先生って唐突にギャグを言うよね。
「支配されてるって……軍の人達みたいに?」
「そう。イチヤの能力は人を支配する力だ。たぶん効果は言葉の通じる相手なら誰にだって聞くはずだ」
「ウチらにも?」
「たぶん」
察しのいい彼女は俺が危惧していたことをすぐに考え付いていた。
「この街で戦ったアマンって銀色をした騎士は転生者を探していた。どうやらイチヤが探しているらしいんだ」
「無理やり仲間にするために?」
「ああ。最初は転生者を見つけたところで無理やり連れていったら仲間になんかなるはずないと思っていたんだけど違ったんだ」
「イチヤは言葉を聞かせるだけでいい」
「転生者の意思なんて元々関係なかった。そういう力を持っているんだから」
「そういうことかな」
これでイチヤが倒さなくてはならない相手だと分かってくれたはずだ。
あいつは早く倒しておかなくてはならない。
もし他の転生者を彼が支配下に置いてしまって、さらに戦力を増やされてしまったら勝てる見込みが少なくなってしまう。
戦力として差がある今こそ戦うべきなのだ。
「勝てるの?」
「それを今から考えるんだ」
ユイカさんの質問に俺は即答した。
「リアから聞いた話だけど、城塞都市ラルカスは大森林の大樹国アドラスから侵攻を防ぐために建てられた都市で、大森林に面した西側には二重の壁があるらしいが、アルゼッドのある東側からの攻撃はあまり想定されてないらしく、壁はないんだ」
「つまりウチらからは攻めやすい場所ってことかな?」
「そうなる」
城壁の代わりに民家なんかがあるだろうが、そちらはあまり障害にはならないだろう。
「どうやって倒すつもりなの?」
「これもまだ仮定だが、バイタードラゴンや新しく大型獣を召喚して東からラルカスを攻める陽動作戦を展開して、敵の主力部隊を引き寄せてから少数で敵の本拠地に突入してイチヤだけを倒す」
「確かにイチヤ自身の戦闘力は低かったし、頭をたたくのは基本だね」
「敵には強いのがまだ何人かいるとおもう。銀の騎士もたぶん」
「そこでウチの出番ってわけかな」
「ああ、俺の使い魔を強くしてくれ」
「わかった」
ユイカさんは力強くうなずいてから自分のスマホを取り出した。緑色の意外と明るめの色だ。
「知ってると思うけどウチの能力は生き物を魔巧機化する力かな。部位や形なんかはスキルによって変えることができる」
「ゴールドはどのくらいもってる?」
「村が襲われたときに持っている分は全部使ったけど、そのあと君のパーティに入れてもらってから狩り組の倒した魔物から少しはたまったかな」
「400ゴールドくらいか」
「423ゴールドかな」
周辺の探索も兼ねて魔物狩りをさせているが、総数が50なんかを超えるとゴールドの貯まり方もかなり効率が良くなっている。
一日でこんなに手に入るんだからな。
ただやっぱり魔物は放っておいたら何もない場所から湧き出てくるなんてことはないらしく、生態系みたいのがあるらしい。
虐殺したらそれっきり、生態系はなくなり、次から狩れる生き物はいなくなる。
それでも狩るんだけどね。
今はそれだけポイントが欲しい。
後のことは後に考えよう。
とりあえずこれだけポイントがあればスキルが何個か選べるはずだ。
「問題はどう強化するかだね」
「魔巧機肢化で前足と後ろ足なんかは強化できるはず。だけど今持っているスキルは魔巧機化した四肢を銃か剣にしかできないから、使い魔には使えないかも」
「そのためのスキルをとらないとか」
俺がどうするか考えようとしたところに、ユイカさんが自分のスマホを向けてきた。
「魔巧機尾化なんてのどうだろう」
「尻尾か」
「これなら移動の邪魔にならないで、使い魔なら意外と尻尾を自由に動かせるから武器としても使えるはず」
「なるほど……」
陽動部隊の主力はバイタードラゴンだ。
暴れる彼らを止めることは難しいだろう。
ただし体が大きい分、遠距離からの攻撃に弱い。弓や投槍なんかで集中的に攻撃されたらいつかは死んでしまう。
なので、それを防ぐためにこちらも遠距離攻撃をできる使い魔が欲しい。
「俺もポイントには余裕があるから新しい種類の使い魔を増やしたりもできる。なにか作戦に有用そうな候補に思い当たりない?」
「使い魔って動物?」
「基本的にはそうだな。地球の動物とは特徴なんかが違ったりするけど」
「うーん、あんなドラゴンより強そうな動物に心当たりなんてないかな」
「別にバイタードラゴンより強くなくてもいい。作戦に使えるかどうかで考えるならば……熊とか虎はどうだろう」
「それだとバイタードラゴンを増やしたほうがいいと思う。熊や虎って怖いイメージがあるけど地球上の生物じゃ別に強いってわけじゃ……あっ」
「ん?」
「地球陸上生物で一番強いのは象なの」
「なら象か?」
「違うかな。さっきも言ったけど象を召喚するならそのゴールドでたくさんバイタードラゴンを出したほうがいいとおもう。でも、二番目に強い動物なら……」
ユイカさんは嬉しそうに踊る様に立ち上がった。
「サイは最強だよ!」
「お、おう」