。


「だいぶ近づいてきたな」


 城塞都市での先頭から1日ほどしか経っていないのに、勇者はだいぶアルゼッドの街に近づいている。


 このペースならあと3日もしないでここまで到着してしまうのではないだろうか。


「アーマードライナが命掛けで逃げて時間を稼いでいますが、あと半刻も持たないでしょう」


 クロの言葉に頭が痛くなる。


 どうすればいい。

 城塞都市ラルカスはほぼ壊滅。

 住人なんかは殺してないらしいが、歯向かった敵の盗賊なんかは皆殺しだった。


 このままいけば国道を通ってこの街にも訪れるだろう。


 奴が来た神聖国は南側だし、まっすぐ帰ってはくれないはず。

 神聖国に帰るために街道を使えば、中継地点的存在のこの街は避けれない。


「バイタードラゴンはあと3匹か……」


 おかしいな。

 バイタードラゴンは13匹ほど居たはずなんだが……。


 たった1日で殺されてしまったのか。


 幸いなのはグレイウルフの被害が少ないと言う事だろうか。

 大きいから狙われるのはしょうがないと思うが、アーマードライナやバイタードラゴンに被害が集中した。


「我々は優秀ですから」


 テテがここぞとばかりに自慢する。


 だから人の心を勝手に読むな。


「とりあえずバイタードラゴンはこっちに向かわせよう」


「そうね。勇者を倒すにしても倒さないにしても、あの強力な咬合力を囮にするなんてもったいないかな」


 アーマードライナの突破力も強いが、彼らの攻撃は勇者相手には効かないだろう。


 グレイウルフを囮にしようにもアーマードライナを狙ってしまってるからどうしようもないし、このままアーマードライナには囮になってもらうしかない。


 アーマードライナの残りは7体。

 40体も居たアーマードライナが残りはこんだけ。


「どうするんですか……センパイ」


 トモの瞳がこちらを見つめてきた。


 長めなまつ毛の園から覗く、宝石のような目。


「そりゃたぉ……」


 倒すといいかけて、言葉が詰まる。


 本当に戦っていいのか?


 相手はあの勇者だぞ?


 俺は昨日から何度も見た勇者のプロフィールを開いた。



 名前:アキラ

 種族:人間

 職業:聖剣士

 所属:アルドラード神聖国

 加護:光神フィシスの心臓

 字名:光の勇者

 称号:転生者


 戦闘:9724

 資金:73ゴールド

 支配:3421


 総合:19258




 戦闘力が1万を超えそうだ。


 なんだこの化け物。


 フザケンナよ。


 勝てるわけない。


「戦闘力が倍の相手」を倒すために「敵の戦闘力の半分の味方二人」を用意しても勝てない可能性の方が高いのだ。


 そもそも今の俺には半分まで行けることさえ厳しいだろう。


 フラフィーですら戦闘力は2000に届かないのに。

 特にフラフィーはスピードに性能を極振りしてるから、前回戦闘した時はなんとかなっていたらしいが、相手を傷つけられるほどの火力が出ないならどんなに早くても意味がない。


「フラフィー、強いもん」


 椅子に座って足を揺らしていたフラフィーが不満げに口を尖らせる。


「それは分かってるよ……」


 使い方次第ということだ。


 俺はフラフィーの頭を撫でながらこれからのことを考えた。


 もし勇者と戦って負けたら?


 ここにいるみんなが殺されてしまうかもしれない。


 逃げようと思えば逃げれるだろう。

 こちらの有利な点は顔がバレていないということだから。


 もしかしたらどんな能力者なのかも分かっていない可能性がある。


 しかし、しかし、しかし……。


「センパイ?」


 不安そうにするトモの声にハッと我に帰った。


「なんでもない……」


 俺は頭を振って部屋の扉へと向かう。


「少し考えさせてくれ」


 そう言って扉を開くと後ろから声をかけられた。


「時間はないよ。今も仲間が命がけで時間を作ってるかな」


 ユイカさんの冷たいようでなぜか感謝したくなるような言葉。


「分かってる。好機逸すべからず……だからね」


「ならよし」


 聞こえてくる嬉しそうな声に、俺はこの人を仲間にしてよかったなと思った。



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