見飽きた空は早く流れる。
「放てぇぇぇ!!」
野太い号令を追いかけるように投石機が作動した。
数メートルの岩石が壊されたばかりの門へと飛来し、姿を現した巨大な魔物を押しつぶす。
しかし、巨大な体躯を硬い皮膚で覆った化け物は倒れた仲間の死骸を乗り越えて獲物へと襲いかかった。
「うわああああ!」
木材で作られたバリケードはいとも容易く破壊され、侵入した魔物は暴れまわる。
命がけで剣を振りかざしても血が出ることはなく、火を恐れることもない。
外壁街を蹂躙した時のようなスピードはないが、魔物の軍団は確実に城塞都市の中心へと進んでいた。
「援軍はまだか!? 三頭竜様はどこにいるんだ!」
弓も剣も刺さらない怪物に立ち向かう人間は死の恐怖を感じなければいけない。
それでも盗賊が立ち向かえていたのはイチヤから与えられていたスキルの効果だろう。
死を恐れず、人並み外れた力を振るった。
化け物に蹂躙されている事実は変わらないが、数では圧倒的に優っていると理解している。
そこは彼等の陣地であり、背中にはたくさんの仲間がいると分かっていた。
だから多大な犠牲を出しながらも敵の目を貫き、膝を砕き、腹を裂く。
「堪えろ! 必ず援軍は来る! 今はただ遅れているだけだ!」
指揮官は声を荒げて叫んでいた。
自身は見捨てられているのではないだろうかと考えていながらも、それを仲間に悟られぬように一心不乱に。
敵が外壁街を壊しながら向かって来ていた時から鐘は鳴り続けている。
「1匹でも多く敵を殺すんだ!!」
すぐに援軍は来るはず。
そう言い聞かせて味方を敵へと送り出した。
新たに門から顔を出した巨大なドラゴンのような怪物が見えてもなお。
「殺せ! これ以上下がれる場所なんかないぞ!」
逃げる場所なんてないのだから。
生きる為には目の前の敵を殺すしかない。
人間であろうと、魔物であろうと。
***
アルゼッドの屋敷の一室で、俺とトモとリア、そしてユイカさんはヤキモキしながら座っていた。
「センパイ、ほんとに行かなくても良かったんですか?」
「……魔王ってのは城から出ないものなんだよ」
トモの言いたいことはよく分かる。
今回、俺はアルゼッドの街に残る事にした。
アーマードライナを先頭に突撃させ、ラルカスの内壁門を破壊。
その後、開いた門からアーマードライナの他にバイタードラゴンとグレイウルフを突入させて暴れさせて敵を集める。
そこに俺たちがいる必要はない。
命令はここからでも出せるし、危険が増えるだけだ。
「最悪私達が生きていれば突撃隊が全滅しても負けた事にはならないかな」
トモに説明するように口を開いたユイカさん。
「あくまで突撃隊は陽動が目的だしな」
今回の作戦の本命は敵の頭。
転生者であるイチヤを倒すのがメインである。
その為にすでにフラフィーとテテ、ツツ、トトが行動していた。
4人全員には白ポイントを割り振ってさらに一段階強化している。
フラフィーなんか総ポイント320の贅沢具合だ。
下手に分散させるより、戦力は一点に集中させて敵を倒すことにした。
俺は改めてスマホに表示されているステータス画面を眺める。
名前:フラフィー
種族:セイクリッドラピッドラビット
属性:光、水
所属:ケイ
称号:聖なる召喚獣
戦闘:1642
支配:0
総合:2493
フラフィーに関しては戦闘力が1000を超えた。
単純な戦闘力を考えると赤や青のポイントを振って魔巧機化させたバイタードラゴンの方が高い。
尻尾を武器化出来るようになったバイタードラゴンは前と後ろで攻撃手段が2倍になり、暴れると手をつけられなくなった。
前回の戦いではバイタードラゴンの足元に張り付かれると嚙みつけないという弱点があったが、尻尾を武器とすることでそれを克服した。
フラフィーはまだ魔巧機化していない。
ユイカさんの強い要望でそれはできないとだけ強く断られた。
それでも魔巧機化したバイタードラゴンに迫る戦闘力を持っているというわけだ。
攻撃する際に光を纏ったりとよく分からないが強いことだけは確かである。
種族名に関しては自分で決めれたけど前回と同じにした。
名前:テテ
種族:セイクリッドグレイウルフ
属性:光、土
所属:ケイ
称号:聖なる召喚獣
戦闘:982
支配:0
総合:1873
ウルフメイド組も白が160ポイントを超えたことで「聖なる」を冠するようになった。
本人たちの強い希望で脚を魔巧機化する事でフラフィーには劣らずとも高い戦闘力を有している。
両腕はそのままでお願いしますとのことだ。
イチヤの現在の戦闘力は200ちょい。
テテ1人でも十分に倒せるだろう。
それでも道中には白銀の騎士がまだいるかもしれないし、それ以上に強い奴がいても不思議ではない。
でも、イチヤが死ねば能力が切れるのではないかと考えている。
だから強い奴は出来るだけ無視して進み、イチヤだけを手早く倒すことだけをしっかりと言い聞かせた。
フラフィーがちゃんと出来るか心配だけど。
なんだかんだこれまでしっかりと命令をこなして来た彼女だ。
今回もうまくやってくれると信じている。
「ヘマするなよ……」
ポツリと呟いた言葉はみんなの心境そのままだったのか、各々が心配するような顔をした。
俺はいつもと変わらぬ西の空へと視線を向ける。
流れるホウキ雲は悠々と、そこには見飽きた空があるのみだった。
第三章決着に向けて走り出します。
この週末をうまく利用して執筆しますよ・・・。
数日は投稿が続けられる・・・はずです!たぶん!