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絆は重く圧し掛かり、乙女はそれでも無茶をする。



 私はテテを引き連れて人のいない廊下をよろめきながらも歩きつづけた。

 眠くてだるくて手放してしまいそうな意識を保つために頭でグルグルと回っていた言葉を口にする。


「役に立たなきゃ」


 センパイの傍にずっと置いてもらえるようになるためにも、私はセンパイの役に立たなくちゃならないんだ。


 頭が痛いとか、体がだるいとか、視界がぼんやりするとか関係ない。


 ただ手を伸ばして一言唱えるだけでいいんだから。


「お母様」


 後ろからついてくるテテが私のことを呼ぶが、足を止めることなく部屋へと向かう。


「大丈夫だから、大丈夫」


「そうですか。では、温かいお飲み物だけでもご用意いたしましょう」


 私の言葉にテテはすぐに足を止めて、軽くお辞儀をしてから踵をかえした。


「……ありがと」


 誰もいなくなった廊下で呟いた私の感謝の気持ちはきっとテテには聞こえていないだろう。


 部屋に到着すると、室内は相変わらず薄暗く閉め切られていて、部屋中獣だらけだった。

 でも、まずはグレイウルフやウィスパーレイヴンではなく大型のほうからやらなければならない。


 部屋をそのまま抜け、扉から裏庭へと出る。


 外で待っていたのは新たに召喚した10体のバイタードラゴンに40体のアーマードライナ。


 アーマードライナはセンパイが新しく取得したスキルで召喚した大型のサイだ。


 全身を鎧のような皮に包まれている高さだけでも私より大きいサイ。

 なによりも特徴的なのは角。

 腕よりも太く長い角に突かれたならば、人間なんかひとたまりもないだろう。


 バイタードラゴンと同じく1000ポイントで交換した使い魔で、中型の魔石を使わないと呼び出せないとか。

 よくわからないが、この子たちの説明をするセンパイはいつもよりテンションが高く楽しそうだった。


 私といるとあんなにはしゃいだりしないのに。


 そんなに貧乳がいいんですか。


「センパイは私のことどう思ってるんですか……」


 アーマードライナの堅い肌に触れると荒い鼻息が聞こえてきた。


「私みたいな年下よりも、落ち着いた人が好きなんですか……」


 全体的に武骨なアーマードライナの瞳は深い深い深緑の色をしている。

 覗き込んだ瞳にはクマの酷い女の子が歪んで映っていた。


「分かってるよ、分かってるってば」


 サイに話しかけても答えなんか返ってこない。

 相手の気持ちは自分が聞かなきゃいけないんだ。


 分かってるけど、それが聞けるのならこんなに悩んでなんかいない。


 私は今までと同じように息を吸い込み、言葉を吐き出す。


「絆刻印」


 ここにいる使い魔を全部全部、絆を授け終わったら、センパイはほめてくれるかな。

 フラフィーとかシロにそうするように、私の頭を撫でてくれるかな。


 おつかれって言ってほしいな。


「絆刻印」


 新しく刻印を授けると頭痛が走る。

 頭痛が収まらないうちに刻印を授けられたアーマードライナは立ち去り、目の前には次のアーマードライナが並んでいた。


「絆刻印」


 スキル名を唱えるたびに体の力が抜かれる気がする。

 私は何でこんなことをしてるんだろう。


 これまでの人生でくじけそうになったことは何度もある、

 声優になるために行った特訓のほうが何倍もつらかったと思う。


 だけどあれは声優になりたいと強い意志があったからだ。

 やらなければならないことだと分かっていたから成し遂げられた。


「絆刻印」


 分かっている。

 ただただセンパイの役に立ちたいからこうやって使い魔にスキルを使い続けているんだ。

 

 これをやればセンパイが喜んでくれるはず。

 

 分かっている。


 ただ、絆を増やすたびにそれが重く強く圧し掛かってくるだけだ。


「絆刻印」


 それでも私は刻印を刻み続けなければ。


 センパイと一緒にいるためにも。


 役に立たなければいけないんだ。


「絆刻印」


 大丈夫、まだできる。


「絆刻印」


 大丈夫、私は役に立てる。


「絆刻印」


 センパイだって何十回って使い魔を召喚している。

 ユイカさんだって使い魔全員にスキルを使うはずなんだ。


 大丈夫、大丈夫……。


「絆刻印」


 突然、ぼやけていた視界が黒く染まった。


 天と地の感覚が無くなって、重力の楔さえ解き放ったかのような浮遊感にに包まれた瞬間、鈍い音がする。


「お母様!」


 どこか遠くから聞こえてくるテテの声を聞いて、自分が倒れたのだと理解した。

 だけど、理解できたからとなにかできるわけでもなく、力が入らない体からぼんやりとした意識が離れていくのにあまり時間はかからずに、安寧とした泥沼へと沈んでいく。



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