頭が痛いとなにもかもを放り出したくなる。
空は茜色に染まり、鴉が鳴き声が重なり合う。
屋敷の食堂には最低限の蝋燭だけに火がともされていて、豪勢とは言えない食事が運び込まれていた。
「それじゃあチャジャー部隊を先頭にするとして、隙間を開けずに数体セットで突っ込ませるのと一定間隔で広く突っ込ませるのなら?」
センパイがフォークを揺らすながら問いかけた言葉にユイカがメガネをかけなおしながら答えた。
「やっぱり数体ずつくっつけたほうがいいかな。突破力をさらに磨きをかけて一点集中にするほうがいいかも」
「確かにそうだな」
私がよろめく足で向かった食堂ではセンパイとユイカさんがあれやこれやと口論を繰り返していた。
ただ二人の間に漂う雰囲気に険悪な感じはなく、どこか楽し気にすら見えてしまう。
私が暗い部屋でひたすら刻印を授けてる間、センパイはずっとああしていたのかな。
「お、トモ……って、めっちゃ疲れた顔してるな」
テテが開いてくれた食堂の両扉の前で立ちすくしていた私に気づいたセンパイが声をかけてくれるも、その顔がすぐに呆れた顔になった。
「アナグマみたいな顔をしてるのじゃ!」
センパイに抱きついたシロが嬉しそうな声をあげる。
「アンデット」
フラフィーがポツリと呟いた。
そんなにクマが酷いのだろうか。鏡もないから分からない。
ぼやける視線をテテに向けるが、テテは頭を横に振るだけだ。
「……朝からずっとですよ、ずっと。もういやです」
自分に与えられた仕事の愚痴を言いながら、食堂の真ん中に置かれたマホガニーっぽいダイニングテーブルへと進む。
私ではセンパイの考えていることに意見できることはあまりない。
それが分かっているからできることをしているだけだ。
だから不満があってもやめるわけにはいかない。
回らない頭でセンパイの隣に座ろうと入り口からダイニングテーブルを回りこんだのに、センパイの右隣にはフラフィー、左隣にはシロとすでに席は埋まっていた。
「トモの絆刻印が全員につけられ次第に作戦を開始するから、なるべく早く頼む」
今までならセンパイの頼みとあったら喜んで受けていたのに、今は気分が憂鬱になっていくだけだ。
「センパイはいいじゃないですか、いくら召喚しても疲れないんですから」
しょうがなくシロから2席離れたダイニングテーブルの角に座りながら答えた言葉は語気が強くなっていた。
「それはそうだが……すまん。今日召喚した分だけでいいから」
センパイは思うところがあるのか反論することはなく謝る。
「今日召喚した分だけってなんですか!? だけって! 今日だけでも50体近く召喚しましたよね!?」
口元へ運ぼうとしていた果実水を入れたコップを机に強く戻すと思いのほか大きな音が食堂に響いた。
銀製のコップはそれで割れることはなかったが、世界は蝋燭の揺れる音が聞こえそうなほどに静かになる。
センパイに悪気があるわけでもないのに、つい苛立ってしまった。
私しかできないのだから私がしなきゃならないことなのに。
「敵もどんどん強くなっていくかな。どうにかできるうちに倒さないといけないの」
そんな静寂を破ったのはユイカさんだった。
ショートカットに切りそろえた髪を揺らしながら冷静にこちらを諭すように喋る口調はなんだか子供を相手にしているようで、自分がとても小さい存在に思えてくる。
小柄な体形に丸みなメガネが彼女のチャームポイントでありながら、知的な目と落ち着いた性格が謎の信頼を与える、そんな女性。
私にはない魅力を持っているのはすぐにわかる。
「……分かってます」
ひねり出すようにして口にした言葉を残して私は席を立った。
「お母様、お食事は……」
「いらないっ」
丁度ご飯を運んできたトトが私を止めようとするも、振り返ることなく食堂の扉を引いて部屋を出る。
もともとお腹がすいたから食堂にいったわけではない。
センパイと少しでも話せたら気分転換になるんじゃないかと思ったからいったんだ。
「トモっ」
後ろからセンパイの声が聞こえてきたが、私は何も答えずに扉から手を離した。
誰も支えなくなった扉が自らの自重で閉まるかと思ったが、重たい音がなる前にテテが扉を抑えて静かに閉じた。
「いくよっ」
私が絆刻印を授けていない使い魔たちが待つあの薄暗い部屋に向かうと、テテは無言で付いてくる。
何を言うでもなく、ただただ付いてきてくれた。
毎日投稿できますとか言った数話後には1週間近く投稿を止めたのは誰ですか・・・。自分ですか、そうですか。
ほんとうにごめんなさい!
ただ待たせた分だけ面白くはなっているはずです!
ここから盛り上がっていく予定なのでこれからも待たせてしまうことがあるかもしれませんが温かい目で見守りつつ楽しんでください!