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ざまあみろと言いたくなる。



 元は領主の書斎として使われていた部屋は、現在リアが街のあれこれの問題やらを検討したり、羊皮紙の文書に対処したりするために使われている。


「ご主人様、ララン村にいた盗賊の制圧が完了しました」


 そんな部屋にリアだけではなく、俺とトモ、ユイカさんに使い魔組のフラフィーからテテ、ツツ、トトを始め、シロとクロも集まっていた。


「報告サンキュー、クロ」


「ぬしさまー。ぬしさまー。今回も吾輩の手下が上手く働いたんじゃぞ!」


 俺が扉側で立って報告をしたクロに礼を言うと、手柄を主張したのはシロだった。


「ああ。お前は何もしてないけどな」


「ぬー! 頭くらい撫でてくれてもいいじゃろ!」


 俺がありのままを伝えると人の右膝に乗ったシロが暴れる。


「勝手に撫でられるの、ダメ」


 そんなシロに対抗するのがフラフィーだ。


 だからなんで対抗しようとするんだお前は。しかも人の左膝の上で。


「おぬしは黙ってろ長耳!」


 シロもなんでふっかけるんだ!


「うるさいのは泣き虫鳥のほう」


「最近は泣いとらんわ!」


「人の膝の上で暴れるんじゃねぇ!」


 毎日起こるようになったこんなやり取りだが、変わったことといえばトモの態度だ。


「どうかしましたか、センパイ」


 トモが倒れた後、なんやかんや色々と思いの丈をぶつけてしまったが、基本的に周りが騒ぐことはなかった。


 それから1週間弱が経った現在、以前だとシロやフラフィーがまとわりつくたんびに機嫌が悪くなっていたトモは、今は和かにこちらを眺めるだけだ。


「い、いや。なんでもない」


 目が合ってしまって微妙に気まずくなった俺はトモからそっと顔を背ける。


「お父様、イチャつくのは夜だけにしてくださいまし」


 そんな俺の行為を咎めたのは、いつもと変わらない茶色い生地のメイド服に身を包んだテテだった。


「イチャついてねーよ!」


 メイドのあまりにもやめてほしい茶化し方に耐えきれず、声を返してしまう。


「中高生ってみんなそう言う。恥ずかしい年頃かな」


「死ねばいいのよ」


 なぜか横から聞こえてきたのは批判の声。


「2人とも祝福してくれるって言ったよね!?」


 俺はトモと《そう言う関係》になった後、最初にその事を話したのは今ほど毒を吐いたリアとユイカさんだ。


 2人はその時、それぞれにそれぞれが「おめでとう」と口にしてくれたはずなのだが……。


「遅すぎるのよ! くっつくなら最初からくっついときなさい!」


 なぜか怒るリア。


 最近仕事ばかりしてるから疲れているのだろうか。

 そんな事を考えながら大人であるユイカさんにチラリと視線を向けるが……。


「普段は小学生を相手にしてたから気にしてなかったけど、目の前であんなの見せられたらウチも堪らないかな」


 こちらもそんな事を言う。


「そんなにイチャイチャしてないだろ! なぁトモ!」


「そうですよ! 私だって本当はもっと! センパイと……その……イチャイチャ……したいですし……」


 なぜか言葉尻から段々と恥ずかしげに俯き始めていくトモ。


「こういう事を言ってるのよ! あああ!」


 トモの言葉になぜかダメージを受けるリア。


「リアが頑張ってることは、ウチがちゃんと知ってるかな。リアは頑張ってる」


「ゆいかぁ……」


 リアが隣に座っていたユイカさんの胸へと泣きつく。泣いてないけど。


「マスター、さいてー」


「主様がおなごを泣かしたのじゃ!」


 なぜか使い魔にまで罵倒される始末。


「お父様は十分にイチャつかれておりますよ」


 食事系全般に定評の付いてきた赤いメイド服のトトがお茶を淹れながら言った。


「いやいや! これはトモがそうであって俺がイチャついてるわけじゃないじゃん!」


 それでも俺は反論をする。


「……よく言うわよ」


 リアがユイカさんに抱きつきながらも噛み付いてきた。


「俺のどこがイチャついてるんだよ。言ってみろよ」


 ここで引くような俺じゃない。

 俺は嫁が出来たくらいでイチャつくような軽い男では断じてない!


「……今日の朝ごはん」


 少し考えてからリアが口にした回答。


「あっ。あれは酷かったかな」


 それにユイカさんも同意する。


「朝食?」


 俺が朝の食堂でご飯を食べていた時のことを思い出そうとする前に、テテとツツがさっと動いた。


「センパイ、マトの実は苦手でしたよね」


 無駄にトモそっくりな口調で喋るテテ。あくまでしゃべっているのはテテだ。


「ん? ああ」


 ツツも同様に抹茶色のメイド服を揺らしながら俺にそっくりな口調を操る。


「貰ってもいいですか?」


 そう言ってトモがするような女子っぽい動きまでテテは真似した。


「ほら」


 普段はほぼ無表情な癖にこんな時だけ顔の筋肉をうごしすツツが、ミニトマト的な野菜をフォークで刺してテテの口元まで動かす。


「……んっ。おいひいでふ」


 ツツが差し出した仮想フォークにテテは噛り付いてから美味しそうに左手を頬に当てた。


 ……動きがトモっぽすぎる。


「お返しに私のベーコンあげます。口開けてくだーー」


「もうやめてえええ! 分かったから! 俺の負けでいいからやめてくれ!」


 物凄いほどに心当たりのあるやり取りに俺の羞恥心が爆発寸前だった。


 なんだこのバカップル!?

 壁を殴らせてくれええええ!!!


「美味しいですか、センパイ?」


「俺は昨日のトモが作ってくれた料理の方が好きだな」


 俺が途絶え始めてもなお繰り広げられる過去の闇。


「うがああああああ!!」


 俺は知らぬ間にもイチャついていたのか。


 世に生きるバカップル達はこんな想いを平気な顔で受け止めながら生きているのか。

 あいつら……実は最強なんじゃねーの。


 今ほど窓から飛び降りたいと思ったことはない。


「いい気味よ。ざまあみろ」



誰か壁を・・・。

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